真剣な喧嘩
防がれた炎撃が大地を震わせる。
火花が散る度に剣がキンキン悲鳴をあげる。
『ガロード! 爆発行けるよ!』
「あ? 俺様に聞くな、コイツとタイマン張ってんだ」
「でも魔法飛んできてるけど……?」
頻繁にスカーが魔法で妨害していた。
氷柱を突き上げ、土の塊を飛ばすなど。
リュウキという味方がいる事を気にもとめずに。
大半が少年の魔法で相殺されてしまい、破片しか残らない。
戦術はこちらと大差がないようだ。
「お前タイマンの意味も知らないでのうのうと生きてきたのか? 真剣な喧嘩って意味だ」
「そうだっけ」
「タイマンすら知らない女が仲間だったとはな」
剣がくっつくようにかち合い、鍔迫り合いに流れ込む。
「お前、なかなか強いな? 剣術を疎かにしてない奴は初めてだ」
「俺にはこれしかねえんだよ!」
リュウキは全力でガロードを押し飛ばし、渾身の突きを繰り出す。
「おっと……」
ガロードはいとも容易く避ける。
追撃の薙ぎ払いは大きく距離を取られて当たらない。
態勢を立て直したガロードが剣先を向けながらジリジリ歩み寄る。
「お前は魔法が使えたら良かったな」
大きく一歩を踏み込みながら放たれる神速の斬撃。
リュウキは見えない一閃に直感で剣を構える。
その瞬間、白い剣先が宙を舞った。
「なっ……」
折れた刃が地面に突き刺さる。
「お前の負けだ」
ガロードはそう言って土の剣を振り上げる。
――終わった。
リュウキは大きくバックステップを踏む。
それをガロードは逃さない。
しかし、二人の間に氷の柱が地面から姿を現して邪魔をする。
スカーの魔法に、ガロードは堪らず距離を取る。
『これ使え』
氷で出来た細身の剣がリュウキの足元に二本生える。
「助かる」
「オレはお前の事が分かるからな」
折れた剣を捨て、二本の氷を両手で握る。
本物の剣と違って軽い。
試しに目の前の氷柱を切りつける。
一撃で二つに割れ、その先でガロードがほくそ笑む。
「おもしろいやつだな」
「同感だ」
再び剣を交差させ、互いが剣撃の衝動に顔をしかめた。
リュウキは片手で対処しながら攻撃にも転じることができる二刀流。
攻撃を防がせて、その隙に左手で追撃を狙う。
武器が軽くなったこともあり、二倍以上の攻撃速度を獲得していた。
「くっ……」
剣先がガロードの腕を切り裂く。
「ガロード! 魔法どうしたらいいの!」
『黙れ、指示待ち人間が!!』
そう言って力任せに土の剣を振るう。
二本の剣で受け止めたリュウキが地面を鳴らしながら吹き飛ばされる。
「もう、出すからね!」
発動させまいとスカーが土の塊を少女の元に行かせる。
『ダメだよ』
少年が言葉を発するとスカーの魔法が無効化される。
魔法を発動させた少女が爆心地を指定する。
『弾けてね、隣の人』
その瞬間、リュウキとガロードが光に飲み込まれ、見えなくなっていく。
「ッ……!」
スカーは咄嗟に土の壁を自分とカロンに立て、現状できる対策を講じる。
耳をつんざく轟音。
焼けるような熱風。
顔を腕で覆い隠し、皮膚が赤くなるような温度の先にスカーは左手を向け続けた。
灼熱地獄の中で白い息を吐きながら。
爆発は徐々に収まっていく。
オーバーな魔力を吹き込まれた爆発魔法はイレギュラーな破壊力を誇っていた。
カロンはそれなりの防衛処置を取った上で満身創痍だった。
スカーも威力が収まったことに気づき、手を下ろす。
光が収まる先に二人の影。
ガロードは爆風をまともに受けてしまっていた。
膝をついたまま力尽き、粒子となって消えていく。
「が、ガロード!」
逆にリュウキは氷漬けにされた形で原型を留めていた。
『な……なんで』
少年は驚きを隠せなかった。
ただでさえ破壊力が桁違いの種類である爆発魔法。
暴走状態にも関わらず、仲間を守りきったのだ。
氷が溶かされるよりも早く膨大な魔力を注ぐ事ができないと成立しない。
少なくとも少年には不可能な芸当だった。
「リュウキ、出番だぞ」
スカーはそう言って氷を爆発魔法で吹き飛ばす。
「かはっ」
中から飛び出たリュウキが手をついて着地する。
肩で呼吸しながら二本の剣を拾い直す。
「あいつは……ダメだったのか」
リュウキは悔しそうに言葉を漏らす。
自分の力で倒したかったのだ。
「まあな」
「さっさと終わらせよう」
「ま、待て……僕は降伏する」
少年が両手を上げて戦意がないことを表現する。
「なんでよ! まだ戦えるでしょ!?」
それに気づいた少女が言葉を荒らげる。
「一番強いガロードが消えた、もう勝てないよ」
「強い? 私達の支援のお陰に決まってる!」
少女はそう言って「剣士なんてゴミなんだから!」と付け加えた。
「ガロードを吹き飛ばした君が言うの?」
少年は強い言葉で「敗因が仲間を貶すな」と反論する。
「うう……!」
「それに、敵の剣士が消えてもダメなんだ。銀髪の子が一人で守りきれる実力者だから」
そう言って少年は氷の短刀を取り出すと自身に突き刺す。
同時に粒子となって消えていった。
少女はその場にヘタレ込み、手で顔を覆った。
「……っ!」
唸るように鼻を鳴らして肩を震わせる。
言葉に傷ついたのか涙が頬を伝う。
そのまま、粒子となって消えていく。
『テストを終了します』
そう言えば、なんてチームなんだろう?
リュウキはアナウンスに耳を傾けた。
『勝者はチーム二人です』