高貴なお姉さん
後ろの奴らも足が早くてウザイ、全然逃げきれない。
そんなに報酬ってうまいのか?
『魔法で時間稼ぎとかできない?』
「クリエイトしましょうか」
「頼む」
カロンが何かしてる間に俺はコイツを起こさなきゃならない。
正直、魔法使って驚かせたら相手は退くはずなんだが。
「起きろ!」
「…………」
なぜかスカーの腕が俺の首に巻き付いた。
「……寝させて」
耳元でそう呟くと頬に柔らかいモノが触れる。
「はっ?」
「チューでゆるして」
「許すわけないだろ」
言っても無駄かもしれない。
「クリエイト発動します! 飛び越えてください」
カロンがそう言うと少し先の方で土の段差が地面から生える。
それをジャンプで飛び越える。
しかし、後ろの奴らが通る頃には成長して一枚の壁となる。
「すぐに壊せないと思うのでこの間に魔法で一気に駆けましょう」
「どうやって?」
「スキップしたらワタクシが風を起こします」
途中の茂みに入ってスキップを踏む。
地面に足が離れる瞬間、強い風が俺の背中を押した。
ただスキップしているだけなのに、走るよりもかなり早い。
「もっと着地を優しくしてくれないか、寝れん」
「走れない奴が文句言うな」
しばらく駆け抜けて、敵が追ってこないことに気づく。
「もう来ないか?」
「来ないでしょう」
『チームアレフが撃破されました』
三人以上追いかけてきたからな、そいつらが戦い始めてもおかしくない。
納得のいくアナウンスだった。
「ふう……」
立ち止まり、スカーを下ろす。
「やだやだ! 降りたくねえ!」
「知らん、降りろ」
俺の首にしがみついて強引に居座ろうとしてやがる。
「くそー」
しかし、その時点で労力を使うことに気づいたスカーは素直に降りてった。
「そういえば報酬ってなんでしょう?」
「この箱か」
こんな小さな箱に入る物って言ったら、アクセサリーくらいか。
「気になる! 開けちまえ!」
「戦い終わるまで開けたらダメかもしれねえだろ」
『チームレウスが撃破されました』
でも気にはなるなあ。
「だったら開けれないようにするっしょ」
悪魔のように囁くスカー。
「そうだな」
箱の上部分を持ち上げて中を見る。
そこには、綺麗な装飾が施された大きな宝石が一粒。
「なんだこれ」
細いチェーンを摘んでみるとネックレスみたいだった。
「綺麗ですね」
カロンがそんなことを言う。
こういうゴテゴテしたのは付けないから何処がいいのか、まるで分からんな。
「俺はいらねーなー、スカーも要らんだろ」
『いや、欲しいよ』
これはカロンにあげるか。
「えっ?」
……今、欲しいって言ったのか?
俺がいらないものを欲しいって?
「オレが欲しがったらダメ?」
「……二人で仲良く決めてくれ」
一旦ネックレスを箱に戻す。
「ワタクシの肌は鉱石負けしますので」
そう言ってカロンは『どうぞ』と手をスカーに向けた。
「良いのか!」
「綺麗ですが、苦しんで付けるものではないのです」
そう言って微笑むカロン。高貴なお姉さんって感じがした。
「今度からカロンちゃんの背中はオレが流すよ!」
「楽しみにしてます」
平和に決まったようで何よりだな。
「よし! オレに付けてくれ!」
「なんでだよ、自分で付けろ」
あんまり近づくとコイツは文句言ってくるからな。
「おねがいっ」
「ずるいなお前」
とうとうスカーは上目遣いを覚えていた。
コテっと可愛く首を傾げて赤い瞳を可愛くパチパチさせる。
俺がかわいいと思う事を全てやってきやがった。
「しょうがねえなー」
箱を開けようとしたその時だった。
強烈な轟音が左側から響き渡る。
遅れて強烈な風が周囲の木々を揺らした。
音の方向を見てみると黒い煙が空を汚している。
「な、なんだ?」
「爆発……いえ、爆裂魔法でしょう」
ばくれつ?
『チームフランソワが撃破されました』
『チームソナーが撃破されました』
『残り二チームとなりました、転送処理を行います』
その瞬間、さっきまで自然に覆われていた場所から広い空間に場面が切り替わる。
硬い土の地面が広がっていて、闘技場という言葉が相応しい。
転移したのは俺達だけじゃない、少し先に三人いる。
爆発魔法とやらで他のチームを吹き飛ばした奴らだ。
「ん?」
よく見てみると金髪の子が居た。
他の二人は……スカーを勧誘してた奴じゃねえか!
『僕達を蹴ったプリンセスが最後の敗北者? 皮肉かい?』
『ふん、どっちでもいい。俺様が勝つ』
金髪の子が何も言ってくれねー、気づいてないのかな?
「おーい」
手を振ってみると小さく振り返してくれた。
『仲良くすんな』
不意に、スカーが小声でそんな事を言う。
確かにアイツらは結託? してるから仲が良さそう。
連携プレイなら俺達の方が絶対に上だけどな!
「金髪、あれはお前のダチか?」
「だよ」
「はは、そうか」
男は右手から土の剣をクリエイトする。
『申し訳ない事をしちまうかもな』
そう言って一気にフィールドを駆け始め、俺と目が合った瞬間、一直線に距離を詰める。
「カバー頼む」
戦況を揺るがしかねない存在に俺も剣を抜く。
「分かりました!」
一瞬だけ後ろを見て、走りながら右手の剣を掲げる。
それに気づいたスカーが、剣に向けて火球を放った。
『フレイムソード』
炎に抱かれた剣を強く握り、男と刃を交わす。
『魔力なしで相手にしてやるよ』