魔力なしで相手にしてやるよ
轟音と共に周辺が揺れる。
『誰かが強力な魔法を使ったみたいです……!』
フラフラっと倒れそうになるスカーを後ろから支えた。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ」
地震が終わるまでしばらく待ち、前に進む。
『飛び出せー!』
その瞬間、草の中から人影が飛び出した!
そいつらは既に魔法を構えていて、誰かが俺達に向けて火を放つ。
「危ねえ!」
スカーの方に向かっていく決して遅くはない火球。
カロンが防げるとは限らない。
俺は庇うように左腕を差し出した。
腕に触れた火球はスカーの眼前で炸裂する。
「うぐっ……」
まともに食らった左腕は、制服の生地が吹き飛び、真っ黒になった肌が剥き出しになってしまった。
何この威力? やばくね?
見た目も合わさって震えそうな痛みが全身に回る。
女が食らったら……想像したくもない。
「大丈夫ですか!」
そんな事よりも、するべきことがある。
『構えろ』
そう呟いて俺は背中の剣を抜いた。
敵は三人だが、実戦経験がないという枷が足に絡む。
「なんだあ、魔法が撃てねえ奴か?」
俺の弱さは知れ渡っているらしい。
『魔力なしで相手にしてやるよ』
一歩前に出て戦線を引き上げる。
敵陣に突っ込んでヘイトを集める。
吹き抜ける風が左手を微かに蝕んだ。
「魔法に体が勝てるわけがないだろうがよお?」
三人は俺に向けて火の玉を一斉に解き放った。
止まる必要はない、ただ仲間を信じて前に進むだけ。
カロンの魔力で無効化される火は痛くも痒くもない。
魔法が消えた時に出る黒い煙の方が邪魔だ。
「魔法に突っ込むとか、馬鹿なん?」
地面を蹴って、一気に煙を突き破る。
『馬鹿に殺されるお前は?』
距離を詰めながら回転斬りを繰り出すと馬鹿がクリエイト魔法で土の壁を地面から生成する。
組み上げられる頃には小さな爆発が広がり、土が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
スカーの魔法だ。
「なっ!?」
隔てるものがない近距離戦は武器を持ってる方が一方的に有利なわけで。
一直線に近づき、馬鹿の胴体を貫いた。
「ぐあ……」
敬意を込めて蹴り飛ばしながら引き抜くと動かなくなったソレは粒子となって消えていく。
「く、来るなっ!」
別の奴は仲間が死んだというのに、そう言って俺に手を向けると小さな魔法を放ってきた。
パニックに陥っているのか、その魔法が当たっても全然痛くない。
……カロンが無効化してくれてるだけだった。
ただ近づいて、斜め下から切り上げる。
「ぎゃあああ」
最後の一人はさっきの爆発魔法でノックダウンさせられていた。
全滅が認められたのか、そいつも消えてアナウンスが流れ始める。
『チームラピットが撃破されました』
なんとか初戦は切り抜けたのか。
「ふう」
どっと疲れたような気がして、その場に座る。
今まで気づかなかったが、動きやすさが全然違う。
ここに来てから、身体能力に変化が起きてるのか?
『大丈夫か!』
スカーが心配そうに駆け寄ってくる。
左手が心配らしい。
「そんなことより、かっこよかっただろ?」
「大活躍でしたね」
魔法が効いてなかった時の焦った顔、最高だったな。
『……あんま自分を犠牲にすんなよ』
スカーはそう言って俺の隣にちょこんと正座した。
「チームスカイオーが撃破されました」
くつろいで潜んでいる間にチームはだんだんと減っていく。
ビューっと涼しい風が吹いた。
「いてっ」
「どうした?」
「風で痛むんだよ、左手がさ」
「魔法でなんとかしてやるよ」
なぜかぬるい水を当て続けてくれた。
その間に俺は空を眺める。
黄色く光る何かに気づいた。
今まではなかったはずだ。
不思議に思っているとアナウンスが流れ始める。
『テスト報酬を解禁しました、欲しい人は黄色のシグナルに向かってください』
テスト報酬?
「なんか手に入るのか」
「近いですね」
「いこうぜ」
二人は、パタパタと座った時に付いた草を払う。
「えっ? 行くの?」
「報酬は欲しいだろ」
「他のチーム来るぞ」
「倒せばいい」
そんな無茶な。
仕方なく俺も立ち上がって報酬まで向かった。
『チームエランゲルが撃破されました』
途中でシグナルの方向から爆音が響く。
「さっきから何の魔法なんだよ……」
「爆発魔法の魔力ですね」
「オレもそう思ってた」
分かるのかよ!
シグナルの場所は見晴らしが良い草原だった。
何かが飛び出したら一目で分かる、なかなかいやらしいエリアだ。
ど真ん中に置かれた箱が神々しく輝く。
「どうする? 取ったらみんなにバレるし、どうせ潜伏してる。はっきり言って罠だぞ」
「よし、行ってこい」
「はっ?」
『カロンちゃんは女の子だから無理だけど、お前は男だ』
と、男が申しております。
「そ、そうしましょう!」
カロンまで……くそぉ。
「分かったよ、取ったら逃げてくるから支援してくれ」
「待て、プランγで行こう」
「どうして?」
「途中で別れそうな文字してるだろ? ゲン担ぎさ」
そう言ってスカーは草の上にγの字を書いた。
……俺ってこんなに女々しかったか?
剣を背中の鞘に収めてシグナルに走って向かう。
まだ誰も出てこないが、後ろから魔法を撃たれてもおかしくない。
箱に近づくと勝手に開き始めて身構える。
中には手のひらサイズの黄色いケースが。
マトリューシカ?
とりあえず手に取る。
その瞬間、草の擦れる音が辺りに響いた。
『追いかけろー!』
『チャンスチャンス!』
やっぱ居たか!
そのまま腕を振って全力疾走で二人の所に戻る。
「ちょ、来んなよ! めちゃくちゃ居るじゃん!」
「うるせえ! 逃げるぞ!」
合流した途端、背後で爆発音が轟く!
『ぎゃああ!!』
走りながら振り返ってみるとビーコンの周辺は黒い煙に包まれていた。
晴れていく中で倒れた人影が消える。
爆発魔法だ。
『チームエノレードが撃破されました』
『チームマッドが撃破されました』
もし逃げるのが遅れてたら……。
しかし、背後にはまだ俺達を追ってる奴が居て、狡猾にも魔法を撃ってきている。
不意に氷の塊が俺達を追い越していく。
「も、もう走れねえんだが」
息を切らして段々と失速していくスカー。
「それ本気で言ってんの?」
「置いてって、いいよ。プラン、γな……」
このままだとお前は後ろの敵に飲み込まれてしまう。
「ダメです! もっと行けますよ!」
カロンの根性論も意味を成さない。
しょうがねえ奴だ。
『俺はゲンじゃなくてお前を担ぐことにするよ』
俺も速度を落としてスカーの後ろに回る。
「えっ?」
そのまま肩を掴み、左手で膝裏から力任せに抱き上げる。
お姫様抱っこのまま、スピードをさらに上げていく。
女を抱えて走るなんて、初めての経験だ。
「魔法でも撃ってろ」
「……うん」
スカーは何を思ったのか、俺の胸元で瞼を閉じる。
俺が言ったこと聞いてた?