学園ヒエラルキー
アステル先生が教室に入ってくる。
「続きは後でな」
「あ、ああ……」
スカーの握る力が抜け、掴んでいた腕からするりと落ちる。
自分の席に戻るとちょうど話を始めた。
「今回は応用です」
「魔法には相性があるという話をしました、今回はクリエイト魔法について」
クリエイト魔法? なんだそれ。
「一部の魔法はクリエイト、創造に使えます」
「このように」
そう言って先生は手のひらを上に向ける。
すると茶色いアステル先生の人形が手に現れる。
「これは大きくすることもできます、中には自由に動かせる方もいますね」
泥人形を一番前の子にあげると話を続けた。
「土の壁もクリエイト魔法の部類です」
なんとなくスカーの方を振り返る。
俺に気づくとニコニコしてきた。
遠目から見るとめちゃくちゃかわいい。
『クリエイト魔法において大切なのは、したい事を強く考えることです。思わぬ発動が現状を打開してくれるかもしれません』
『クリエイトできるのはモノだけではなく、あなたの未来もソウゾウできるということです』
かっこいい事を言う先生。
「ほとんどの方はもう頭の中にあると思います、あとは使えるのかどうかでしょう」
そう言ってパチンと指を鳴らす。
途端に赤い扉が姿を現す。
『唐突ですが、抜き打ちテストを開きます』
それを聞いた生徒達が驚きの声を上げる。
「今回はバトルロワイヤル形式を採用したチーム戦になります」
「それぞれ魔力を提示して交渉し、三人のチームを作ってください、今からスタートです」
一斉に周りの奴がガタガタと立ち上がり、周囲に話しかけ始める。
順序を飛ばして女に片っ端から話しかける奴も居た。
金髪の子は既に誰かと組んでいるみたいだ。
まあ、俺も決まってるようなもんだけどな。
「君美しいね……僕のチームに来ないか?」
「いやいやこちらの方が魔力も高い!」
って思ったらスカーは勧誘されていた。
「遠慮しとく」
「来てくれ!頼む!」
「そう言われても……」
傍から見れば、かわいいから仕方ないか。
とは言ってもこいつが敵になったら俺に勝ち目はない。
『行くぞ、スカー』
そいつらが苦労している間に、スカーの手を引く。
「……おい!」
「お前っ!」
向こうには商品を盗んだように映るよな。
「お前なんかより僕の方が彼女にとっていい!」
「魔法が出ないような無能は引っ込んでろ!」
事実だから心にグッサリ刺さる〜。
なんとか言ってくれよスカー!
目で訴えると。
『オレは……この人がいい』
そう言って俺の肩に頬を寄せた。
「なっ!」
「ちっ」
二人は分が悪そうに消えていく。
「勝ったな」
「そうだな」
カロンと合流して戦いが始まる前に軽く作戦を考えた。
「言っておく、俺はいない奴として扱ってくれ」
「やっぱり無能か?」
「剣とか振り回せるくらいだな」
悲しい事だが、背負ってる剣は譲り受けた物なのにまだ一度も活躍してないのだ。
「俺を魔法から守ってくれるなら肉弾戦できる」
「それワタクシがします!」
カロンが守ってくれるなら大丈夫かな?
「オレは?」
「剣で敵に切り込むだけだから、後ろから魔法出してていいよ」
俺自体は斬ったことがない素人って所を除けばこの作戦は完璧。
やって見なきゃわからないからな。
話を纏めていると乾いた音が響いた。
『纏まりましたか?』
アステル先生が手を叩いたらしい。
「チームが組めた人は扉の先へ、全てはその先でアナウンスされます」
俺達は周りが話している間に一足先にドアを開けた。
周辺は草木に囲まれている。
匍匐すれば意図も容易く敵を欺ける位置だが、少し進めば開けた場所になってしまう。
隠れるのは限定的すぎて、そんなに使えないな。
しかも、敵には利用されやすい。
『変な所ですね』
不意に一枚の紙が空を舞い、俺達の目の前に落ちる。
「なんだこれ」
「何か書かれてますね」
カロンはそれを拾い上げた。
「最後まで生き残れば勝ち……だそうです」
「それだけ?」
「ええ」
生存重視ならこの辺に留まった方が良さげだよな。
『じゃ、全員ぶっ倒そうぜ』
って思った瞬間からスカーはやる気を出している。
「はあ?」
「勝ってお前の株価上げたいんだよ」
誰かさんのせいで魔法二発食らった信頼は取り戻さないとな。
学園ヒエラルキーは最底辺だ。
「カロンちゃんもぶっ飛ばしたいよな!」
「はい?」
「な!」
「はい……」
強引すぎだ、答えれなかっただけだろ。
『メンバーが揃いました』
探索を始めているとアステル先生の声が空に響く。
『テストを始めます』
その瞬間、周囲から魔法の音が炸裂する。
『ご武運を』