第一話・二匹の過去
猫語を話せない猫。 ダンゴムシ語を話せないダンゴムシ。
そんな二匹が偶然に出会った時、二匹はどう変わるのだろうか?
これは、ダンゴムシ語を話せる猫、パオーナと、猫語を話せるダンゴムシ、ミナムのお話です。
パオーナは、寂しかった。
一見、普通の猫に見えるパオーナだったが、実は、飼ってもらっていた子猫のときに事故にあって後遺症が残っていた。
その後遺症とは、「猫語が話せないこと」だった。
―猫が猫語をしゃべれない―これはあって良い運命だったのだろうか?
猫語がしゃべれないパオーナ。しかし、猫語は話せないが聞くことはできる。
言葉も何もしゃべれないわけではなかった。
その猫―パオーナは、あろうことか、なんとダンゴムシ語がはなせるようになっていたのだ!
なぜダンゴムシ語なのか?それは、こういうわけだ。
パオーナは、事故の後、自分が言葉をしゃべれないことに気づいた。
しょんぼりしていたパオーナを元気づけてくれたのが、一匹のダンゴムシだった。
名をフアイという。
フアイとパオーナは、すぐに打ち解け、仲良くなった。
そして、フアイは――身振り手振りでこう言った。
「ボクに猫語を教えてよ」と。
話せないが聞けるパオーナは、地面に爪で文字を書きながら教えた。
その代わりに、フアイはパオーナと同じ方法で、ダンゴムシ語を教えてくれた。
というわけで、パオーナはダンゴムシ語を話せるようになったのだ。
しかし。当然ほかの猫たちには伝わらない。子猫のときの飼い主にも「ニャー」と鳴けずに病気扱い。
そこで病院に連れてってくれればパオーナは治ったかもしれない。
しかし飼い主はパオーナを捨ててしまった。ワケもなく。そう、本当に何もなく。
パオーナは雨の中、電信柱の横に「この猫、鳴きません」という紙を貼られたダンボールの中に、入れられた。
そのとき飼い主が最後に言った言葉を、パオーナは今でも鮮明に覚えている。
「あんたなんか――鳴かない猫なんか、猫じゃない」という、飼い主の言葉を。
ミナムは、怖かった。
ミナムの身体には、青いリボンが巻きついている。
このリボンは、昔、飼われていたときに付けられた。
その飼い主は、大富豪で、ダンゴムシ愛好家。五十匹以上のダンゴムシを飼っていた。
しかし、その飼い主は、邪魔になったダンゴムシは殺してしまうといううわさもあった。
ミナムは、のんびり散歩をしていたら、突然つかまってしまった、この家に二十八番目にやってきたダンゴムシだった。
この家に来てすぐ、ミナムの身体には青いリボンが取れないように巻きつけられた。
その端っこは、ミナムの身体に、もう一方は、柵の柱に。
無論、柵に付けられたリボンは、逃がさないように作ってある。
だから、ミナムはある程度の範囲以外は、動けないようになってしまった。
ほかの柵とは部屋ひとつ離れているため、ほかのダンゴムシとは話ができない。
とはいえ、ミナムは誰かと話したかった。
そんなミナムのところにやってきたのは、一匹の猫。名をアクアと言う。
アクアは、毎日ミナムの柵の前にやってきて、猫語でおしゃべりした。
ダンゴムシのミナムは、当然この猫語は分からない。
しかし、アクアはダンゴムシ語も話せたため、ミナムは気軽におしゃべりできた。
そして、ミナムはアクアに猫語を教えてもらい、数日後には、猫語でも会話がとても上手にできるようになっていた。
楽しく生活していたある日。ミナムのところにアクアが飛んできて、リボンを口で切りながら、早口で話した。
「早く逃げるのよ!ミナム、あなたはもうすぐ捨てられてしまう!」
「どうして?ボク、何か悪いことしたの?」
「ちがうわ、聞いて。ここに住んでいるダンゴムシが、もうたくさんになってしまったの。
飼い主さんがそのことを知らなくて、新しいダンゴムシを二十八匹つかまえてきたんだけど、入らないの!だから、一番初めからの二十八匹を、消すって・・・」
「一番初めからの二十八匹・・・・・ボクまでだ!」
「そうよ!だからはやく、ここから・・・・」
アクアの言葉が終わるや否や、飼い主が入ってきた。
「さあ、ミナム。お前は今からあのペットボトルに入るんだ」
ちなみに、そのペットボトルには、虫が入ると数十秒で死にいたる、毒物が大量に入っていた。
「ミナム!入っちゃダメよ!さあ、あたしがリボンを切ったから、あたしが柵の前にいる間に逃げて!」
「うん、分かった」
ミナムは飼い主に見つからないように、そろそろと後ずさりして、柵の後ろによった。
しかし。ミナムの姿が横から見えてしまったらしい。
飼い主に見つかった。
「な、なにっ!!リボンが!・・・まぁいい、頭からかけてやるのもいいか」
ミナム最大のピンチ!と、そのとき・・・・
「ニャァァァァーーーーゴ!!!!」
「ザクッッ!!!!!!!」
「いってェェェェェェ!!!!!」
なんと、アクアが飼い主を引っかいたのだ!アクアがこっそりいった。
「ミナム、あたしのことはいいから、早く逃げるのよ!そして、ダンゴムシ語を忘れなさい。もう、こんな目にあわないために、特別な存在でいるために。」
ミナムは窓に近寄り、開いている窓の外壁を下に向かってするすると降りてゆく。
「あっ、待てミナム!くっそぉぉぉぉ、お前の仕業かアクア!よし、ミナムを逃がした罰だ、お前にこの薬をかけてやる!猫にもかなりきくはずだから、たっぷり懲らしめてやる!!!」
「ミナム、私のことは忘れるのよ、ニャァ、ニャァァ、ニャアアアアアアアア!!!!」
それから、アクアの姿を見たものはいないという。
ミナムは、あれから本当にダンゴムシ語を忘れてしまった。
いや、忘れたというより、話せなくなったといったほうが正しいかもしれない。
なぜなら、ミナムは話すことはできなくても、聞くことはできるからだ。
しかし。ミナムは、覚えた猫語も、その事件のせいで、忘れかけてしまった。
そして運命の日、あの二匹が・・・・
「にゃ?」
「?」
パオーナとミナムが、偶然にも、出会ってしまった。
ちなみにパオーナという名前は私が付けました。
変だったらゴメンナサイ(汗)