エロ猫は俺の彼女 1
「名前付けてやったからどうなんだよ?」
泣いている理由をなかなか語ろうとしない梨依里を何とかなだめすかして聞いたところによると、人間に名を付けられた妖怪はその人間が死ぬまで情が抜けないとのことだった。
つまり、目の前から消えようがどうしようが俺のことを想い続けるということである。この先俺が誰を愛そうと、身を裂かれる想いで見守る役目が待っているそうだ。俺を殺すことも叶わないらしい。
「お前さあ、名前くれって言う前になんでそういう大事なこと先に言わないわけ?」
「だって、私にはかまくんしかいないと思ったから……」
「俺しかいないって……お前本当に百年以上生きてる妖怪なのか?」
本当に漱石先生を知っているというのなら、軽く百年以上は生きている計算だ。
「だから私は十五歳です!」
「自称な、自称!」
「私は猫に生まれてからずっと孤独だったんです。誰からも愛されずご飯ももらえず。それでもがんばって生きていたら、いつの間にか妖猫になってました」
コイツ俺のツッコミを完璧に無視しやがった。それにしても最初は普通の猫だったってことか。
「しばらくして私は山に棲みつきました。そして昨日は木の上で寝ていたのですが、どうやら寝返りをうって落ちてしまったらしく……」
妖怪のくせにドジだな。
「気付いた時には背中に激痛を感じて、それで動けなくなってしまったのでした」
「あれ? でもそれだとあの深い傷はどこでついたんだ?」
木の上から落ちただけなら、あんなに深い傷は負わないはずだ。枝か何かが突き出ていたのかな。
「はい、落ちたところに運悪く人間が使う鎌があったのです。何とか自分で背中から抜くことまでは出来たのですが……」
あの山には俺と親父しか入らない。だとすれば間違いなくそれは親父がなくしたと言っていた鎌だろう。
「すまん、その鎌は親父のだ」
俺は素直に梨依里に詫びた。しかしコイツはこんななりをしていても妖怪だ。親父は殺されるかも知れない。そうなれば俺も全力でコイツと闘わなくてはならないだろう。勝てるとは思えないが。
「そうでしたか。まさか私を退治しようと……」
「いやいや、そんなことはねえよ。だいたい俺たち親子はお前の存在なんか知らなかったんだし」
「だったら仕方ありませんね。私の運がよかったということです」
「は? 運が悪かった、じゃねえの?」
「いえいえ、だってそのお陰でこうしてかまくんと出会えたわけですから」
ポジティブはいいことだが怪我をさせたのは俺の親父だし、それがなかったら俺たちはそもそも出会わず、コイツに名前を付けることもなかったわけか。俺にとっては幸運なのか災難なのかは分からないが、起こってしまった以上は梨依里を邪険にするわけにもいかないだろう。
「分かったよ。ただ俺はまだ愛するとかそういうのはよく分かんねえ。それでもいいなら……」
「では……!」
「ああ、お前がいいなら消えるなんて言わねえで傍にいろ」
梨依里は被せていたシーツから出て、素っ裸のまま嬉しそうに俺に飛びついてきた。大きな胸も柔らかい肌も、俺にとっては未知のものだ。女の子の体ってこんなに気持ちいいのか。
そんなことを考えていると梨依里は俺の頬を両手で挟み、目を閉じていきなりキスしてきた。や、柔らけえ。そして気持ちいい。じゃねえよ。
「お、おい、な、何しやがる!」
「えへへ、これでかまくんは私のものです!」
「まさか呪いとか……」
よくある血の契りみたいなものを想像して俺はちょっと不安になっていた。