俺が面倒に巻き込まれるからだよ!
「あ、あの、十六夜さん、そちらの方は……?」
俺の睨みで完全に縮こまってしまった演劇部の女子は、それでも梨依里に話しかけていた。
「かまくんですよ。さっき話したじゃないですか」
「ああなるほど、その方が……」
梨依里から俺のことをどう聞いたのかは知らないが、彼女は肩までの髪を揺らしながら少し安心したような表情でこちらに歩いてくる。よく見ると目がクリクリしていて可愛らしい顔立ちだ。それはいいとして、もしかして俺が梨依里を脅してるとでも思ってやがったのか。なら少し懲らしめてやるか。
「梨依里、この人はお前が着ている衣装を返してほしくて来たんだ。早く返してやれ」
「はーい」
梨依里は素直にサンタコスの衣装を脱いで、丁寧にたたんで演劇部女子に手渡した。
「ところで演劇部女子、名前は何だ?」
「大滝美奈代です。あの、これでも私はあなたより上級生なんだけど……」
「あ? 先輩なのか?」
大滝先輩は部活中のためかネクタイを外していたので、俺は上級生と気づかなかったのだ。本人曰くどうやら二年生らしい。それにしてもこの先輩、身長は梨依里より十五センチくらい高いが、梨依里と同様に腰がキュッと括れていて尻がツンと上を向いている。これはなかなかそそる体型だ。もっとも胸は制服の上からだと軽く膨らみが分かる程度なので、大きくも小さくもないというところか。残念だが俺視点でいうと、胸に関しては梨依里のトリプルスコア的な圧勝である。
「しかし俺は西園寺の姉貴にもこんな感じだからな。先輩だからって敬語使ったりしねえんだ」
先に生まれて先にこの学校にいたというだけで、大滝先輩個人に何か世話になっているというわけではない。目上の者は敬えというのも分からないではないが、たかだか一年先輩というだけだ。媚びへつらう必要性など、俺は微塵も感じなかった。
「ところで大滝先輩、人の彼女に勝手に衣装なんか着せてどういう了見だ?」
「え? か、可愛いでしょ?」
俺がほんの少し凄んで見せると、途端に大滝先輩の顔から血の気が引いていくのが分かった。しめしめ、いい気味だ。むやみに俺のことをまるで犯罪者でも見るかのように怖がったりするからそういうことになるんだよ。
「可愛いかどうかは問題じゃねえ。知っての通り梨依里はこの見た目だからな、ただでさえ人目を引くんだよ」
そもそも梨依里の可愛さは俺が一番よく知ってる。それから梨依里、ドキドキするからお前はその嬉しそうな目で俺を見つめるのをやめろ。
「つ、つまり、これ以上可愛くするなってことかしら?」
「先輩、舐めてっと女だからって容赦しねえぞ!」
「ひぃ!」
ありゃ、ちょっとやり過ぎたか。大滝先輩は変な声を出してその場に崩れてしまった。気を失うほど怖かったなら軽口たたくなよ。俺は床に後頭部を打ちつける寸前のところで、倒れる大滝先輩の頭を抱えた。
「かまくん! ちょっと怖がらせ過ぎですよ」
「やっぱりお前もそう思った?」
それにしたって怖がりすぎだろう。いくら俺でもまさか気絶までするとは思ってなかったし。
「ちなみに聞きますけど、私が人目を引くとどうしてダメなんですか?」
そっちを突いてきやがったか。梨依里は我慢してもしきれないといった感じで口角を上げてやがる。俺に何を言わせたいかは見え見えだが、絶対に言ってやるもんか。
「俺が面倒に巻き込まれるからだよ!」
「ふーん」
それでも梨依里の下から覗き込むような視線に耐え切れなくなった俺はそっぽを向いてしまった。コイツは俺が照れると知っていてわざとやっているのだ。悔しいが可愛いのだから仕方がない。そんな俺の様子に満足したのか、大滝先輩を抱えてしゃがんでいた背中にひょいとおぶさってきた。
「帰りましょうか」
「そうだな」
大滝先輩はそのままにしておいてもいずれ目を覚ますだろうが、念のために帰り際に演劇部に声をかけてから俺たちは帰宅の途についた。




