私あれあんまり好きじゃないんですよ
「かまくんかまくん! これ、見て下さい!」
放課後になってそろそろ帰ろうかという時に梨依里がいなくなっていたので、俺は校庭をぼうっと眺めていた。そこへ突然梨依里がサンタコスで現れたのである。
「なんだ梨依里、その格好は?」
「えへへ、可愛いですか?」
言いながら梨依里はクルッとターンして見せた。制服の上から赤いサンタの衣装を羽織っているだけなのだが、一応帽子も被っているのでそれなりに様になっている。ただしスカートが制服のままなのが残念なところだ。もっとも身長の低い梨依里なら、サンタコスのスカートがなくても上着だけで充分かも知れない。スカートなしのサンタコスに生脚かニーソってのはかなりそそるな。ところでコイツ、今までどこで何をしてやがったんだ。
「うちの学校って期末試験が終わったらクリパというのをやるみたいなんですが、演劇部で出し物があってそれの衣装だそうです」
そう言えば水池先生がそんなことを言っていた気がする。地域の活性化の一環で、周辺の商店街から屋台も出るらしい。校庭には大きなクリスマスツリーが飾られ、有志による出し物もあるとか。演劇部はその有志の一つなのだろう。
「なるほど、それは分かったが、何故お前がその衣装を着てるんだ?」
「演劇部の部室の前を通りかかったら声をかけられまして、着てみたら可愛いって褒められたのでかまくんに見せに来たんです」
そういうことか。梨依里の性格を考えると演劇部員には何も言わずに飛び出してきたはずだ。だとすると今頃演劇部の連中は梨依里を探して慌ててる最中だろうな。演劇部には何の恨みもないが、人の彼女を勝手に着せ替え人形にした罰だ。梨依里がここにいることは知らせないでおいてやろう。
「ところでかまくん、教えてほしいことがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「クリパって何ですか?」
コイツ知らずにはしゃいでたのか。
「クリパってのはクリスマスパーティーのことだよ」
「あ、なるほど! 水池先生がおっしゃってたアレですね。そこで演劇部が何か出し物をだすと」
「そうみたいだな」
「でもそれでどうしてこの衣装なんですかね」
「うん?」
「出し物ならカツオとか昆布とかじゃないですか? 私としてはカツオの方が嬉しいですけど。どうしてお魚の着ぐるみではないんでしょう」
「お前の言ってるのは出汁な」
もうここまでくると分かってて言っているとしか思えない。俺は仕方なしにクリパで何をやるのかということと、ついでにクリスマスについて梨依里に教えた。
「お魚屋さんも屋台を出すのでしょうか」
「活魚の屋台は出ないぞ」
「じゃ、スーパーの……」
「ツナ缶も売られないと思うぞ」
「ええ? それじゃ意味ないじゃないですか」
お前は俺が説明したクリスマスの意味を何だと思ってるんだ。
「そんなことはないだろう。鳥肉は出るんだから」
「でも七面鳥ですよね。私あれあんまり好きじゃないんですよ」
「食ったことあんのか?」
「ありますよ。これでも元は猫なんですから」
今でも食い物の好みとか異常なくらいに寒がりなところなんかは猫のまんまだと思うけどな。それに猫だから食ったことあるってのは理由としてどうかと思うぞ。
「あ! ここにいた! 十六夜さん、そろそろ衣装を……」
おそらく演劇部の女子だろう。サンタ衣装を着たままの梨依里を見つけて近寄ろうとしたが、俺の姿を見て後ずさった。待て待て、俺はお前に何もしてねえし、第一初対面じゃねえか。それなのに見ただけで後ずさるとか、失礼極まりねえと思うぞ。少し懲らしめてやることにしよう。
「何だお前は?」
「あ、あの……演劇部の者です。その……十六夜さんにお貸しした衣装を返してもらいに……」
よしよし、思いっきりビビってやがるな。いい気味だ。俺は更に脅かすために、その女子を睨みつけたのだった。




