大きな猫は小さな少女でした 3
「それにしてもカマラ、お前そのチビ猫とはよくしゃべっとるなあ」
粥を持って戻ってきた親父が突然そんなことを言い出した。言われてみると俺はこの猫女に乗せられてずい分しゃべっているような気がする。
時に親父、このエロ猫にチビってのは禁句みたいだぞ。そう注意しようとしたが、親父は急に尻もちをついてしこたま尻を打ったようだ。
「お前、もしかして魔法とか使えんの?」
なぜそんなことを思ったかというと、親父が尻もちをついた時に梨依里の瞳孔が金色に輝いて縦に割れていたからである。それでも俺はコイツに対して恐怖を感じることはなかった。
「魔法……猫力と呼んで下さい!」
「いちいちツッコませようとか思ってないか?」
「はい。だって、かまくんがツッコミ入れたいって望んでましたから」
そう言ってニッコリ笑った梨依里の顔が、忘れられなくなるほど可愛かったことに驚かされた。本当は無口な俺が必要以上にしゃべらされていたのは、コイツの妙な力のせいだったということか。まあ、考えてみれば悪い気分ではないし、見た目可愛いからよしとしておこう。何よりエロいし。
俺は親父を奥の部屋に追いやって、エロ猫を口説いてみることにした。
「なあ梨依里」
「はい、何ですか?」
「お前さ、俺の彼女になれよ」
相手は正体はどうあれ人間にしか見えないし、これでエロいことさせてもらえるかも知れないのならダメ元だ。
それに妖猫と言ってもこうして人間の姿をしている時は可愛いから、人間の女子に免疫のない俺にはうってつけの相手ということになる。見た目だけならそこらのアイドルと比べてもかなり可愛いぞ、コイツ。残念なのは猫耳と尻尾がないことだが、俺は元々そういうのを好むわけではないので問題もない。つまり普通にしていれば人間と大差はないというわけだ。
「彼女?」
「俺の女になれってことだよ」
「かまくん!」
梨依里が急に怒り眉になって俺を睨みつける。
「な、何だよ」
「私とまぐわうことだけが目的で言ってませんか?」
あれ、馬鹿だと思ったのに意外と鋭いな、コイツ。
「ま、まさか、あはは……」
「彼女になるのは構いませんし、かまくんが私とまぐわいたいと言うのならそれも構いません」
「え? いいの?」
「で、す、が! ちゃんと私だけを愛してくれると約束してくれなければ嫌です!」
「あ、愛?」
正直愛とかよく分からねえんだけど。
「かまくんには助けて頂いた恩もありますので先にお教え致しますね。私はこう見えても妖猫ですから人間のあなたより知能も知識も上です。猫力も並の妖怪なんか足許にも及ばないくらいありますので、かまくんが考えていることくらい大抵分かります。それに私はかまくんと同じ十五歳ですが、夏目先生ともお知り合いの十五歳です」
おいおい、言ってる意味がよく分からねえぞ。それってつまり十五歳ではないということだよな。そんでもって夏目先生と知り合いってところは単なる自慢にしか聞こえねえぞ。ところで猫力ってところは変えないのな。
「これからかまくんと一緒に生きて行くつもりなので普通の十五歳の女の子として振る舞いますが、私に嘘や妄言は通じないと思って下さいね」
何それ、ちょっと怖いよ。でもなあ、コイツめちゃくちゃ可愛くてエロいしなあ。小さいけど胸は大きいし、柔らかそうだし、触ってみたいし。
「も、もしかまくんが私ではなく他の女の子を好きになりたいのなら、今この場でそう言って下さい。私は消えますから……」
今まで元気いっぱいで強気全開だった梨依里の声が、急に消え入るように小さくなっていった。
「あれ、お前……泣いてないか?」
「泣いてないもん!」
「いやいや、ちょっと待てよ、なんで泣いてるんだよ?」
俺はうつむいて顔を見せようとしない梨依里に、どうしていいか分からなくなって狼狽えてしまった。だってよ、女の子に泣かれた経験なんかないんだから仕方ねえじゃん。それはいいとして、なんでコイツは急に泣き出しやがったんだ。俺まだ何もしちゃいねえぞ。
「だって……かまくん……かまくん、名前くれたから……」
そう呟いた梨依里は、どこからどう見ても普通の女の子にしか見えなかった。