愛だ何だとぬかしやがって!
「久埜猪君、君、あやかし様と交わらなかったかい?人間の言葉で言うとセック……」
壬生の野郎、何かと思えばいきなり何てことを言い出しやがる。言うに事欠いて教室内で破廉恥な。
「待て待て! 言い直さなくても分かるから! そんなことしてねえよ」
「嘘です。交わらずに梨依里さまのご加護に与れるわけがありません」
倉持、そこで少しでも頬を赤らめるとかするともっと可愛げが増すぞ。お前は見た目は可愛いんだからちょっとくらい自覚を持て。てか問題はそんなことじゃねえ。
「いや、本当にしてねえから。俺の体は清いままだぞ」
「男子にそんなことを言われましても……」
倉持、ジト目で見るのやめろ。言った俺も恥ずかしくなるから。
「久埜猪君、本当に何もしてないのかい?」
「してねえよ!」
「本当に本当かい?」
壬生がしつこく聞いてくる。
「な、何だよ、したのはキスだけだよ。それ以上はしてねえから! アイツは俺の彼女なんだからそれくらいいいだろ!」
まずい、声を荒げてしまった。クラスメイトの視線が一気に俺に集まってきている。コイツらキスって言葉に反応しやがったな。だが不思議なことに、すぐに皆は何事もなかったかのように前に向き直った。
「久埜猪君、今のは君のミスだからね。今回は助けてあげたけど出来れば次からは気を付けてくれよ」
壬生がウインクしながら言う。そうか、今のはコイツの仕業か。記憶を奪えるくらいなんだし、聞かなかったことにする程度なら朝飯前なんだろう。
「それにしても口づけだけでこの加護か……あのあやかし様は絶対に敵にしてはいけないみたいだね」
「そうね。後で里の皆にも伝えておきましょう」
里の皆ってのは、あっち向いてホイで負けた奴らのことだよな。敵にするってことは、やっぱりコイツら何か悪巧みしてやがったな。
「おい、どういう意味だよ」
「キスしたってことはほんの僅かでもあやかしさまの体液が君の体に入ったってことだよね。それで君があやかしさまのご加護を頂いたということだと思うよ。本当に交わってなければ、だけどね」
「だからそんなことしてねえって!」
キスしただけで俺は梨依里の加護を授かったってことなのか。しかしアイツの加護って何なんだよ。いや、それより俺が聞きたかったのは悪巧みの方だ。
「敵にしてはいけないって、お前ら何しようとしてた!」
「誤解だよ、ただ正直に言うと僕たちの仲間の中に里、あの学校のことを知られた以上、いくら大恩があるにしても君たちを生かしておくとロクなことにならないから、殺してしまうべきだという者がいてね。もちろん少数意見だし、そもそもあやかし様のお友達を殺すなんて恐ろしいことが出来るわけないから安心してくれていいよ」
壬生はさらに身をこちらに近づけてくる。というよりすでに顔は倉持よりも近い。それでもホームルーム中の水池先生が何も言わないのは、コイツの訳の分からない霊力のせいだろう。
「だけど君も気をつけた方がいいよ。君はあやかし様の妖力に護られている代わりに、思うことやすることは全部あやかしさまに筒抜けだから。怒らせるようなことをするとタダでは済まないと覚悟しておくんだね」
な、何だって。さっき俺が倉持の胸を見ていた時に感じた梨依里の視線はそのせいだったのか。
「それじゃまるで俺は常に梨依里に監視されてるようなもんじゃねえか。あのバカ猫、愛だ何だとぬかしやがって!」
ところがこの俺の呟きに倉持が大きく反応する。それはどこか俺を疑うような、あるいは軽蔑するような視線を伴っていた。




