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お前は俺が守ってやるからな

 その時、ふと全身の力が抜けたような感覚にとらわれた。


「死ぬってこういう感じなのか……」

「何を言ってるんですか。私がかまくんを死なせるわけないじゃありませんか」

「あれ、お前……」


 俺はいつの間にか梨依里の白い毛に包まれていた。どういう経緯でこうなったのか全く分からないが、とりあえずまだ生きているらしい。


「まずはあれを倒しましょう。お話はそれからです」

「痛みは私たちが抑えています。今ならもう一度戦えるはずですよ」


 倉持の言う通り、右肩の痛みはまったく感じなかった。それに応えるために、俺は再び落とした鎌を手に取る。


「梨依里、お前は平気なのか?」

「はい! 皆さんに雨雲を遠ざけてもらいました」


 言われて気付いたがいつの間にか雨も雷も治まっていた。あの世とこの世の間ならこんなことも出来るのか。


 ところで(くだん)の妖怪だが、あっちはあっちで深手を負い片目がなくなっていた。復活した梨依里がやったのだろう。それでも戦意を失ったわけではないようで、こちらに怒りの視線を向けていた。


「さあ、来やがれ!」


 今度こそ油断はしない。足も羽もないのに飛び上がるとか反則技を使いやがって、次は確実に息の根を止めてやる。梨依里も俺の隣に並んで妖怪を威嚇していた。


 大怪我をしているはずの妖怪は、しかし動きの速さは変わらなかった。どうやらヤツは梨依里より俺の方を標的に選んだらしい。まっすぐに突っ込んで、先ほどと同じように途中で飛び上がって俺の顔を狙ってきた。


「二度も同じ手を食うかよ!」


 俺は鎌を刀のように両手で握り、妖怪に向かって力任せに振り下ろした。


 衝撃は半端ではなかった。まるで木製バットでボーリングのボールを打ったような凄まじい衝撃が両腕を伝ってくる。しかし梨依里の血を吸ったという鎌は折れることはおろか曲がることもなく、見事に頭の妖怪を打ち返していた。


 上から叩きつけられた妖怪は、さっきまで降っていた雨にぬかるんだ校庭の土に半分埋もれて身動きが取れないようだった。あれだけすごいスピードで地を這っていたのに、土に半身が埋もれただけで動けなくなったのが何とも不思議である。しかしよく見ると見える方の目が下になっていたので、おそらく視界を失ったためにまともに動けなくなったのだろう。


 こうなれば後はとどめを刺すだけだ。梨依里の爪が頭の妖怪を押さえつけ、そこに俺が無慈悲に鎌を振り下ろす。


 鎌は見事に熊頭の眉間に突き刺さり、苦しさのあまりそこから抜け出した悪霊は、(おぞ)ましい断末魔の叫び声を上げながらもがき苦しんでいた。だがそれも呆気なく壬生(みぶ)たちによって捕らえられ、最期には跡形もなく浄化されていく。これで全て終わりだ。


 ところがそこで壬生が申し訳なさそうに声をかけてきた。


久埜猪(くのい)さん申し訳ない。そろそろ限界です」

「あ? 何が?」


 俺はその後、右肩の激痛で気を失い壬生の答えを聞くことはなかった。




「かまくん、大丈夫ですか?」


 翌日は学校を休んで病院に行き、俺はしばらく腕吊りを装着する羽目になった。あの時壬生たちは霊力で一時的に俺の痛みを取ってくれたが、骨折を治してくれたわけではなかったのである。


 さすがの梨依里も、こうなった俺の腕にぶら下がろうとはしない。ただしぶら下がりたくて仕方がないのは態度で分かった。


「かまくん、本当にごめんなさい……」


 俺が黙っていたので怒っていると勘違いしたのか、梨依里はしゅんとして小さな声で謝ってきた。


「あ? ああ、いいって、別に怒ってねえよ。ほら、こっちならぶら下がってもいいぞ。ただあんまり体重かけないでくれな」


 言いながら俺は左手を差し出す。梨依里は嬉しそうにその手を取ったが、ぶら下がるというより手をつなぐだけのような感じだった。コイツなりに遠慮して気を遣っているのだろう。


 それから家に帰り着いた俺は、約束通り猫姿の梨依里を思う存分もふりまくってやった。特に耳と尻尾はたまらねえ。梨依里はめちゃくちゃくすぐったがっていたが、昨夜の負い目を感じていたからだろう。抵抗することも逃げることもなく、俺にされるがままになっていた。




 その夜は再び雷雨となった。梨依里は人間の姿に戻り、俺にしがみついてガタガタと震えている。コイツがどうしてこんなに雨や雷を怖がるのかは未だに謎だったが、抱きしめて髪や背中を撫でてやっているうちに、いつの間にか安心したように静かな寝息を立てていた。


 お前は俺が守ってやるからな。そんなことを考えているうちに、俺もやがて眠りに落ちるのだった。

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