かまくん、来ましたよ
「ところでよ、応援って言うけど返って俺は邪魔じゃねえのか? 自分で言うのも情けねえが足手まといにしかならねえと思うぞ」
「そんなことありませんよ。かまくんには私に刺さっていた鎌を持っててもらいます」
親父が山で失くして梨依里がうちに来るきっかけになったあの鎌か。
「それ持ってたって相手が妖怪じゃ何の役にも立たねえんじゃねえか?」
「私だってあれで怪我をしたんですからちゃんと効き目はありますよ。それにあの鎌は私の血を吸ってますから」
「お前の血を吸ったって……それで効果があるのか?」
「何を言われるのです! 梨依里さまの血を吸った鎌……無敵じゃないですか!」
倉持が目の色を変え、鼻息を荒立てている。おい、今までの清楚なイメージが台無しだぞ。
「無敵は言いすぎですけど効果はバッチリですから、かまくんはあれで身を護って下さい」
「わ、わかった」
どうやら俺は高みの見物というわけにはいかないようだ。それから俺たちは深夜になるのを待って、再びあの豪華な白亜の校舎へと向かった。
学校に行く時と同じで梨依里は俺におぶさっていたが、さすがに眠ってしまうことはなかった。壬生と倉持も律儀に付いてきている。コイツらは別に歩かなくてもいいのだろうが、梨依里と一緒にいれば万が一熊の妖怪に出くわしても安心といったところなのだろう。
梨依里はその妖怪に自分が勝てるか分からないというようなことを言っていたが、その点に関して俺は特に心配はしていない。なぜなら本当に不安な時、コイツは震えながら俺に纏わりつくからである。ところが今回はそんな素振りは微塵も見せていないし、何より躊躇なく壬生たちの願いを聞いているのだから勝算しかないのだろうと思っている。
それよりも俺の心配は天候にあった。今日は十二月なのに気温があまり低くないから、降っても雪にはならないだろう。問題は夜の天気予報で深夜から明日にかけて雷雨になると言っていたことだ。
梨依里は雨の音や、特に雷が大の苦手である。家にいるときは雨が降ると物凄い力で俺にしがみついて離れないほどで、雷なんか鳴ろうものならガタガタと震えだすのだ。今はまだ雨は降っていないが、妖怪が現れた時に雷雨になっても本当に戦えるのだろうか。いざとなったら俺がこの鎌で妖怪に立ち向かうしかないかも知れない。
「しかし分かんねえのはこの校舎の明かりだよ。真夜中にこんなに明るいのに、誰にも気づかれてねえんだからな」
「ああ、それはここがこの世とあの世の間にあるからですよ。僕たちの案内がなければ人は入ってこれませんし、霊感のない人は気づくことも出来ません」
「あの世とこの世の間だと? それって俺が余計な霊感に目覚めちまうとかってパターンじゃねえよな?」
「ご安心ください。そのようなことはありませんから」
それならいいんだが、幽霊なんか怖くなくても見えないものは見えないままでいい。
「それで、その熊の妖怪は待ってればやってくるのか?」
「はい、火を焚かなければやってきます」
倉持のきれいな横顔が校舎の明かりに浮かび上がっていた。言われなきゃ人間じゃないって疑うことなんかないと思う。
「火っていうのは、あのキャンプファイヤーのことか。もしかしてあれもただの火じゃないとか?」
「はい、あれは私たちの霊力によるものです。実はあの妖怪のせいでここのところ毎日焚いていたので、皆疲れ切ってしまったのです」
「その火で妖怪が来ねえんだったら、やっつけることも出来るんじゃねえのか?」
「いえ、私たちの霊力では見つからないようにすることは出来ても倒すことは出来ないんです」
「だから僕たちは今回、あやかし様に助けを求めたっていうわけです」
倉持の説明を壬生が引き継いだ。それによると妖怪は生きた獣と同様に火を嫌うが、霊力の火では実体である頭の部分を焼くことは出来ないらしい。そして火は彼らの霊力が尽きれば消えてしまう。そうなると後は無抵抗のまま食われるだけなんだそうだ。何ともおぞましい限りである。
「かまくん、来ましたよ」
その時、梨依里は俺の背中から飛び降り、低く緊張した声でそう告げた。




