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あやかし様に手を貸して頂きたい

 あの奇妙な文化祭から数日後のこと、晩飯を食い終わってくつろいでいると梨依里が来客を告げた。といってもすぐにではなく、十分後くらいだと言う。コイツの猫力(ねこぢから)とやらで、そんなことが分かると前に言っていた気がする。


「誰が来るんだ? 大下さんか?」


 十分後と聞いて思い浮かんだのは、隣の大下さんである。


「違います。学校の裏山の御霊(みたま)さんたちです」

「そうか……って、みたま?」


 御霊と言うと厳密には幽霊とは違うカテゴリーなのだろうが、俺にとっては両者とも同じようなものだ。幽霊が怖いというわけではないが、お宅訪問のようなことをされるのはいい気分ではない。何しに来るんだろう。まさか先日の秋刀魚(サンマ)代を払えとか言わねえよな。


「それでお前、何やってるんだ?」


 梨依里は香炉をテーブルに置いて線香を焚こうとしているようだ。


「何って、お茶の用意ですよ」

「待て待て、どうしてお茶の用意が線香なんだよ?」

「まあ見てて下さい」


 今日の学校帰りに仏具屋でちょっと高めの線香を買わされたが、もしかしてこのためだったのだろうか。梨依里は線香に火を灯し、そこにふっと息を吹きかけている。


「これで準備おっけーです」

「俺には何か変わったようには見えないぞ」

「すぐに分かりますから。あ、来ましたよ」


 梨依里の言葉と同時にインターホンが鳴った。


「はーい、どうぞ」

「うわっ!」


 更に梨依里の言葉と同時に、目の前にいきなり白い制服を着た一組の男女が現れた。あの学校の裏山で俺たちを文化祭に案内した二人である。どうでもいいがその登場の仕方はやめてくれ。心臓に悪い。ところでコイツら、自分たちが人間じゃないことを隠す気がないらしい。


「こんばんは、僕は壬生(みぶ)公紀(きみのり)と申します」

「私は倉持(くらもち)(しおり)です」


 なるほど、この二人が西園寺(さいおんじ)と横尾が言ってた壬生と倉持か。


「勝手に入ってこられるならどうしてインターホンなんか鳴らしたんだ?」

「一度鳴らしてみたかっ……礼儀だと思いまして」


 男の方、壬生と名乗った男子の幽霊が深々と頭を下げて言いやがった。ただの興味本位かよ。それにしても二人は本当に美男美女である。しかも倉持と名乗った女子の方はスタイル抜群で胸もでかい。梨依里をそのままスケールアップしたようなものだから、幽霊と分かっていてもエロさを感じる。


「まずは座って、お茶でもどうですか?」

「あれ? さっきまで……」


 テーブルの上にあった線香が焚かれていたはずの香炉が、いつの間にか高価そうな茶器のセットに変わっていた。猫力で変えちまったのか。


「はい、それでは失礼します」


 テーブルを挟んで俺と梨依里の正面に座り、二人とも優雅に茶をすする。座っても背筋がピンと伸びていて、見た目だけでなく居住まいまで美しい。


「あ、かまくんはこっちを飲んじゃだめですよ。飲むならちゃんとお茶入れますから」

「そうなの?」

「はい。飲みますか?」


 前に線香はあの世の食べ物だって話を聞いたことがあるが、あれは本当だったのか。


「いや、とりあえず今はいいや。それより二人は何の用でうちに来たんだ?」

「ここに用、というより私たちはあやかし様にお願いがあって参りました」


 静かに湯呑みをテーブルに戻して、倉持が少し表情を硬くしながら口を開いた。


「梨依里に? もしかしてコイツが十五匹も秋刀魚を食っちまったから誰かの分がなくなったとかか?」

「かまくん!」

「いえ、秋刀魚でしたら好きなだけ召し上がって頂いてよかったんですよ」

「僕たちのお願いというのは、僕たちを食らおうとする妖怪を倒すのに、あやかし様に手を貸して頂きたいということなんです」


 壬生の言葉に合わせて倉持が深くと頷いた。妖怪を倒すって穏やかじゃねえな。俺は関わるのをやめたいところだが、梨依里のことだから引き受けちまうんだろう。そう思って彼女の方を見ると、瞳を爛々(らんらん)と輝かせているのが見えた。

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