じょ、成仏って……
ふと気がつくと、俺たちはいつの間にか学校の裏山の入口で枯葉に埋もれて目を覚ました。どうやら死人のやつらが俺たちを帰してくれたようだが、そのままだと凍え死ぬと思ったのだろう。
まだ十一月とはいえ、この地域の陽が落ちてからの気温はかなり低い。そんな中で寝ていれば風邪をひくなどというレベルではないのである。そういうことを考えてのことだったのだろうが、枯葉の中は殊のほか温かくて心地よかった。お陰で制服は枯葉まみれになっちまったけどな。
「おい梨依里、起きろ」
梨依里は俺にしがみついて気持ちよさそうに眠っていた。まったくコイツまで眠ってるとは、もし死人たちに悪意があったらどうするつもりだったんだよ。
「あ、かまきゅん、おはろうごらいまふ」
「おはろうじゃねえ、まだ夜だよ。宮崎、横尾も起きろ!」
俺の声に野々村と西園寺も目を覚ます。
「はれ? 壬生さまはどちらに?」
西園寺まで寝ぼけてやがる。壬生って誰だ。つかお前は宮崎狙いじゃなかったのかよ。
「倉持さん、僕の倉持さん」
横尾はヨダレまで垂らして俺に抱きつこうとしたので、おでこにゲンコツを食らわしてやった。脳天よりおでこの方が痛いんだよな。
「ほら、帰るぞ!」
それから俺たちは夜も遅いということで、全員西園寺の車で家まで送り届けてもらうことになった。西園寺の護衛の奴らはとっくに下校したはずの流々華がいないってんで、随分探し回っていたようだ。そのせいで予定が狂った姉の流華の方はかなりお冠だっただが、俺が文句を言われる筋合いはない。
「久埜猪さんがいらしたのに何故このようなことになりましたの?」
「お宅の妹が勝手についてきたんだよ! 文句言う前にちゃんと躾やがれ!」
「流々華さん、それは本当ですの?」
流々華は相変わらず姉にビクついていて、まともに受け答え出来ない様子だった。むろん俺には関係のないことだから無視だ。ところで俺がいたのにどうのって言っていたが、俺はお前の妹の監視役でも何でもねえぞ。
車中ではそんなやり取りもあったが、俺と梨依里は家から少し離れたところで降ろしてもらった。梨依里の家はうちの隣ということになっているが、実は一緒に住んでるのだから家バレするわけにはいかないのである。
「しかしあの秋刀魚は美味かったな」
車を降りて梨依里と二人になってから、ようやく俺はまともに彼女に話しかけた。
「はい! 私は十五匹食べましたが、もっと食べたかったです!」
あの短時間で十五匹も食ってやがったのか。さすがは妖猫だ。
「それにしてもよくあんな山の中で秋刀魚なんか出せたよな」
「嫌ですねかまくん。あんなところで新鮮な秋刀魚が出せるわけないじゃないですか」
「はあ? だってお前本物だって言ったじゃねえか!」
「はい、本物の秋刀魚の霊でしたよ」
「れ、霊? 秋刀魚の霊だと?」
「はい、人間に捕獲されたのに腐ったり捨てられたりして食べてもらえなかった秋刀魚の霊です。私たちが食べてあげたお陰で成仏出来たと思います」
「じょ、成仏って……」
俺は口から魂が抜けて、自分が成仏しそうな錯覚を感じずにはいられなかった。




