そこにお出迎えの方も来てますし
学校の裏山とはいっても小高い丘程度のものではなく、それなりに高さのある山だ。ただし私立の高校とはいえ充分な職員がいるわけではないので、特に手入れもされていない。それでも山に入るための道のようなところがあり、何とか進もうと思えば進めないこともなかった。
「本当にこれ、進むのかよ」
梨依里はすでに俺の肩の上に座っている。野々村がそれを羨ましそうに見ていたが、両肩は無理だからな。それから横尾、梨依里の脚ばかりちらちら見てんじゃねえ。前に回ってパンツでも見ようとしたら蹴り飛ばすから覚悟しておけよ。パンツで思い出したが梨依里はちゃんとパンツ履いてるんだろうな。
「アンタ先に行きなさいよ」
「言いだしっぺはお前だろ、お前が先に行けよ」
「か、か弱い女の子にそんなことさせる気?」
その自称か弱い女の子が肝試ししようって言い出したんじゃねえか。
「無駄に体の大きい久埜猪さんが先頭なら、私たちも楽に歩けるようになりますわ。つべこべ言わずに先にお行きなさい」
西園寺の言うことは理に適っているが、無駄とかつべこべとか言うのが非常に気に入らない。俺はブルドーザーでもねえし、そもそもお前に命令される筋合いなんてどこにもねえぞ。
「横尾、お前が先に行け。梨依里にいいところ見せるチャンスだぞ。ただし振り向いたら殺す」
「ぼ、僕は熊鈴を持ってるから後ろからついて行くよ」
どういう理屈だよ。熊鈴持ってりゃ普通は先頭だろうが。
「かまくん、レッツゴーです」
梨依里、お前もか。まさか野々村に先頭を行かせるわけにもいかねえし、肝試しに一番消極的だった俺が先陣とは理不尽過ぎやしねえか。俺は腸が煮えくりかえる思いだったが、仕方なしに先頭で山道を歩き出した。
「あ、かまくん、何か見えましたよ」
だんだん山道だか何だか分からなくなってきた頃、一番小さいくせに俺より高い位置に目がある梨依里が、前方を指差して頭をポンポン叩いてきた。辺りはかなり暗くなっていたが、梨依里が指し示す先には煌々と光る明かりが見えている。それは少しずつ見えてきたというより、突然現れたと言った方が正しかった。今の今まで俺たち六人の誰もその明かりには気づかなかったからだ。
「出たな。どうするよ、引き返すか?」
「な、何言ってるのよ。ここで引き返したら肝試しの意味がないじゃない」
宮崎、威勢がいいことを言っているが、震えながら俺に寄り添うのはやめろ。西園寺も野々村もだ。ちなみに横尾は野々村にしがみついている。お前情けないぞ。
「梨依里、進んでも大丈夫そうか?」
俺は小声で肩の上の梨依里に尋ねた。乏しい知識ではあるが妖怪は幽霊より格が上のはずだから、コイツがいれば少なくとも憑き殺されるようなことはないだろう。
「大丈夫と言いますか、行かないと帰してもらえないみたいですよ。そこにお出迎えの方も来てますし」
梨依里の視線を追うと、いつの間にか白い制服に身を包んだ一組の男女がにこにこしながら立っていた。それに気づいた宮崎たちはただ呆然とするばかりである。
「やあ! 今日は僕らの学校の文化祭なんだ。ぜひ楽しんで行ってほしいな」
「美味しい食べ物もたくさんありますから、遠慮なさらずについてきて下さいね」
彼らは噂とは違い、目がくぼんだ死人のような見た目ではなく、ごく普通の美男美女に見えた。そもそも話しかけても返事がないどころか、向こうから話しかけてきたのである。しかしこのまともに道もないようなところに突如として現れた彼らの制服には土一つ付いておらず、こんな時間に文化祭をやっているということ自体が普通ではない。
だが、幽霊なのかあやかしなのか正体は分からないが、梨依里の言う通り行かないと帰してもらえないのなら、ついて行くしかないだろう。それに今のところ敵意はないように見受けられる。
「分かった。案内してくれ」
俺はいきなり現れた彼らにガタガタと震えている他の面々には目もくれず、得体の知れない二人の学生に付き従う覚悟を決めたのだった。




