ちょっとブレちゃいました
梨依里以外の女子には全くと言っていいほど免疫のない俺には、青山のこの行動は刺激が強すぎた。もちろん性的な意味で、である。
「梨依里が機嫌悪くなるから冗談でもそういうのはやめてくれ」
だがこんな俺の心境を梨依里が見逃すはずがない。青山に感じた性的衝動は一時の気の迷いとして、忘れてしまうのが一番である。そうしないと後で問い詰められた時に応えられず、嫉妬した梨依里に俺の童貞が奪われかねない。
「もう! 釣れないなあ」
「釣られてたまるか」
いや、奪ってもらえるならそれはいい。俺としても願ったり叶ったりだ。しかしあの妖猫は決まって寸止めを喰らわしてきやがる。それなら強引に押し倒せってか。いやいや、いくら俺の力が強くても、猫力を使う妖猫にただの人間が敵うわけがないだろう。つまり我慢出来なくなって梨依里を力尽くでどうこうしようにも、それすら叶わないということなのである。寸止めは本当にツラいんだぜ。
そんなことを考えているうちに、ほどなく俺たちが乗るゴンドラがやってきた。係員が扉を開けて、まず先に先客を降ろす。その後梨依里を真ん中にして奥に俺、入り口側に宮崎が座り、青山たち三人は正面に並んだところでゴンドラの扉が閉められた。
この観覧車は一周を約二十五分かけて回るので、動きが少しゆっくりとしている。しかしさすがは直径百メートルを超えるだけあって、半分くらいの高さでも迫力は充分だった。周囲に高い建物が一つもないので、まるで空中を飛んでいるような気分である。
「かまくん、すっごい高いですね! 下から見るより高く感じます!」
「いりちゃんほら、あんなに遠くまで見えるよ!」
宮崎はどちらかというと俺の方に寄りかかろうとする梨依里の肩を強引に抱き寄せて、自分の方に向かせようとしていた。珍しく梨依里が助けを求めるような視線を俺に向けているが、すまん梨依里、少し辛抱してやれ。そんな思いを込めて俺は手を握ってやることしか出来なかった。
「陽、十六夜さん困ってるよ」
宮崎のちょうど対面に座っている田村が、見るに見かねて友人をたしなめる。しかし梨依里を手中に収めた宮崎は聞く耳を持たない。
「そうだ、写真撮ろうよ、写真!」
青山が何とか宮崎の気を逸らそうとしてスマホを取り出した。
「あ! 清美、それなら私ので撮って! いりちゃんとのツーショでお願い。久埜猪ちょっと離れて」
「俺は邪魔者か」
「あはは、久埜猪君も十六夜さんと撮ってあげるから」
青山が宮崎からスマホを受け取って写真を撮ると、狭いゴンドラの中で撮影会が始まった。
「青山さん、私も撮ってあげますよ」
突然、梨依里が青山からスマホを奪い、場所を譲ろうと席を立つ。
「え? いいよいいよ」
「いいからほら、座って座って」
「え? え? あれ?」
梨依里のヤツ、猫力を使ったに違いない。青山はよろけるように、それまで梨依里がいた俺と宮崎の間にストンと腰を下ろしていた。
「かまくん、もっと青山さんの方に寄って下さい。三人入りません」
「あ? ああ……」
俺は言われた通り、ほんの少し青山の方に上半身を寄せる。
「じゃ、撮りますよ、はい、ツナチーズ!」
何だよそのツナチーズって。ちょっと美味そうとか思っちまったじゃねえか。ところがシャッター音と同時にゴンドラが風に揺れ、梨依里がよろけてしまう。
「おー!」
咄嗟に手を出して梨依里を支えたが、俺の動きを見て妹尾と田村がパチパチと手を叩いた。
「さすが久埜猪君」
青山も遅れて手を叩き始める。
「青山さん、ごめんなさい、ちょっとブレちゃいました」
梨依里から返されたスマホの写真を見た青山は、心なしか赤くなったように見えた。梨依里はどうしてウインクなんかしてるんだろう。
「う、ううん、いいよ。十六夜さん、ありがとう!」
その後青山はスマホを隠すようにバッグに入れてしまったので、どんな写真だったのか見ることが出来なかった。宮崎も気になったようでしきりに見せろと言っていたが、青山はついに写真を見せることはなかった。
こうしてゴンドラ内の撮影会は、残り四分の一周の辺りで無事に終了した。




