何なら私が腕組んであげようか?
マンハッタンランドねえ。着いてみて分かったが、ここにはマンハッタンを思わせる建物も風景もない。どうせどこぞの有名な遊園地を真似て、何も考えずに名付けたんだろう。
「梨依里、まずどれに乗る?」
乗り物に関しては現在のテーマパークの主流なのか、パスポートでどれも乗り放題だ。と言ってもあるのはメリーゴーラウンド、コーヒーカップに小型のジェットコースター、あとは劇場みたいなのと古風なお化け屋敷である。遊具に毛が生えた程度というわけではではなかったものの、一日遊ぶにはかなり物足りないバリエーションだ。
もっとも観覧車はそれなりに金をかけたみたいで、日本でも二番目の大きさらしい。直径は百五メートルで高さは百十六メートルだそうだ。ただその飾りというか模様というか、この遊園地はどこまでジンギスカン推しなんだよ、と言いたくなる模様だった。
それでも園内にはジンギスカンどころか、羊肉を出すところはどこにもない。ジンギス飯というメニューがあるが、これは単なる肉野菜炒め定食らしい。パンフには大切な友達を食べるなんて出来ませんと書いてあるから、ここにもツッコんでほしいということなのだろう。
「もうすぐお昼ですし、午前中に一回観覧車に乗ってみませんか?」
「そうだな。さすがに日本で二番目の観覧車には乗っておくべきだろうな」
行き先が決まれば後は早いものだ。俺たちはマンハッタンランドから少し離れたところにある観覧車に向かって歩みを進めた。
観覧車は昼近くになって来園客が増えてきたせいか、わずかに行列が出来ていた。何十分も待たなければならないほどではないが、その中に宮崎たちもいたからたちが悪い。彼女らはせっかく並んでいた行列から離れて、最後尾の俺たちのさらに後ろに並んだ。
「いりちゃんも観覧車乗りにきたんだね」
「あの陽ちゃん、どうしてわざわざ列から飛び出してきたんですか?」
「いりちゃんと一緒に乗りたかったからだよ」
宮崎の勝手な言い分に、同行していた友達三人がしきりに俺に手を合わせて謝っている。やはりこの三人は良識の持ち主のようだ。
「ねえ久埜猪、思ったんだけどどうしてもいりちゃんはアンタがいないとダメみたいだし、一回だけ一緒にダメかな」
観覧車は一度に六人まで乗れるので、俺たちと宮崎たちが一緒に乗ることは出来る。
「久埜猪君、私たちからもお願い。一回乗れば陽も納得すると思うから」
青山の言葉で妹尾と田村も例によって俺に手を合わせてくる。まあ、この遊園地の乗り物のバリエーションから考えて、その日のうちに二回目が不可能ということはないだろう。一回くらいなら付き合ってやるか。
「一回乗ったら後は別行動だぞ。それを守るなら梨依里次第だ」
「守る守る! ね、いりちゃん!」
「うーん、かまくんがいいって言ったんなら……」
「梨依里、一回だけ我慢してやろう。それで満足するならその方がいい」
「が、我慢って……」
これにはさすがの宮崎も苦笑いだ。
「それより久埜猪君、デートの邪魔しちゃってごめんね」
謝ってきたのは妹尾だ。
「ま、お前たちも被害者みたいだしな、気にするな」
「ちょ、被害者ってどういう意味よ!」
「陽ちゃん、ほら、並ぼ!」
俺に食ってかかろうとした宮崎の腕に梨依里が巻きついた。その瞬間宮崎がデレデレになったので、俺と青山たち三人が呆れた表情を向けてやった。それにしても梨依里がぶら下がってないと腕が寂しいな。
「久埜猪君、十六夜さん取られちゃって寂しいんでしょ。何なら私が腕組んであげようか?」
青山が俺の前に回って腰を折り、腕を後ろに組んでお辞儀のような体勢から上目づかいを向けてきた。あざといぞ、青山。ちょっとグッときちまったじゃねえか。思わずその時俺は、青山の瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚に陥っていた。




