おっきいから安心感があるんですよ
車窓から見えたもの、それはこれまでの田園風景には不釣り合いの、どこぞのネズミの国のような城を模した建物がそびえ立っている姿だった。しかし問題はそこではない。サイズ感かおかしいのである。どう見ても一番高いはずの塔でさえ、高さが二階建ての建物ほどしかないのだ。
電車を降りていざ近づいてみると、城は入園ゲートも兼ねており、さらに入園券売り場も併設されていた。まあ田舎だしな、こんなもんだわな。
「広いですね!」
ゲートをくぐると、その広さだけには圧倒された。駐車場も含めてだが、敷地面積は東京ドーム換算で宣伝されているくらいだから、うさやんもさるやんもジンギス……もとい、ひつじやんもさぞ伸び伸びと暮らしていることだろう。
「あ! あれ、うさやんでしょうか」
梨依里が指差した方を見ると、ピーターなんとかっぽい着ぐるみがこちらに手を振っている。おいおい、商標的に問題ないのかよ。いくら茶色い部分はグレーで着ている上着も赤だからって、知ってる人には丸分かりだと思うぞ。
「可愛い!」
元があのラビットなのだから可愛いのは当然だ。梨依里はそんな有名なキャラクターだとは知らないので、嬉しそうに手を振り返している。
道理でウェブサイトでは顔以外にモザイクがかかっていたわけだ。すると全身モザイク処理されていたさるやんは、もう嫌な予感しかしない。
「きゃーっ! さるやんも可愛いですよ!」
俺は頭を抱えざるを得なかった。色は水色に変えられているが、あれはもう紛れもなくモンチなんとかってお猿さんだよ。確かあのお猿さんにはいろんなカラーバリエーションがあるんじゃなかったか。
「ところでひつじやんはどこなんですかね」
「ジンギス山ってところにいるらしいぞ」
この遊園地、設定がツッコんでくれと言っているとしか思えない。パンフには写真付きでジンギス山についての説明がなされている。それによると不思議な模様が描かれた山だそうだが、まるでジンギスカン鍋そのものだよ。しかも小高い山の頂上で本物の羊が佇んでいる。可哀想に、これじゃ丸焼きじゃねえか。
「行ってみましょう!」
ジンギス山の方向を示す立て札を見つけて、梨依里が俺の腕を引っ張る。何はともあれ、俺たちはひつじやんの楽園に向かうことにした。
ジンギス山は意外にもちょっとした丘くらいの高さがあった。芝を刈って付けた模様には絶対に意識を向けてはならない。なぜならそこには羊が放し飼いにされており、ふれあい動物園のようになっているからだ。また、麓の一角は十メートル四方くらいのスペースが柵で囲われていて、そちらではウサギが放し飼いになっていた。
「あ! エサあげられるみたいですよ!」
売店では人参スティックが紙コップに入って売られていた。
余談だが人慣れしている羊や山羊はなかなか頭がいい。子供の頃に親父に連れて行ってもらった動物園ではおっかなびっくりだった俺の手に、大きな羊がわざと噛みついてきたのだ。
しかしそれが全く痛くなかった。彼らの歯は尖っていないので、噛まれても痛くないということだ。だから安心してその手に持っているエサをよこせという、羊からのメッセージだったと今でも俺はそう信じている。
あの時は子供ながらにものすごく感動したものだ。親父とのいい思い出でもある。故に俺はふれあい動物園が大好きだった。
「よし、やるか」
「はい!」
ほどなくして俺たちは、大人から子供まで多くの羊に囲まれることとなっていた。開園直後だったためかまだエサをもらっていなかったようで、彼らは相当空腹だったらしい。しかし無邪気な羊に纏わりつかれる梨依里もきゃっきゃと楽しそうだったし、これはこれでアリだと思った。
「楽しかったぁ! かまくんもひつじやんに懐かれてましたね!」
「俺は人間以外には好かれるタイプみたいだぞ」
「おっきいから安心感があるんですよ、きっと」
梨依里はそう言って俺の腕に巻きついてきた。
「さて、次はどこに行く?」
「そうですねぇ」
辺りをキョロキョロと見回す梨依里を見て、俺はここに連れてきてやってよかったと心からそう感じていた。
羊が噛みつくくだりは私の実体験です




