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おふぁようごらいまふ

 外気温が低い分、電車の中は暖房が効いているせいでコートを着ていると暑いくらいである。このままだと電車を降りた時に寒くなるので、俺たちはひとまずコートを脱ぐ。それからシートに座ると、すぐに梨依里はウトウトし始めた。


「かまくん、ちょっと寝ても平気ですか?」


 そのまま眠ってしまうのかと思ったが、眠そうな目を糸のように細めながらも、梨依里はがんばって起きていようとしていたらしい。しかし早起きして弁当まで作ってくれたのだから、眠くなるのも無理はないだろう。


「いいぞ、ほら、こっちにもたれろ」

「ふわぁい……」


 肩を抱き寄せると無抵抗に体を預けてくる梨依里の膝に、脱いだコートをかけてやる。それで安心したのか、ほどなく小さな寝息を立てて眠ってしまった。


 ふと隣の車両に目をやると、宮崎たちもこの電車に乗り込んだようだ。目的地が一緒なのだから同じ電車に乗るのは仕方ないが、宮崎は制止する青山たちを振り切って性懲(しょうこ)りもなくこちらにやって来た。しかし眠っている梨依里を見てさすがに騒ぐのは遠慮したようだ。


「いりちゃん眠っちゃったんだ、可愛い」

「朝早く起きて弁当まで用意してくれたからな。着くまで寝かせておいてやってくれ」

「え? 久埜猪(くのい)が持ってるそれ、いりちゃんの手作り弁当なの?」


 宮崎は俺が持っていたバッグを羨ましそうに見つめる。天地がひっくり返ったってやらねえぞ。


「遊園地とかで食べると高いし、あんまり美味しくなかったりするもんね」


 田村がポニーテールを揺らしながら言うと、青山も妹尾(せお)も同意とばかりに首を縦に振っている。そうは言っても実際は美味いものを食わせてくれる遊園地もあるだろう。しかし値段が高いのはどうしようもない事実である。


「でも久埜猪君って、十六夜(いざよい)さんにはすごく優しいよね。いいなあ、私もそんな彼氏が欲しい」


 青山が突然そんなことを言い出したもんだから、梨依里がピクッと反応していた。宮崎たちが来た時に起きてしまっていたのかも知れない。それでも狸寝入りを決め込んでいるのは相手にするのが面倒くさいからだろう。


「俺みたいな彼氏が? 楽しいことなんて何もねえぞ」

「そんなことないよ。十六夜さん、いっつも楽しそうにしてるし、久埜猪君のこと本当に信頼してるっていうのが伝わってくるもん」

「あ、それ私も思う。久埜猪君ってぶっきらぼうに見えるけど、十六夜さんのことだけは絶対俺が守る、みたいなところあるもんね」


 そこに妹尾まで同調し始めた。


「待て待て、俺はそんな素振り見せてるつもりはねえって」

「うふふ、女の子はそういうのに敏感なんだってば」


 田村が青山と妹尾の言葉を引き取って応える。


「そうなのよねえ、いりちゃんも久埜猪にしか懐いてないし。悔しいけど横尾と比べると久埜猪の方がオトコマエだもんね」

「何だ宮崎、お前の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。頼むから雨降らせるんじゃねえぞ」


 あと俺と横尾ごときを比べるんじゃねえ。


「しっつれいね! でもほら、横尾って目つきとかすごいいやらしいし、いっつもいりちゃんの太ももとか見つめてるし」


 何だと、それは聞き捨てならない。横尾には一度痛い目を見せておく必要があるな。


「あ! 私もこないだ階段昇ろうとしたら変な距離で後ろにつかれたから逆に降りちゃった」


 田村が思い出したようにしかめっ面をしている。


「そういう点でも久埜猪君は十六夜さんしか眼中にないって感じだし、女子の中ではけっこう人気あるんだよ」


 青山がちょっと熱っぽい視線を俺に向けてきた。よせ、俺はそういうのには慣れてねえんだ。


「ふにゃ……あれ、皆さん、おふぁようごらいまふ……」


 梨依里のヤツ、とうとう我慢しきれなくなって目覚めたフリを始めやがった。もっとも俺としては助かったというべきだろう。


「じゃあまたね、ほら(よう)、邪魔しちゃ悪いから行くよ」

「え、ちょ、ちょっと……」


 梨依里を起こしてしまったと思ったのか、青山たちは宮崎を連れて別の車両へと移動していった。


「さて、そろそろ着くぞ」


 小一時間ほど電車に揺られた頃、車窓の向こうにようやくUSGらしき建物が見えてきた。電車も空いてるし寒いし、この分ならどこぞの有名な遊園地のように混雑するということもないだろう。


「それにしても、あれはねえわな」


 俺は近づくにつれ明らかになっていくUSGの建物を見て、溜め息交じりに思わず呟いていた。

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