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ちょっとエッチで可愛い妖猫と送る甘い生活  作者: 白田 まろん
第一章 かまくんとりいり
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食って知る愛情もあるということだ 前編

 今は春先で、ちょうど冬眠から覚めたところなのだろう。聞いた話だがこの時期の熊はそれほど体力がないそうだ。本来なら山奥にこもっているはずだが、運悪くエサを探してうろついていたところにたまたま出くわしたのかも知れない。油断して熊鈴を持って来ていなかったのは失敗だ。腹を減らしているとすれば逃げずに襲いかかってくる可能性もある。


 そして残念なことに、どうやら熊は俺たちを獲物と決めたらしい。ゆっくりと大きな体を見せると、間髪を入れずにこちらに走り寄ってきた。体力がないという割にはこの熊、なかなか強そうに見える。


「うにゃー!」


 その時、梨依里の放った声は狼の遠吠えの猫バージョンのように迫力があった。さすがは腐っても妖猫(あやかし)だ。この俺が思わずビクついちまったし、熊も一瞬立ち止まったくらいだからな。しかし梨依里、そこはやっぱりシャーとかの方がよかったんじゃないか?


「かまくん、熊のお肉は好きですか? 私は食べませんが」


 そう言えばコイツ前に自分の爪は熊でも人でも四枚におろせるとか言ってたっけ。


「いや、俺も好きじゃねえな。ってここでリアル四枚おろしを見せられるのかよ!」


 だが、セリフが終わる前に突進してきた熊の巨体は、俺ではなくまっすぐに梨依里に向かっていた。体の大きな俺より、奴は梨依里を獲物として選んだようだ。


 俺がそれに気付いた次の瞬間、すでに黒い毛の塊が梨依里を捉えていた。いや、少なくとも俺の目にはそう映っていたのである。血をまき散らしながら俺の横を通り過ぎてく熊の巨体。


「り、梨依里!」


 それまで俺のすぐ前にいたはずの梨依里の姿がどこにも見当たらない。飛び散った血はまさか、まさか梨依里の!


「梨依里!」


 俺は全身から血の気が引いていくのを感じていた。おいおい待てよ、冗談だろ。俺には梨依里が突進してきた熊にはね飛ばされたようにしか見えていなかった。熊でも人間でもひと撫でで四枚におろせるんじゃなかったのかよ。


「梨依里!」

「はい?」


 ところがそんな心配をよそに、梨依里が俺の横にすたっと降ってきた。そう、まさに降ってきたのだ。何だ、飛び上がってただけだったのか、よかった。今の動揺を梨依里に気付かれるわけにはいかない。そんなことになったら何を言われるか分からないからだ。


 それから一安心した俺が通り過ぎた熊を目で追ってみると、黒い毛の塊はすぐ後ろで首から血を流して絶命し横たわっていた。というか首がない。


「ぬぅ、かまくん、お手々洗いたいですぅ」


 見ると梨依里の右手に熊のものと思われる血が付いている。


「うわっ! えんがちょ!」

「な、何ですか、えんがちょって!」

「いや、冗談だよ。それよりお前、すげえな」


 熊は立ち上がれば俺と同じくらいの大きさがありそうだったのに、梨依里は巨体にはね飛ばされたのではなく、その首を一瞬ではね飛ばしたのだった。思い出したぞバカ猫め、心配させやがって。


「えへへ、褒めて褒めて」


 そう言って頭を突き出してきたので、わしゃわしゃと撫でてやる。


「もっと優しくぅ!」

「うるせえな」


 俺はふくれっ面の梨依里をひょいと持ち上げて、右側の肩に乗せた。左肩だと血の付いた右手で頭につかまられそうだったからである。


「家帰ったら洗ってやるからよ」

「本当ですか? やったぁ!」

「あ、こら、バカ猫! 血が付いた手で触んな!」


 時既に遅く、梨依里は両手で俺の頭を抱きしめていた。ま、柔らかい胸が顔に当たってるからよしとするか。

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