人間の女子にコクられたことなんかねえんだよ 3
「は?」
何だこれ。まるっきり告白じゃねえか。俺は中学時代に野々村のことなんか知らなかったから、一緒のクラスになれて嬉しいなんて言われる覚えもねえぞ。
しかし野々村の声が小さかったわけでもなかったので、静まり返ったクラス中の視線を集めることになってしまった。中でも梨衣里の視線は俺を射殺すんじゃないかと思えるほど鋭い。ちょっと待てよ、これ丸っきり俺のせいじゃねえじゃん。
「悪いけど俺、お前のこと初めて見たんだけど」
「はいあの……一緒のクラスになったことなかったですし、私が遠くで見ていただけだったので……」
まずいぞ。この流れで行くとコクられるのも時間の問題としか思えない展開だ。野々村は震えているが、適当なところで切り上げて去ろうという意思は微塵も感じられない。
もちろんコクられたところで断るだけだが、俺は人間の女子にコクられた経験など今まで一度もなかったから、どうやって断ったらいいのか分からないんだよ。すまん梨衣里、睨むのは後にして助けてくれねえか。
そう念じながら梨衣里の方を見ると、俺の表情がよほど情けなかったのか、こともあろうにあのバカ猫は吹き出していやがった。しかしすぐに立ち上がってこちらに寄ってくると、なんとそのまま俺の膝にちょこんと座ったのである。
当然、クラスの空気が一瞬にして凍りついた。
「お、おい、梨衣里……」
「野々村さんは中学の時のかまくんを知っているのですね。よかったら私とお友達になりませんか?」
「か、かまくん?」
クラスの凍った空気の源は野々村なんじゃないかってくらいに、三つ編みお下げの丸顔少女は青ざめていた。
「私はかまくんの彼女なんですけど、実は中学時代のかまくんをあんまりよく知らないんです。野々村さんが教えてくれると嬉しいのですけど」
「おい、梨衣里!」
高校生生活初日にとんでもないことをカミングアウトしやがったよ、コイツ。お陰でクラスの凍てついた空気も一気に沸騰だ。女子はきゃあきゃあ言ってるし、男子は絶望、羨望、憎悪の入り交じった視線を俺に向けてきている。
ひとまず野々村にコクられることはなくなったが、事態は余計面倒な方向に進みそうだ。助けてくれたのはありがたいが、引っかき回せなんて念じた覚えはねえぞ、アホ猫。
俺が梨衣里を睨みつけていると、この中途半端な状況でタイミング悪く担任が教室に入って来てしまった。
「はーい、騒いでないで皆席について下さい」
そして担任はホームルームの始まりを告げた。