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本当の敵、本当の味方

作者: 秋雨玲翔

カツンカツン

この靴はよく音が鳴る。この階段を登る音さえもリズミカルに聞こえる。

私が聞く最後の音になるだろう。ゆっくり浸透させよう。この音をこの体に。

3階、4階、5階……。

少しずつ空に近くなる。私のゴールにも近くなる。

私の人生のゴールを私で決めれる。そのことに少し嬉しさがこみ上げる。私を否定し続け、私の決めた人生を、私が歩みたかった人生を歩ませてくれなかった周りはもう邪魔をしない。

私が決めたゴールを、私の決めたことを誰にも邪魔されない。そんな嬉しさだろうか。

1つ邪魔をするのなら、恐怖心だろう。さっきから胸の鼓動が激しい。でもそんなのもう私の枷にも邪魔にもならないほど私は機械的に階段を登り続ける。


思えば私の人生は否定だけだった。勉強も運動も才能もなく、先生、親、友達、社会すらも私を拒否した。

「使えない」「いらない。」「邪魔」「無駄」

私を壊す言葉をそこら中で聞いた。そして私を見事に壊していった。

きっと言った側はストレスや溜めてたものを晴らすように言ったのだろう。だが私にとっては重く、そして鋭く私の心を抉っていった。

だから、私はこう答える。

「ごめんなさい。あなた達の望む私になれなくて。私らしくいてしまってごめんなさい。」

でももう、そうも答えなくていい。何度自分を呪ったり傷つけたりしたかわからないがもうそれも必要ないのだ。

そろそろ屋上に近づく頃だ。私のゴールを授けてくれる空に近づいた。

屋上の戸を開ける。風が私を包み、私のことを誘導してくれる。

「ごめんね、私。あなたを幸せになるしてあげれなかった。」

フェンスの近くでそう口にした時、どこからか声が聞こえた。

「今更なにが幸せにしてあげれなかっただ。都合が良すぎる。」

「……だれ?」

少し遠い声だけど私に似ている声で私を馬鹿にする。この期において鬱陶しいことこの上ない。

「ポケットから鏡を出して自分を見てみな。」

「……わかった。」

なぜ私がポケットに鏡を持ってることを知ってるのかわからないが言われた通りにする。

顔の向こうには私の顔がある。死ぬ前である故にやつれた顔と引きつった笑顔を貼り付けたゾンビのような姿が見える。

鏡を見ていると変化が起こった。

「やあ、憎き敵、私さん。」

「!?」

鏡の向こうの自分の口が動き声が聞こえた。

幻聴なのかな……死ぬ前だし仕方ないのかもね。

「幻聴であろうがなかろうがどっちでもいいんだよ。私は最後に私と話がしたかった。」

「どんな話?」

「本当の敵の話。」

「本当の敵?」

「私にとって周りは敵であったでしょう。でも、本当に敵として見ていたのは周りじゃなくてなにもできなかった自分のことを敵として見ていなかったかという話だよ。」

「私自身が私を敵として見てたって言いたいの?」

「そうだよ。自傷し、蔑み、呪い、私は私になにをしてきた?私を幸せにする気なんて無かった。私を初めから私に責任を押し付けて見えないようにしてたのはだれ?」

「……なぜそう言い切るの?私は私なりに努力をしてきたでしょ。私ならわかるでしょ。」

「努力が実を結ばなかったことを八つ当たりしてたのは誰だって話。あなたは初めから誰も、自分すら見えてなかった。あなたはひたすら何かに当たることをし続けた。」

「……今更それがなんだっていうの?」

もう、ゴールを決めた私には関係のないことだ。

「私に問う。私のゴールは本当に死ぬことしかないか?」

「もう、終わりにしたい。」

「私をもう一度幸せにしてくれないか?私が私の1番の敵であると同時に一番私を知る1番の身近な人だ。だから、今度は私を見て歩んでくれないか?本当の私を見てくれないか?痛い時に痛い私を、苦しい時に苦しい私を見て助けてくれないか。改善してくれないか?」

「……」

きっとこれは誰かに言いたかった想いなのだろう。今自分に言うこの想いは誰か気がついてほしかった想いなのだろう。


だから、私は答える


「ゴールを一緒に決めようか」


そして私は青く見える空を音と色で曇らせた。

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