AND-roidを取り巻く環境について
1:概要
AND-roidとは、独立行政法人“FRANKE”によって製造,管理される生活支援用アンドロイドである。
単身生活をおくる若者が増加し、労働と家事の両立が困難になったことを背景に、利用者が仕事に行っている間、家事の一翼を担うための存在として政府主導のもと開発された。
2:用途の変化
現在は単身世帯の他にも、高齢者のみの世帯での介護や、共働きの世帯での育児なども担うようになり、元々のコンセプトである「家事をする家電」から「家庭を支える家族の一員」としての役割を果たすようになった。
3:利用方法とシステム
利用するためにはFRANKEへネットまたは書類による申請を行ったのち、料金を支払う(経済状況によって一部補助アリ)ことが必要。
個体によって外見の性別や初期の性格に差があるが、申請の段階で個体を選ぶことはできない。
(AND-roid普及当初は申請時に細かなパーツをオーダーメイドのように決められたが、申請の増加によって対応できなくなったために完全ランダムとなった。)
また、一度AND-roidを放棄(契約解除)すると次回以降の申請が格段に厳しくなり、二回目以降は特別な事情がない限り申請は認められなくなる。
(これはAND-roid普及初期に「見た目/性格が気に入らない」という理由で放棄と再申請が繰り返されたからである。)
原則としてAND-roidは一人に一体のみだが、近年企業名義で申請を出すことが認められるようになり、その場合は企業の責任者が複数の利用権限を持つことになる。
4:利用者の死後
AND-roidとの契約を解除する前に利用者が死亡した場合に備えて、利用開始時に以下の二つのパターンから死後のAND-roidの扱い方を決めることになっている。
(死後の処置は本人によって自由に変更できる。)
Ⅰ,AND-roid本体は処分し、利用者との記憶が記録されたメモリーディスクを利用者と同じ墓に埋葬する。
(盗難によるデータ悪用防止のため、このディスクから再度情報を取り出すことはできないようになっている。)
Ⅱ,AND-roidの利用権限を生前に指定した者(子どもや配偶者、企業の場合は後継者など)に譲渡する。
5:国による補助
前述の通り本来の目的は「利用者が労働に行っている間の家事」である。
そのため、何らかの労働をしているものは、その労働形体や種別に関わらずAND-roidの利用にかかる費用と電気代の一部について国から補助を受けることができる。
また、国が定めた収入以外の者は希望すれば通常の補助にいくらか上乗せされた補助が行われる。
6:型番
AND-roidは1体ずつに、ローマ字1字と1から9までの数字8桁による型番(例:L_1234-5678)が振り分けられている。
先頭のローマ字はその個体の大まかな性質を表しており、例で挙げた“L型”なら女性の見た目を模したものとなっている。
7:性能
基本的な性能はどの個体も同じで、料理、掃除洗濯、家計の管理、宅配の受け取りなどの“家事”、留守中の侵入者に対す通報と抵抗などの“防犯”、会話によるメンタルケアや内蔵されたセンサーによる定期的な健康診断など“健康管理の補助”の3つに加え、利用者とのコミュニケーションを通じて自己をより利用者個人に最適化させていくことができる。
また、利用者は追加データを購入することで“介護”や“育児”、“教育”などより専門的な役割を付与することができる。
開発計画段階ではインターネットに直接アクセスし随時情報を共有・更新するようにデザインされていたが、クッキングの危険性を回避するためになくなった。
主なエネルギー源は電気。
家庭用コンセントから充電できる。
旅行や長時間の外出の時はリュック型のバッテリーを携帯する必要がある。
8:AND-roidとロボット工学三原則
アイザック・アシモフが提唱したロボット工学三原則は以下の通りである。
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
AND-roidは概ねこの三原則に従うようプログラムされているが、いくつかこれに反する部分もある。
Ⅰ,利用者の留守中に不審者が侵入した場合は、利用者に危険が及ばない場合でも撃退する。ただし、専守防衛であること。(第一条に違反)
Ⅱ,利用者以外からの命令は一切を拒否することができる。(第二条に違反)
Ⅲ,利用者であってもAND-roid自身の機能を著しく損なうような命令は警告の後に拒絶することができる(第二条、違反)
など。
9:AND-roidの権利
普及当初は“モノ”として認知されることが多く、人間による暴力や破壊行為が目立っていた。
しかし、AND-roidが本来の目的を遂行出来なくなった場合その利用者の生活に大きな影響が出るため、AND-roidへの攻撃は従来の「器物破損」よりもはるかに重い罪となり、現在では完全な機能停止に陥らせるような破壊活動は「殺人」と同等の罪に問われることとなった。
また、他者のAND-roidを盗むことも「窃盗」ではなく「誘拐」として扱われるようになるなど、人間と同等の存在として扱われつつある。
(ただし、AND-roidに対して犯罪が行われたとき、被害者はAND-roidではなく、その利用者となる。)
10:AND-roidに心はあるか
AND-roidの開発に心理学と哲学の分野から関わった片成博士によると、AND-roidは“心”を持つように設計されているという。
勿論初期状態から備わっている性格は「Aという場合にはBという反応を返す」というルールによって感情があるように見せているだけである。
しかし、利用者と言葉を交わし、相手の反応を記録・解析して、利用者にとって「最も安らげる相手」を目指し最適化を図った結果として出来上がったものは“心”と表現するに値するものである。というのが片成博士の見解である。
この見解は多くの学者の間で議論の的となったが、最終的には片成博士の「心とは人と人との関係性の中で育まれるものである」とした論文の発表をもって一旦の収束をみせた。