第4話
やはり壁も屋根も、果ては中の装飾さえ真っ白い王宮にルクス達は案内された。
「よく来てくれたぁ。先に送られてきたミラッツィアの使いから知らせを貰ったよぉ。ゆっくりして行くといいよぉ。キミみたいな人が夫を伴って我が国にきてくれるなんて光栄だぁ。色々とあるだろうけど、なぁに心配しないでぇ、ミラッツィアがさぁ、なんとかするからぁ」
お前の毛は床の掃き掃除も兼ねてんだろうなと言いたくなるほど髪の伸びた年若い王が、のんびりとした口調でルクス達を迎え入れた。
「ああ、遠慮無くそうさせて貰う」
「貰います、だっちぃ!」
「いいのぉ、いいのぉ」
王はルクスの無礼な態度などお構い無しに挨拶を終えると、さっさと自室へと引き下がって行く。
「まったく、御心の広い方っちぃ。おい!お前!」
ミラッツィアは隅で床の雑巾がけをしていたデップリとした40センチ位の鳥に声をかけた。
この鳥は丸銀と呼ばれる種で胴と尻に脂肪が多く、丸いフォルムで銀色に光る黒い羽毛を持ち、その羽毛はよく水を弾き、速乾性と保温効果がある。
中型以上の生物に捕食されていることが多々あるが、人間が食べてみたところ、脂が多くて不味い為、人の捕獲対象では無い。
「ボァッ」
「ボクは警備や明日の舞踏会の準備の指示で忙しいっちぃ。この2人を客室に案内するっちぃ」
「ボァッ」
脚か尻なのかわからない短足で、それでも急いでるんですとわかるほど一生懸命パタパタと水色の足を動かし、ルクス達へ駆け寄って来た。
だが、途中でミラッツィアに足を引っ掛けられすっ転んでしまう。
「鈍臭いっちぃ、これだから、言葉も喋れず美しい翼も無く、飛べもしない鳥は嫌いなんだっちぃ。下等生物め、もたもたしないで、その短い足で早く立ち上がってさっさと行くっちぃ!」
先ほど、ルクスにやられた八つ当たりだろう。
下卑た笑みで罵倒し、三角い手をついて丸い身体を起こそうとしていた丸銀をさらに蹴飛ばした。
「やめろ。こっちはお前の憂さ晴らしに付き合ってる暇は無い。さっさと風呂に入って少し休みたいんだ」
いつもはルクス任せで、自らあまり知らない奴に話しかけないペルデが、まだ続きそうな丸銀イジメを制止する。
「おや、何の力も無いくせに、たかだかルクスに気に入られてるから夫になった分際で偉そうっ」
「偉いんだよ」
ミラッツィアが全て言い終わらない時点で、剣を抜いて首元に切りかかったルクスの刃は、目の良さを最大限駆使して避けたおかげで、掠っただけで済んだ。
「テメェ、今ペルデをバカにしたな!?ああ?」
憤って血走った目で問えば、
「いや、まさかっ、聞き間違いっちぃ。ワン!早く2人を案内するっちぃ!」
文字通り飛んで逃げた。ルクスが追いかけて魔法で撃ち墜とそうとしたが、
「ルクス、良い。気にして無いし、聞き間違いだって言うんだから聞き間違いだろ。それより、ワンに着いて行こうぜ」
ペルデがルクスの手を握って止め、ワンとミラッツィアに呼ばれた丸銀は、いつの間にかペルデの服の裾を掴んで、もう片方の三角い手で、こっちだ、とやっている。
「ペルデがそう言うなら…行くか」
ルクスもペルデの手を握り返し、ワンの案内により部屋へと向かった。