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第3話

白い砂地。

白い道。

白い建物。

建物から建物へと伸びる線に吊るされた白い洗濯物。


民の髪の色に合わせたものか、王の趣味かはわからないが、この国は白を基調としたものが多かった。


ここでは嫌でも、ルクスの深紅色の髪とペルデの紫紺の髪は目立ってしまう。


「異国の民同士の交わりで髪や肌、目の色の違いは千差万別になってきてるとはいえ、この国特有の白髪ばかりじゃあ、隠密行動は無理だな」


「とりあえず、今日はここに泊まるのか?」


「そうだな。さすがにこんな隣の国に惚れ薬はないだろう。ありゃあ、ガキの頃にサラッと文献見たかぎりじゃあ材料が貴重な物らしいからな。ここにはそんな財力は無ぇ。けど、この国の美点として、どこよりも新しく豊富な情報を持ってんだ」


「こんな閉鎖的な国がか?」


「ああ。この国の王の守護者ってのが…やっぱり、もうバレちまってるか」


大きな影が上空を過ぎり、ルクスとペルデの前に降り立った。


「やあやあ、よく来たっちぃ。キミが次の新守護者だと紹介された、あの王会で顔を合わせたっきりちぃけど、深紅色の髪と柚葉色の目はよく覚えてるっちぃよ、ルクス殿。せっかくの名誉ある地位に背いて逆賊っちぃか」


「はんっ、逆賊になった覚えはねぇな。私に背くような主君はいねぇし、私が守るのは昔も今もこれからも変わらずペルデだけだ」


ルクスは背にペルデを庇いながら腰の剣を抜く。


「いや、お前ら普通に会話してる所悪いけど、あっちのちぃちぃ喋ってんの、ぶっちゃけ鳥だよな。海辺や街中にいっぱい居て、ヒトんちの屋根によくフンを落としてく、白見鳥のでかい版。しかもちゃんと服着てる」


白見鳥シラミドリとは、名前の通り白くて全長50センチくらいの鳥だ。目が利いて、とても広い視野を持ち、雑食だから港で魚を食べるのに飽きたら、街中でゴミを漁ったりボケッとした奴が持っている食べ物を奪ったりしていて、時々、禍阿黒カアコと呼ばれる黒い鳥と縄張りを争っている。ちなみに行いについては、人間からの支持はどちらも低い。

白いから神々しいだの、黒いから畏怖の念を抱くだの、人の感想はそれぞれだが、大体はなんの力もないただの鳥だ。ただし、人間にも様々な個体があるように、稀にたかだか鳥だろうなどと、侮れない力を持つ鳥もいる、と文献に載っていたり。


「ああ、その白見鳥だ。ペルデは流石に王会へ連れて行けなかったから見てないよな?気を付けろよ、あいつのフンはデカイぜ」


「ボクは外でフンなんかしないっちぃ!!失礼なこと言うなっちぃ!!ボクは白見鳥の視野の広さと、空を自在に飛べる白く美しい翼を持った、神聖な存在っちぃ。魔法や道具を使わないと地を這うだけの無能どもが弁えろっちぃ」


「先祖が白見鳥食い過ぎた呪いでそうなった癖に、威張ってんじゃねぇよ。その自慢の羽ぇ、全部むしって首落として、丸焼きにしてクリスマスに出すぜ。私にその手の呪いは効かねぇしな」


よく手入れされ、生き物なぞ切ったことは終ぞございませんわなどと嘯いて眩しく光る剣を構え、「まずは首か」と呟き、前に出る。

輝き、柚葉色に深みを増した双眸と、口から覗く真白き犬歯が狂暴さを窺わせる。


「ちょっと待つっちぃ。ボクならキミ達に惚れ薬のことを教えてやれるっちぃよ。お前らもそのつもりで来たんだろっちぃ」


「知ってんならサッサと喋れよ。吐くまで痛め付ける時間が勿体無ぇだろ?」


「ボ、ボ、ボ、ボクはこれでも王の守護者っちぃ、痛めつけられて情報を漏らすくらいなら自死を選ぶっちぃ。でも、出来れば取引したいっちぃ」


ルクスに時間を掛けて情報ゲロッちゃうほどボコっちゃうよ宣言され、白い羽毛で分かりづらいが青ざめながらも反論し、取引しようぜと提案。


「取引?」


「簡単なことっちぃ。明日の夜に開かれる舞踏会にボクのパートナーとして出て欲しいっちぃ。キミみたいな王会で紹介されただけなのに、各国の王や守護者が恐れを抱いたほどの実力の持ち主、諸外国の者が招待される舞踏会で、いっときでもボクのパートナーとしてキミに踊って貰えればボクのみならず国の名声も上がるっちぃ。何処の国も経歴はどうあれ、実力主義っちぃ、逆賊になったなんて全然関係無いっちぃ。勿論、キミを捕らえに来るような者達は一切、この国に入れないっちぃよ」


「却下だ。んな面倒なことするより、やっぱ今お前を、クリスマスチキンにした方が早い」


「そんなことしたら、惚れ薬のこと聞けないっちぃっ、それにこの国を敵に回すことになるっちぃよ!!」


「ん?そうなったら、この国で私に刃向かう奴ら全員ヤッちまって、その後ゆっくりお前の脳を取り出して魔法を使って欲しい情報を取り出す。拷問して口を割らせる方が得意だからな、上手くいくかわかんねぇし、非常に疲れるが、やってやらないこともねぇだろう。まあ、ダメだったら他を探す。また手間も暇もかかるだろうけど、ペルデの為だ、絶対に見つかるさ」


白見鳥がここは一旦退却だと翼を広げようとした時、


「その取引乗ってやれよルクス。」


「なんでだ?」


「舞踏会とか踊るってのはわかるけど、王のステップが産まれたての仔馬レベルで、元いた所じゃあやらなかったろ?人集めて晩餐会くらいで。だから見たいな。この国で売ってる物とかも見て見てぇし。あと、ルクスのドレス姿なんて俺、見たこと無い。晩餐会でもお前、正装だけどズボンだったろ。舞踏会は流石にドレス着るんだろう?」


「なんだ、私のドレス姿が見たかったんなら、さっさとそう言えば良いのに。なんなら今着てやろうか?」


「いいや、明日の楽しみに取っておく」


あれやこれやが見たいと言ったのは本当だけど、ペルデは海歩きに疲れていた。贅沢を言えば、フカフカのベッドで眠りたいし、ご飯だって調理された温かな肉が食べたいし、たっぷりのお湯を張った湯船に浸かりたい。だが、分相応なことを言えば、小屋の片隅の藁に身を横たえ、お偉いさんの余り物に噛り付き、川で水浴びでも良い。

しかし、ここでルクスが暴れ出すと、どちらも次の国までお預けになってしまう。ルクスに言えば、魔法でどうにかしようとしてくれるだろうが、情報を取り出すのに非常に疲れると言っていたから、要らぬ負担になるようなことは避けたい。


「なら、決まりだな。おい、白見鳥!取引とやらに応じてやるぜ」


鳥油という美容液に塗れる機会を失った刃を鞘に納め、ペルデの為に白見鳥の案に乗る。


「それは良かったっちぃ。ちなみにボクは白見鳥だけど、ちゃんと名前があるっちぃ。王会の時に名乗ったっちぃよ」


「あ?知らねぇな」


短い相槌に、何をどうでも良いことを喋ってんだこの鳥マジうぜぇ、という苛立ちを隠さないルクス。


「ミラッツィアだっちぃ。今度はちゃんと覚えておくっちぃ」


「良いから、ちぃちぃ言ってねぇで、とっとと私達が泊まれる所にでも案内しろよ」


片手をシッシッと動かしたのは、今は追い払う為ではない、早く動けという動作だ。


「まず王への紹介が先だっちぃ」


「そんなもんは後だ。ペルデが疲れてるんだ。ゆっくり休ませたいから宿が先だ!」


「どっちにしてもキミ達が泊まるのは王宮の中ちぃ。だから王にご挨拶してからじゃ無いと無理っちぃ」


流石に王の守護者といえども、王に無断で余所の人間を泊める訳にはいかない。

内緒で拾ってきたあげく、ウチで飼うなんて許しません!元の場所に帰してらっしゃい!

じゃあ済まないのだ。


「ああん?テメェ、よりによって、んな堅苦しぃ所に…」


「俺たちは余所者だからな、そこらの歓迎されてない宿に泊まるより、幾分マシじゃないか?特に飯とか朝も晩出るだろうし、その辺の店じゃあ食えないくらい、きっと凄ぇ豪華だぜ」


「けどよ、お前、疲れてんのに大して面白くもねぇこの国の王なんかに挨拶とか、かったるいだろ?」


ルクスは振り向き、気遣うようにペルデの頬を撫でた。


「挨拶くらいどうってこと無い。それに、俺も自分の滞在する王の顔くらい知っておきたいしな」


「わかった。愛するお前がそう言うなら、今晩の宿はこの国の城にするか。おい!ボサッとしてねぇで、案内しろよ鳥頭っ」


鳥頭とは、ルクスはミラッツィアの見た目のままを言った訳では無く、悪口としての意味で言ったのだが、ミラッツィアは、気づかず、


「だから、ボクの名前はミラッツィアだっちぃ」


ルクスはボクの名前を忘れたんだな。忘れっぽくて困った奴だと思い、もう一度、親切に名を名乗ってやったら、ルクスが再び剣を抜いたので、急いで二人を案内すべく飛び立った。

先ほどの、ルクスの野蛮な行いで感じたストレスのせいで抜けた、白い羽を風に散らせながら。


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