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第四話 石

 ふう、せっかく見逃してあげようと思ったのに困ったスライム達だ。

 無数のスライム達が洞穴からこちらに向かってくる。

 とりあえず逃げないとやばそうだ。


「ぴぎ!」 


 しかし、逃げようとする僕の前に一匹のスライムが立ちはだかる。

 たった今、余計なことをしてこの状況を作り出したスライムだ。


「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 奴は勇ましく声を上げながら、僕に向かって飛びかかってくる。

 最初に会ったラッシュスライムと行動が全く同じだ。


「てい」


 持っていたカバンで飛んでくるスライムをたたき落とす。


「ぴぎ……」


 力尽きて消えていくスライム。

 その場には魔石だけが残る。


 ふはははは。

 一体程度ならしゅんころだよ、しゅんころ。 


 だが、さすがにあの数を相手にすることはできない。

 スライム達は川を飛び越え、どんどんこちらに近づいてきている。

 魔石を拾ってアイテムボックスに入れ、スライム達に背を向けて走り出した。


 走りながらスライムの様子を窺う。

 どうやら、飛び跳ねるのは障害物を越えるときだけのようで、スライム達は地面を這いながら進んで来る。


 スライム達が進むスピードは遅い。

 僕がゆっくり走るのと同じくらいだ。

 慣れない山道とはいえ、逃げ切ることは簡単だろう。


 まあ、そんな気は全くないけど。


 あっちが先に襲ってきた以上、僕は自分の都合だけを考えて行動する。

 スライム達には僕の経験値になってもらう。

 ついでに本来の目的である洞穴もゲットだ。


 さて、どうやって倒そうか。

 スライムと十メートルほどの距離を維持して走りながら考える。


 そうだ、一応あれを使っておかないと。


 少しだけ後ろを振り向いて【鑑定眼Ⅰ】を使用する。

 モンスターに対して使うのは初めてだ。

 どんな感じかな?


――【鑑定眼Ⅰ】――


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:ラッシュスライム

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 知ってる。


 いや、ラッシュスライムって普通は種族とかになるんじゃないの?

 あれじゃあ、僕の名前が人間になってしまうと思うんだけど……。 


 おっと、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 ラッシュスライム達と戦うとして、問題は武器と敵の数だ。

 武器カバンは今の攻撃が限界だったらしく、片面が完全に溶けかかって中のものが半分見えている。

 さすがにこれ以上は攻撃に使えない。

 走るのに邪魔なのでアイテムボックスに収納する。


 ……今何気なくやったけど、アイテムボックスにはカバンごとアイテムボックスに入るみたいだ。

 容量がきつくなったときに活用できるかもしれないから覚えておこう。


 それはともかく、何か武器になりそうなものはないか一応アイテムボックスの中身を確認しておこう。


 パン×99 

 干し肉×99

 水×99

 寝袋×1

 ラッシュスライムの魔石×2

 【天啓】のスキルオ―ブ×1

 石×99

 猛毒キノコ×10

 毒消しキノコ×4

 回復キノコ×1

 カバン×1


 あれ?

 【天啓】のスキルオーブに名前が変わってる。

 最初に見たときはスキルオ―ブとしか表示されてなかったのに。

 鑑定したからかな?


 しかし、わかってはいたが武器に使えそうなものは石と猛毒キノコくらいしかない。

 でもラッシュスライムはかなりの紙装甲だからこれでも何とかなるかな……?


 武器はこれで頑張るとして、どうやってあの数を倒そうか。

 洞窟を攻めるなら、猛毒キノコをたくさん集めて巣の中にばら撒くんだけどな。


 ……よし、キノコの代わりに石をばら撒こう。

 たくさんあるからね。


 走る速度を上げ、一気にラッシュスライム達を引き離す。

 後ろの方から「ぴぎー!」という声が重なって聞こえてくる。

 心配しなくても大丈夫だよ。

 逃げたりしないから。


 さらに暗くなった山道を走る。

 そろそろ夜が来る。

 ラッシュスライムを倒せても今日中には洞窟まで戻れないかな。

 寝床にするつもりで洞穴を探していたのに、これじゃあ本末転倒だ。


 かろうじてラッシュスライムの靄が確認できるくらいまで距離が離れた頃、僕は走るのをやめた。

 はー、しんどい。

 山道は走るのが疲れる。

 僕は運動部じゃなかったから尚更だ。

 でも、ラッシュスライムが追いつくまでに準備しておかないといけない。


「木登りとか何年ぶりかな?」






 なるべく枝が多く、幹が太い木を選んで登っていく。

 背が高くなった分、むしろ子供の頃よりも登りやすいかもしれない。

 まあ、遺憾なことながら僕の身長は高校二年生の平均を下回っているのだけど。

 その分体重が軽いから木登りには向いているかもしれない。


 三メートルほど登ったところで枝に腰掛けた。

 意外と早く登り終えたので、のんびりとラッシュスライムの到着を待つ。

 少しの間を置いて、ラッシュスライム達が到着した。

 数は……大体三十匹くらいだ。


 三十匹のラッシュスライムが枝に座る僕の真下へと集まって来た。

 足元が靄とスライムの灰色で埋め尽くされる。


 そろそろいいかな。


 僕はアイテムボックスからスライムに向かって、次々に石を落としていく。

 直径一センチ以下の小さな石がぱらぱらと落ちていく。


「あれ、効いてない?」


 僕が落とした石はスライムに降りかかるが、全く聞いていないようだ。

 よく見ると当たった石は全て溶けている。


 ……あれってやっぱり食べてるんだろうか?

 段々餌をあげているような気分になってきた。


 しばらくすると、ラッシュスライム達はその場でぴょんぴょんと跳びはね始めた。

 どうやら僕に向かって飛びかかろうとしているようだ。

 だが、明らかに高さが足りていない。


 ジャンプし続けるラッシュスライム達とひたすら石を落とし続ける僕。

 なんだこれ。 


 やがて、意味がないことを悟った一部のラッシュスライムが木を上り始めた。

 しかもラッシュスライムが通った部分は表面の皮が剥げてしまっている。

 こいつら、木を溶かしながら登ってきてるんだ。


 僕の方はというと、ひたすら石の雨を降らし続けたことで、アイテムボックス内の石はもう二十個しか残っていない。

 いや、違う。

 ようやく残り二十個まで辿りついたと言う方が正しいか。

 それにしても、同じ名前のモノをアイテムボックスから出す場合って、先に入れたものから出て来るんだね。


「ぴぎ!?」


 突然降ってきた拳大の石に、一匹のラッシュスライムが押し潰される。

 そして、それを皮切りに落ちる石の大きさが明らかに変化した。


 小さいものでも直径三十センチはある石がラッシュスライムに向かって降り注ぐ。


 ラッシュスライム達は飛び跳ねるのを止めて逃げようとするが、間に合わずに押しつぶされていく。


 みるみるうちに数を減らしていくラッシュスライムに最後の石を落とす。


 ズシン!


 落とした衝撃で地面が揺れる。

 直径約二メートル。


 巨大な石が隕石のごとく地面に残ったラッシュスライム達を押しつぶした。 

誤字チェックをしていたら「逃げ切る」が「脱げ着る」になっていてビビりました。

※アイテムボックス一覧にカバンが入っていなかったので追加しました。

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