第十三話 未来視Ⅰ
――スキル【未来視Ⅰ】を習得しました――
レベルアップに加え、スキル習得のメッセージが流れる。
【未来視Ⅰ】かぁ。
割とよくある能力だけど内容もいろいろあるよね。
どれくらい先の未来を見れるかによって使い方も違ってくるし。
僕が好きなのは数秒先の未来が見えるやつだ。
理由はカッコいいから。
雨あられと降り注ぐ攻撃をかすりもせずに潜り抜け、勝利を確信した敵の前に無傷で現れる。
そして動揺する敵に向かってこう言うのだ。
「お前の動きは全て見えている。ずっと前からな」と。
…………。
決め台詞が微妙だな。
しかも後半部分はちょっとストーカーっぽい。
これは没で。
よし、決め台詞はイルミナに任せよう。
仮にも小説を書こうと言うのだから、きっとイカした台詞を考えてくれるに違いない。
というわけでそろそろ【未来視Ⅰ】を使ってみよう。
――【未来視Ⅰ】――
その瞬間音が消え、キーンという耳鳴りに頭が支配される。
そして、視界が切り替わった。
なぎ倒される木々/弓や剣を構える人々/厳ついおっさんの石像/目の前で大きく口を開いた巨大なトカゲ――――
そこまで見えたところで耳鳴りが止み、映像が途切れた。
気がついたとき、僕は地面に寝転がっていた。
遠ざかっていく足音が聞こえる。
音のする方を見ると、青色の靄を纏った人影が森へと消えていくのが見えた。
さっき見かけた女の子だ。
反射的に立ち上がろうと手をつき、自分が何かを握っていることに気付いた。
それは茶色の小瓶だった。
金属のキャップで蓋がされていて、日本の栄養ドリンクによく似ている。
日本語で『えむぴーかいふくやく こどもよう』と書かれたラベルまで貼られていた。
「……なんだこれ」
小瓶に気を取られている内に女の子はどこかへ行ってしまった。
ああ、また話ができなかった……。
仕方ないので、女の子のことは諦めて小瓶を再度見る。
これ、あの子がくれたのかな?
とりあえず鑑定してみよう。
――【鑑定眼Ⅱ】――
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名称:えむぴーかいふくやく こどもよう
状態:正常
ランク:E
詳細:MPを20回復する。子供用。みかん味
原産地:クロスナ
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どうやらラベルに書かれている通りのモノみたいだ。
でも、どうして僕にこんなものを?
少し悩んだ後、ステータスを見て大凡の状況が理解できた。
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名前:ナルミ・ユウ
種族:人間
状態:正常
ギフト:【魔眼】
ランク:S
レベル:7
HP:16/18
MP:1/25
スキル:【魔力操作Ⅲ】【魔力付与】【鑑定眼Ⅱ】【魔弾】【魅了の魔眼Ⅰ】
【未来視Ⅰ】
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MPがほとんどなくなっている。
これは恐らく【未来視Ⅰ】を使ったせいだろう。
今は1だけ残っているが、一度は0になったんだと思う。
僕が気を失っていたのはMP切れが原因じゃないだろうか?
そして、そんな僕を発見した親切な女の子がその原因を悟ってMP回復薬を残していった。
多分こんな感じだと思う。
女の子が去った理由だけが謎だが。
まさか本気で僕に喰われると思っているのだろうか?
いや、それなら助けたりしないか。
女の子の真意は不明だが、MP回復薬はありがたくもらうことにする。
金属のキャップを回して蓋を開け、中身を飲む。
見た目だけでなく味も栄養ドリンクによく似ていた。
一応、薄らとミカンの味がするような気がしないでもない
ステータスを確認すると確かにMPが10回復していた。
それにしても、【未来視Ⅰ】はあまり使わない方がいいな。
いくらMPが必要なのかはわからないが、使うたびに気絶したらたまらない。
役に立ちそうなスキルなので残念だけど、MPがそれなりに増えるまでは封印するべきだろう。
未来視で見えたのは巨大なトカゲがこの森で人間を襲っている姿だ。
あとおっさんの石像も見えた。
というかさ、最後の映像って僕喰われてるんじゃないかな。
自分が死ぬ未来が見えるとかよくある展開だけど、これって回避可能だよね?
まあいいや。
ここはよくいる熱血主人公を見習って「きっと未来は変えられるはずだ!」とかそういう感じに思考放棄しよう。
まあ、戦ったりはせずにトカゲを見たら即逃げるけどね。
そうだ、ポジティブに考えよう。
【未来視Ⅰ】のお陰でこの森にはあの女の子以外にもそれなりの数の人間がいることが分かった。
あの人たちを探して町まで案内してもらおう。
今後の探索では人間の痕跡を探した方がいいな。
よし、さっさとスライムの剣とドロップアイテムを回収して探索を続けよう。
川に近づき、スライムの剣を投げ込んだ場所を見る。
幸いにもスライムの剣はすぐに見つかり、その傍にドロップアイテムらしき灰色の球体も沈んでいた。
回収したドロップアイテムを見る。
色以外はスキルオ―ブとそっくりだ。
もしかしてレアドロップとかいうやつだろうか?
ちょっとワクワクしながら【鑑定眼Ⅱ】を使おうとしたとき、
「きゃああああああ」
森の奥から絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
もしかしてあの青い靄の女の子か?
僕は声の聞こえたほうへと走り出した。