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同じような年齢の子供が町や広場で遊んでいるのを見ると、ルーチェの胸はいつも痛んだ。自分はあの子達のようにはなれない。あんな風に何も考えず、ただ毎日を楽しむことなどできない。"神の力"という巨大過ぎる重荷に、幼いルーチェの心は幾度となく潰されかけた。気が付けば、ルーチェは人と関わらなくなり、王宮の図書館へ籠るようになった。
ありとあらゆる書物を読み、様々な思想を学んだ。物語もたくさん読んだ。孤独な時間を埋めるように、ひたすら読書に没頭した。
そんな風に日々を過ごすようになって何年か経った頃、ルーチェはシドと出会った。
シドは、ルーチェが今まで王宮で出会ってきた人間とは違った。シドがルーチェの力を初めて見たときに言った言葉を、ルーチェは今でも覚えている。
「面白い力だな」
揶揄されたのかと思った。だが、シドは本当に面白そうに言ったのだ。まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように。
シドは、初めてで唯一、ルーチェが信用した人間だ。それでも、ルーチェは力の全てをシドに話したわけではない。むしろ話せないと言う方が正しい。
それなのに、シドに力のことを理解されていないと知ると、密かに傷付く。伝えていないのは自分の都合でしかない。言わずとも理解して欲しい、などというのは自分勝手過ぎることもわかっている。
だから、計らずも見せてしまった傷付いた表情を、後悔するしかないのだ。
「おい、ルーチェっ」
「っぶ!?」
考え事をしながら歩いていたせいだろう。シドの呼び掛けに反応できず、誰かに顔面からぶつかってしまった。顔に柔らかい弾力を感じた直後、何かがルーチェの中に入ってきた。
「おや、何だね。前も見ずに」
相手を見下したような高圧的な言い方に、まずいと思うが、入ってきた何かが体を震わせる。
恐る恐る、相手を確認しようと顔を上げる。そこには、思った通りのいかにも身分の高そうな服装をした、太鼓腹の男が不機嫌そうに立っていた。
「申し訳ございません、領主様。私の妹がご無礼を…」
シドがそう言いながら、ルーチェをスピカの領主、ロアストから遠ざける。ルーチェは黙ったまま、頭を深く下げた。
ロアストはルーチェのその様子が気になったらしい。シドに目を向け、尋ねる。
「なぜ君が謝り、彼女は謝らず、その上顔を隠したままなのかね?失礼ではないか」
「この子は顔に火傷がありまして…。領主様にお見せできるものではございません。そのせいで、人との会話にあまり積極的ではなくなってしまったのです」
シドがさらりと嘘をついている間もルーチェは頭を下げたままだ。体の前に重ねられた手が小刻みに震えているのに、ロアストは気が付かなかった。
シドの説明を聞いたロアストは、それ以上追及するつもりはなくなったらしい。
「それは仕方ない。君、もう頭を上げなさい。次からは気を付けるように」
ロアストは、部下らしき男達を従えて去って行った。
「何をぼーっとしてんだよ。よりによってロアストとかほんと勘弁…ってどうした?」
文句を言っていたシドが、俯いたままのルーチェを不審に思い、ルーチェの顔を覗き込む。
「おい、顔色悪いぞ」
「……何でもない。ごめん。ありがとう。助かった」
「何でもないって様子じゃないだろ。変に素直だし…」
先程の喧嘩のせいだろうか。シドの声も変に優しい。
「大丈夫…。少し驚いただけ」
「体調悪いのか?」
「大丈夫」
胸元に下げている紋章を服の上から握り締め、深呼吸をする。
ロアストに触れた瞬間、黒いもやのような、重たくて暗い、どろどろとした何かがルーチェの中に流れ込んできたのだ。
「…何…これ…」
「ん?何か言ったか?」
「…ううん。…早く神殿に戻りたい…」
ルーチェは神を信じているわけではない。だが、神殿に行けば少しは楽になるような気がした。
「わかった」
シドはそう答え、二人は足早に神殿へと向かった。
今日は大学の入学式でした。
…と言いつつ、実は未来日記です(笑)
関内もついに大学生。友達百人できるかな、ですよもう。
まぁ、人見知りはしない方なんですけど。
バイトも始まりました。自分で稼げるっていい!と思いました。
これからもよろしくお願いします。
では~(*^ω^*)