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「おや、お出掛けですか?」

シドとルーチェが神殿の廊下を歩いていると、神官長であるソルバに会った。

「えぇ。少し散策をしようかと」

ルーチェが笑顔で答えた。その笑顔には若干の疲れが見える。

「大丈夫ですか?お疲れのように見えますが…。長旅だったのでしょうか」

ソルバは、勝手に旅の疲れだと思ったらしい。それが当然だろう。"神の力"が暴走しかけて大変だった。などと聞いて誰が信じるだろうか。そもそも、ソルバが"神の力"を本当の意味で信じているかどうかさえわからない。

「お気遣い、ありがとうございます。私は元気ですよ」

ルーチェが言うと、ソルバは安心したように微笑んだ。

「直に暗くなります。お気をつけて下さい」

「心配、ありがとうございます」

ルーチェが答え、ソルバは深々と一礼をし、去ろうとする。すると、ソルバに声を掛ける者がいた。

「神官長」

「…おや、シュグム君。どうかしましたか?」

シュグムと呼ばれた神官は、見た目からしてソルバよりも若く、三十代程に見えた。

「来客がいらして……うん?」

その場に立つ、シドとルーチェに気付いたシュグムが顔をしかめ、ソルバに尋ねる。

「この者達は?」

「真都からいらした、ルーチェ様ですよ」

「…どちら様で?」

「巫女姫様です」

ソルバの言葉にルーチェの顔が僅かにしかめられたが、既に外套を被っていたので、二人の神官は気が付かなかった。

「真都の…巫女姫?」

シュグムはルーチェを上から下まで眺め、ちらりとシドを見る。その表情はどう見ても、胡散臭そうだと言っている。

「神官長。このような正体のわからぬ小娘を神殿に入れるなど…」

「シュグム君」

文句を言い出したシュグムに、ソルバがやんわりと、しかし威圧のある声で言う。

「初めてお会いした方に、そのような態度ではいけませんよ。神官たる者、人を信じる心を持つべきです。頭から疑って掛かっては、相手に失礼ですから」

「……すみません」

シュグムは謝るが、それはルーチェにではなく、ソルバにだ。ソルバは困った顔をしてルーチェに頭を下げた。

「ご無礼をお許しください。まだ神官に成り立ての者でして…」

ルーチェはシドを窺い、シドが頷いたのを見てから、フードを外した。それから微笑む。

「とんでもありません。彼の言う通り、疑われても証明するものがありませんしね」

ルーチェの黒髪を見たシュグムはやや驚いた様子を見せたが、それよりも、ルーチェの態度の上品さに驚いたようだ。

「いえ…。確かに頭から疑うのはよくありませんでした。以後、気を付けます」

「お心遣い、感謝します」

一応の和解が成立したところで、ルーチェはフードを被り直し、ソルバの方を向く。

「それより、お客様がいらしていたのではありませんか?」

「あっ、そうです。神官長」

ルーチェの問いに、ソルバではなくシュグムが答えた。

「どなたですか?」

「ロアスト殿です」

「またですか…」

ソルバが顔をしかめる。何か事情があるらしいが、それはルーチェ逹の関わるところではない。

「お客様をお待たせしては悪いですね。では、私共はこれで」

ルーチェは二人の神官に一礼し、シドもそれに倣った。そしてそのまま歩いていった。

神殿を出て、大通りを歩く。ルーチェがシドに尋ねた。

「ロアストって誰?」

二人の歩みはいつもよりゆっくりになっている。"神の力"のせいで疲れていた上に、演技までさせられたルーチェをシドが気遣っているからだ。

ルーチェの問いに、シドは少し悩みながら答える。

「簡単に言うなら、スピカの領主だ。ここ一帯を国からの命令で統治している役人さ」

「ソルバさん、嫌そうだった」

「まぁ…そうだろうな」

「どうして?」

首を傾げたルーチェを見て、シドは小さく笑った。

「…何よ」

「あんたは、俺に質問してくるときが一番年相応の顔してるな」

「馬鹿にしてる?」

「してねぇよ。今いくつだっけ」

「……十三」

訝しげにルーチェが言い、シドは再び笑う。ルーチェがしつこく笑う理由を聞いてきたが、結局答えなかった。

次回から一週間おきになります。

毎週土曜日九時にて更新。

もしかしたら、不定期に更新あるかも。もしかしたら。

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