5000マイル
「5000マイルって、どれくらいの距離なんでしょう」
以前ラジオかなにかで聴いた曲のフレーズがふと浮かんで、私は隆幸さんに疑問をぶつけた。
隆幸さんは少し考えたあと、するりと私の右手をとって、
「ここが日本の東京。それから、」
そう言って今度は自分の左手を私の右手の前に差し出して、
「ここがイギリスのロンドン。これくらいの距離だよ」
「これくらいって…でも、すごく近いですよ?」
私の右手と彼の左手はくっつきそうなほどで、そこに距離なんて見当たらない。
なんとなく、ロンドンと東京が遠いのはわかるから5000マイルが遠い距離だというのはわかったけれど…。
「5000マイルも1ミリも、そう変わりはないってことさ」
「どういう、ことですか?」
答えになっているのかなっていないのかわからない答えが降ってきて、私は更に首を傾げる羽目になる。
隆幸さんはくすりと笑って私を引き寄せた。隆幸さんの膝の上に乗せられる形になる。
「例えば、君は東京にいて、私がロンドンに行ってしまったら、君はどうする?」
「そ、そんな…!」
そんなこと、想像しただけで胸が痛くなる。毎週毎週会っているのに、1年に1回、会えるか会えないかだなんて…。
「電話、します」
苦肉の策。本当は会いたくて仕方が無いだろうけど、それできっと耐えられる。
「うん。そう言うと思ってた。ホラ、5000マイルなんて簡単に飛び越せるだろう?」
「あ、」
やっと彼の言いたいことがわかった気がする。会えなくたって、声を届ける方法なんていくらでもあるのだ。思いさえあれば。