到着
俺達が今から行く街は遺跡都市アウラという。
ここは古代遺跡を攻略する冒険者達によって建てられた街だ。
アウラは樹海の中心にある古代遺跡の近くに建てられた街で、当然のように樹海の中に建てられている。周辺に現れるモンスターはウルフ系やゴブリン等の亜人系が多数を占めているらしい。
アウラに来るまでの間、周囲を観察してきたが、面影が残っているものの、やはり街は変わり果てていた。
まず木が増えた。昨日までは無かった大木がそこら中に生えている。
アスファルトで固められた地面は土に変わり、建物にも草や苔が侵食していた。
まさに大自然って感じだ。
それにしても建物に蔓草とかがビッシリしているだけで途端に廃墟っぽくなるな。
建物の中の方はまだ生活感が残っている所も多かったけれど。
アウラの入口は予想より大きな壁がそびえ立っていた。
レンガで作られた壁は分厚く、ヨーロッパとかの観光ガイドとかでよく見る城壁っぽい。
頑丈そうで、そして凄い歴史がありそうな壁だった。
壁の内側で生活している人々を守ってきた雰囲気があると思う。
これはレンガの壁効果だろうか?レンガ壁って無駄にレトロな雰囲気出すよなぁ。
因みに壁の内側にモンスターが入ってこないのはこの壁のおかげじゃなくて、壁の中に設置されている魔物避けの宝石【魔封石】のおかげらしい。
この壁は魔封石の盗難や破壊を防ぐ役割を持っているんだそうだ。
門の前で兵士っぽい人に止められるが、そこはジョンが説明して何とかなった。
兵士さんは結構あっさり通してくれた所を考えると、ジョン達は結構有名人なのかもしれない。もしくは俺達みたいのが多くて兵士さんの感覚が麻痺しているのかもしれないが。
・・・
壁の内側にはビルが多く、入口の壁より背が低い建物を探すほうが難しかった。
少し前まで駅前だった場所だから、しょうがないと言えばしょうがないけれど、壁より高いビルが普通にあるので何となくガッカリしてしまう。
コネクトでもアウラという都市はあった。そこは遺跡を改装して使っている感じが幻想的で好きだったけど、暮らすとしたらこっちの方が良いだろう。高層ビルが多いから、住むところに困ることもなさそうだ。
ジョンたちに案内されて俺達は神殿に向かう。
まずは神殿に俺たちの情報を登録して保護下に入らないといけないし、他の保護されている人達から話も聞きたいからだ。
まずは情報が欲しい。この世界で生きていくために。
元の世界に帰りたいっていうか、半分は元の世界の面影がそのままあるから、帰るのは難しい気がする。単純にほかの世界に飛ばされたって感じがしないのだ。
飛ばされたにしても規模がでかすぎる。
ニュースでは日本各地にモンスターが現れていたから、もしかしたら日本ごと……いや地球丸々異世界に来てしまったのかもしれない。
もしかしたら異世界と地球がそのまま融合しちゃったのかも。
まぁ、それは流石にないかな。
「ここが神殿だ。最初は1階で事情説明と住民手続きをすることになると思う。まずはこっちだ。」
俺たちはジョンを先頭に神殿へと入っていった。
神殿の外も中も殆ど市役所と同じだ。違うところは所々に女神像みたいのが置かれている所と、働いているだろう人達の服装が教会っぽい服装なところ位だろうか。
案内板を見てみると、普通に日本語で書かれていた。
変な異世界文字とかじゃなくてホッとする。読み書きをもう一度覚えるなんて嫌すぎるからな。
受付みたいな場所につくと、ジョンが俺達の事を説明してくれた。
やはり慣れているのか受付のお姉さんはスムーズに住民登録と神殿保護申請の用紙を出してきて、俺達はそれに記入していく。
因みに神殿保護は半年の間、神殿が生活を最低限保証してくれるという物だった。
その間に自分に合った仕事を見つけてくださいという事だろう。
どうしても仕事が見つけられなかったり、働くには年齢が低くすぎる場合はそのまま神殿の下働きとして雇ってくれるそうだ。
書類を無事に書き終えると、1枚のカードを渡された。
このカードは神殿保護を受けている証明で、これがないと神殿の保護が受けられなくなるらしいので、無くさないようにと注意された。
神殿保護を受けている間は裏側にあるビルに無料で泊まれるらしい。
ご飯は朝と晩にそのビルの1階ロビーで炊き出しをやるそうだ。
「ではこれで住民登録と神殿保護申請は完了です。あなた達に女神の加護があらんことを。」
説明が終わると受付のお姉さんは何処かに行ってしまった。
これだけで終了なのか。もっと色々な所をたらい回しにされるかと思っていたので若干拍子抜けだ。
まぁ、俺達みたいな得体の知れない奴らに構っている暇なんてないのかもしれないが、こんなに雑で良いんだろうか?
「じゃあ、俺達は遺跡探索に戻るぞ?頑張れよ。」
「最後までありがとう。助かったよ。」
ジョンたちは俺達の手続きが終わるのを見てから遺跡探索へと戻っていった。
「じゃあ、泊まれるっていうビルに行ってみるか。」
「みんな無事だと良いんだけど。」
神殿の裏手にあったビルはホテルとかじゃなくて何かの会社だっただろう高層ビルだった。結構大きめのビルで見た感じ20階位だろうか?名前は神殿寮というらしい。
中に入ってみると1階は広いロビーになっていた。
神殿関係者らしき神父さんがいたのでカードを見せて事情を説明する。
「新しい入居者の方ですか。住居区は3階からになります。明確な男女の区切りはありませんが、10階から上を女性の方が使用し、10階から下が男性の居住区として使われているみたいですね。布団の貸出や荷物を預ける時は2階に倉庫がありますので、荷物がある場合は私達に声をかけてください。」
「そうですか、ではこのリュックをお願いします。」
俺は包丁の入ったリュックを渡す。神父さんの顔が引きつるのが分かる。
そりゃそうか。リュック一杯に詰め込まれた包丁を見たら誰だってそういう反応をするよな。
「すいません。ゴブリン達に襲われて必死だったものですから。武器になりそうなものをリュックに詰め込んだんです。」
「そ、そうなのですか。」
俺がそう言うとようやく神父さんの顔もにこやかな物に戻る。(若干引きつってはいたが)
取り敢えず缶詰が入っているリュックも倉庫に入れてもらい、俺達は3階に上がってみることにした。
3階に上がってみたが人は居ない。
みんな外に仕事を探しに行っているのかもしれない。布団は隅の方に畳まれて置かれていたので、ここに泊まっている人はいるみたいだ。
一応他の階も見てみるが何処も似た感じだ。誰もいない。
娯楽が殆どないので、ここに居ても暇なだけなんだろう。
神父さんが言うには現在神殿保護を受けている人数は俺達も入れて350人。
意外と少ないと思ったが、俺たちみたいに外で隠れたままでいる人も多いだろうし、そもそもモンスターに結構な数が殺されてしまっているだろうから、妥当な数なのかもしれない。
俊達とはここで別れることにした。俊たちは神殿の下働きをしながらやりたい事を探していくらしい。
俺はギルドに行くつもりだ。遺跡探索は難しいかもしれないが、遺跡に入らなければ驚異になる敵はいないだろうし、何よりこの身体能力を腐らせるのは勿体無い。
モンスターといえど生き物を殺すのはまだ嫌だけど、何も討伐依頼だけがお金を稼ぐ方法じゃないだろう。薬草採取とかを中心にやっていけばいい。
レベルを上げてどこまで強くなれるかも気になるところだが、今はまだいい。
モンスターを殺すのも慣れないといけないんだろうけど、何ともならないな……