表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

侵食

コネクトというスマホアプリがある。

このアプリはRPGのような冒険から畑を耕すような生産まで様々な遊び方ができる事で老若男女が楽しめるゲームとして有名だ。

その造り込まれたゲーム世界は世界中のプレイヤーを魅了し続けていた。


・・・


キーンコーンカーンコーン―――


授業が終わるチャイムの音と共に俺の時間は動き出した。

帰宅部である俺は椅子から立ち上がると誰よりも早く教室から出る。

別に友達がいない訳じゃない。本当だ。今日は特別なのだ。

俺はポケットからスマホを出すとコネクトを起動させる。


レベル99 クロサ 大魔導師


スマホの画面には俺の分身ともいえるキャラクターのステータスが表示されている。

黒髪黒目、装備も黒一色に統一されたこいつは昨日ようやくレベルをカンストしたばかりの俺の分身だ。

昨日は夜遅くまでレベル上げをしてクロサのレベルをカンストしたところで寝落ちしてしまったので俺はまだレベル99の強さを体験していない。

だから早く家に帰ってクロサの性能を試してみたくて仕方がないのだ。

頭の中はその事しかない。途中ですれ違う友人たちと軽く世間話をする時間も惜しいくらいだ。今日はもう、高難易度のクエストで無双する事しか考えられない。

教室じゃ落ち着いて出来ないから早く家に帰らなければ。


家についたら制服も脱がずに自分の部屋に駆け込む。

そのままコネクトの世界にレッツゴーだ。


「……ってあれ?緊急メンテナンスのお知らせ?」


レッツゴーしようとしたらゲームが休止していた。何を言っているか分からねーと思うが俺も何を言っているか分からない。


いや、そんな事を言っている場合じゃないな。

キャラ選択画面までは行けるのに、ゲームを開始しようとしたら緊急メンテの案内が出てくる。案内によるとメンテが終わるのは明日以降になるらしい。


「な、なんてこった。」


俺はガックリと肩を落とすとスマホをベットの上に放り投げた。

まぁ、別にいいさ。それなら明日楽しめばいいだけだ。


俺はそう考えていたがその後、俺がスマホでコネクトを遊ぶことはなかった。


・・・


異変が起きたのはコネクトの緊急メンテが始まってから1週間が過ぎた頃だったと思う。

学校の登下校時に俺の目の前に緑色の小人が現れたのだ。


最初はコネクトをやりたい気持ちが強すぎて幻覚を見たかとも思ったが、その小人達は幻覚で片付けられない存在感がある。

小人達は異臭を放っており、放つ言葉も理解ができない言語だった。

ボロボロの布切れで体を隠し、右手に木の棒を持っている姿はどう見てもゴブリンだ。


幸いなことにゴブリン達は俺に気付く事はなく、誰かに通報されてやってきただろう警官を殴るのに夢中になっていた。

警官は既に動いていない。殴られるたびに赤い液体が地面を汚していく。

ゴブリン達の笑い声が怖くて、俺は体を丸めて隠れることしかできなかった。


しばらくしてゴブリン達は何処かに行ってしまった。

残ったのは警官の死体のみ。死体を見て吐き気がこみ上げてくる。

埋葬してやりたいが、またゴブリンがここに来ないとも限らない。早く帰らないとマズイだろう。……まぁ、これは言い訳でしかないか。


薄情かもしれないが、こうやって遠目で見ているだけで吐きそうなのに、埋葬なんか出来るはずがない。触るのも嫌だ。

俺は両手を合わせて合唱すると小走りでその場を後にした。


あのゴブリンはコネクトに出てくるゴブリンによく似ていたと思う。

コネクトのゴブリンはレベル3のザコモンスターだ。初心者の時は苦戦するが、それ以降は本当にザコでしかない。

集団で行動するところが少し厄介だが、木の棒や棍棒での攻撃しかしてこないので、遠距離から魔法や弓で攻撃すれば上手い奴ならレベル1でも一方的に倒すことができてしまう。それがコネクトでのゴブリンだ。


「ゲームと現実じゃ、やっぱり違うよな。」


ゲームでは数えられない数のゴブリンを殺しているが、現実では殺される側になりそうだ。

アイツ等の相手は自衛隊とかアメリカの軍隊に期待する事にしよう。


街の様子は様変わりしていた。

窓ガラスが割られていたり、壁に穴が空いていたり……死体も沢山ある。

幸いなことに家に帰るまでゴブリンに遭遇することはなかったが、窓が割れた建物や倒れたまま動かない人が何人か目に入った。俺は本当に運が良かったんだろう。


俺は家に帰って直ぐにテレビをつける。

案の定というべきか、どこの放送局でも緊急特番が組まれていた。


どうやらゴブリン以外にも沢山の種類のモンスターが出現しているらしい。

富士山の頂上には巨大なドラゴンが居座っているみたいだし、東京は全長10m位の巨人が出現している映像が映し出されている。


両親と連絡を取ろうと思ってスマホをポケットから出してみるが繋がらない。電波が込み合っているんだろう。

仕方がないのでメールを送っておく。ついでに新着メールの確認をしてみると、コネクトのサービス再開のメールが来ていた。


「今更かよ。まぁ、現実逃避にはなるか……って、あれ!?」


俺はコネクトのアップデートをした後、さっそくゲームを起動させる。

さっきの警官の仇討ちではないが、ゲームのコネクトでゴブリンでも倒して気を紛らわせよう。


そんな事を考えながらゲームを開始しようとして、俺は驚愕する。コネクトのキャラクター選択画面には俺の名前と俺の姿が表示されていたからだ。

スマホの画面にはクロサというレベルをカンストした最強の大魔導師ではなく、黒部 総司という一般人が表示されていた。


・・・


黒部 総司 一般人 レベル1


魔 3

力 5

技 5

防 6

速 7


ステータスポイント 104


スキル 


スキルポイント5


・・・


しかもステータス画面を開くことはできてもゲームを開始することができない。

一旦ゲームを終了して公式のホームページを見てみようとしたが、コネクトの公式ホームページは既に閉鎖されていた。

意味がわからない。せっかく苦労して育て上げたキャラクターを一度も遊ぶことなく消された悲しみをどこにぶつけたらいいのだろう?

しばらく放心していると、スマホにメールが届いた。コネクト運営会社からだ。



『コネクト新章突入!これからは現実世界でコネクトをお楽しみください!


遂にコネクトの舞台は現実世界へ!

新章に入る都合上、皆様のキャラクターを一旦リセットさせていただきました。

ゲームを遊んでいただいていたお客様への補填としてステータスポイントをレベル分プラスさせていただきます。

これからもコネクトをよろしくお願いいたします。』


メールにはこれしか書かれていない。

つまりコネクトがゲームじゃなく現実になったって事だろうか?

そんなわけ無いと思いたいが、ゴブリンが警官を殺しているところ見ちゃったしなぁ。

レベルが1になって職業も一般人になっているけど、ステータスポイントがレベル分プラスっていうのはこれからの事を考えるとかなり有利だろう。

コネクトでは初めに5ポイント、レベルが上がる度に3ポイントをステータスに振り分けることができる。

俺が今回の補填で貰ったポイントは99、つまりレベル33の時のステータスをレベル1で再現出来るわけだ。


「このステータスを上げれば現実の俺の身体能力も上がるのかね?」


本当に身体能力が上がるんだったらポイントは慎重に使わないといけない。

ニュースの映像が本当なら生死に関わる。ドラゴンとか巨人から逃げるにしても戦うにしても強くなくちゃどうにもならないだろう。


まずは本当にステータスを上げたら強くなるのか試してみることにしよう。

上げるとしたら分かりやすい【力】か【速】がいいかな?

【魔】を上げて魔力を実感するのもいいかもしれない。


ゲームの時は魔法使いだったけど、今度はどうしようか。

魔法使いで強くなるには防御力をある程度捨てないといけないが、それはちょっと怖い。

だけど前に出て戦うのも怖い。本当にどうしようかな。


悩んだ結果、戦士系で行くことにした。

コネクトが現実になった今、魔法の詠唱がどうなっているのか分からないからだ。

コネクトでは魔法を使うときに待機時間がある。

詠唱をしているという設定で、その間に一定以上のダメージをくらうとキャラが怯んで魔法が中断してしまう仕様だった。

俺はもし戦闘になった場合、詠唱を間違えずに行える自信がない。

魔法の種類は膨大だ。最終的に覚える呪文はどんなに少なくても5個以上になる。

多い人なら10個以上になるだろう。

そんな数の魔法を戦闘中に使い分ける自信もない。

ゲームならともかく実際に戦う事になったらまず無理だろう。


それに魔法使い系のステータスにしたらHPや防御力が低くなってしまう。

死んでもゲームみたいに生き返れるなんてことはないだろうし、防御力が低くなるのは不安だ。戦うにしても逃げ回るにしても死ににくいのは戦士系だろう。

俺は戦士系で行くことに決めた。


「とりあえず試しに力を上げてみるか。」


俺は力に10ポイントを使う。

これで数値的に俺の力は3倍に跳ね上がっているはず。

試しにリンゴを思いっきり握ってみると、簡単に握りつぶす事ができた。

これは凄い。筋肉が付いたようには見えないのに凄く力が上がっている。

コントロールが難しいが、そこは器用さが上がる技を上げれば何とかなるだろうと思いたい。


ポイントは全部使わずに44ポイントだけ使って50ポイントは温存することにした。

いきなり全部使うと上がりすぎた身体能力に振り回されそうだ。力に10ポイント使うだけでリンゴを握りつぶせるようになっちゃったし。


・・・


黒部 総司 

職 一般人 レベル1


魔 3 → 3

力 5 → 20

技 5 → 20

防 6 → 20

速 7 → 17


ステータスポイント 50


スキル


スキルポイント5


・・・


ほとんどの数値が4倍になった。

力がみなぎるのを感じる。技を上げたおかげで力の加減もできるようになっている。

反射神経とかも上がっている気がする。速を上げた効果だろうか?

今ならオリンピックとかで金メダル取れるだろう。

こんな時にオリンピックもクソもないだろうけど。


身体能力は上がった。今ならゴブリンも瞬殺できるだろう。

戦闘技術は無いけど圧倒できるだけの力があるはずだ。


スキルポイントを使って更に自分を強化することもできるが、スキルポイントは5しかない。スキルは覚えたスキルのレベルを上げるのにもポイントを使うので慎重に行きたい。

武器スキル位は自衛のために取りたいけど自分に合う武器が分からないから良い武器が見つかるまでは取りたくないんだよな。


強化された身体能力で探索をしたり人助けをするべきなんだろうけど、それは他の人に任せることにしよう。だって怖いし。

どうせ学校も休校だろうから読んでない小説でも読んでゴロゴロしてよう。


そういえば電話は繋がらなかったけど、母さんと父さんは無事だろうか?無事だといいなぁ。

両親は出張でアメリカにいる。今月の終わりに帰る事になっているが、これじゃ帰ることは難しいだろう。電話も繋がらないし、心配だな。


両親の事も心配だがまずは自分の心配だ。

保存食はないけど冷蔵庫に沢山食料が入っているし、カップ麺もある。

しばらくはこれを頼りに引き篭ろう。それで自衛隊とか国が何とかしてくれるのを待つ事にしよう。そうしよう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ