空より落つる者
どうも、緋絽と申します。
リレー小説隊最新作です! 他に止めてるやつあるけど気にしない! 更新はする予定です。
建国ものです。あまり難しくはしない予定。
どうかお付き合いください!
一人の男が森を走っていた。人間ではあり得ない速度で駆け抜ける。
季節はとうに暑い時期になっているのに、袖の長い服を身に付けていた。
名前はカプラ・ガブラ。年の頃は19で、髪は黒、瞳は赤。その面立ちはまだ幼さが残っている。
カプラはヤギの獣人だ。だからその頭には2本の角があり、黒い尾が生えているが、今はローブを被って隠している。
この世界には、獣人と人間が存在している。
しかし、彼らの関係は決して友好ではなかった。
少数派である獣人はその見た目から迫害され、奴隷にされるものもで始め、いつしか侮蔑を込めて、家畜の意であるセリオンと呼ばれるようになった。
カプラは立ち止まった。
空から何かが落ちてくるのを見つけたのだ。
初めは人間に見つかったのだと思った。自分を捕まえるために何らかの魔法を使ったのだと。深い森の奥に隠れたのに、もう安全な場所ではなくなったのかと焦り、怯えさえした。
「なんだ、あれ?」
しかしすぐに、その形態が人にしては歪だと気づく。
───あれは、翼?
真っ逆さまに落ちていく獣人のもとに、カプラは走った。
カプラが着いたとき、鳥の獣人は地面に横たわっていた。
肩は鋭い矢に貫かれ、その背に生えた鷹を思わせる翼は血に濡れている。
その矢を見てカプラは悟った。
ヒトに、射られたんだ。ということは、こいつを追った人間が近くにいるかもしれない。
「あ、あの……だ、大丈夫、ですか」
少し距離を置いて声をかける。
血でくすんでいるが、元はオレンジの髪色らしい。
鳥の獣人はピクリとも動かない。
死んでいるのかもしれない。
そうだ、肩を射られているのだから、その背に生えた翼も傷付いて、もう飛べないかもしれない。
なら、例え少しでも息があるなら、それを止めてやるべきかもしれない。
カプラは人間に追われる過酷さを身に染みて理解していた。
休まるときは欠片もないし、何より心が疲れる。
もう、解放してくれ。
それは、カプラが心から願っていることだった。
でも、殺されるのは怖いし、自殺する勇気はない。
俺は、まだ死ねないけど。この鳥は怪我をしてるし、死なせてやるべきかもしれない。
「おやすみなさい」
カプラは近づいて跪き、その首に指を絡めた。
「お、い」
腹に異物があるのを感じて、何より耳を震わせる獰猛な声に、カプラは手を離した。
見れば、腹に短剣が当てられていた。
「おわっ!」
「君、随分なことしてくれるなぁ。同じ獣人だろ?」
ピクリとも動かなかったはずの鳥の獣人は、猛禽類らしい鋭い目を向けてうっすら笑みを浮かべていた。
歌うような耳に残る美声と、その金の瞳に、カプラは縫い止められたように動けない。
そのどれもがカプラに殺意を向けていたからだ。
「わ、悪い。し、死んだ方が、いいと、思って、だから」
「はぁ? 君の主観で勝手に俺の命消さないでくれよ。死にたがってんのは君だろ。俺を巻き込まずに勝手に死ねよなー」
カプラはグッと言葉を呑んだ。
いてて、と顔をしかめながら体を起こす。ピクリと何かに反応したあと、鳥は大仰に溜め息を吐いた。
「あーあ。忌々しいヒトが森に踏み込んだみたいだな。なぁヤギ君。君、早いとこ行った方がいい」
「え?」
ニコリと笑みを向けられる。
「…………あんたは?」
「俺? 俺は強いもん。弱そうなヤギ君は自慢の足を使って逃げなさい」
肩を射られているのに余裕な笑みを見せながら、未だに立ち上がる素振りを見せない鳥。
───立てない?
「ほーら急げ。かなり近いぞ。俺は君と違って同胞を殺してアゲルっていう考えは持ってないんだわ。流石に守ってやれないんだけど」
微かに苛つきを滲ませた声音にカプラは体を竦ませた。
でも。
「にっ、逃げよう!」
カプラの体が柔らかな光を帯びる。
カプラの能力である【身体強化】を使ったのだ。
そうして鳥を肩に担ぎ上げる。
くっと鳥の目が見開かれる。
「うわっ、お、おぉー力持ちぃ」
「走るから! 歯ぁ食い縛っとけよ!」
「えぇ!? おわ、肩痛て、嘘嘘嘘ー!」
走り出した瞬間、人間が姿を見せた。
「いたぞ!」
カプラはさらに速度を上げた。
人間に捕まれば殺されるか───奴隷に落とされる。
ぞっとした。
嫌だ。もう、あの場所には戻りたくない。
この距離なら、普段ならばギリギリ攻撃さえ受けなければ逃げ切れるはずだった。
そう、一人なら。
人間が放った矢がカプラの横腹の肉を抉りとる。
「っ、うわ!」
慣れない激痛に思わず崩れ落ちたカプラは、それでもすぐに鳥を担いで逃げようとした。
しかし続けざまに射られ、その内の一本が魔道具だったらしく、当たった片足が固められたように動かなかった。
「あーいいっていいって。俺は平気だからさ」
「よ、よくない! 殺されちゃうだろ!」
そう言っている間にも矢が飛んできてカプラを傷つける。
「別にいいじゃん。君、さっきまで俺を殺そうとしてたわけだしさぁ」
「生きてピンピンしてんなら、オレは、同胞を守るタイプなんだよ!」
カプラは動かない片足を握った。
「…………オ、レが、囮に、なるから。あんたは、逃げればいいよ」
捕まったら。その時は、舌を噛みきって死のう。
あの頃に戻るくらいなら、死んだ方がましだ。
「は?」
キョトンとした鳥にカプラは笑みを向けた。
「単純に、動けるか動けないかの話だよ。あんた、頑張って根性出せば歩けるだろ。オレは、この通りだからさ」
カプラの言葉に鳥は溜め息を吐いた。
「なんだ。死にたがりか」
鳥の台詞は、少しカプラに刺さった。
浮かべていた笑みが固い笑みになる。
「え、と……」
「あぁ、いいよ。今回は助けてくれたから助けてやるよ。俺様が、こんな雑魚に負けるはずないだろ」
ついと伸ばした手を、鳥は無造作に払った。
人間が放った矢が地面に叩きつけられ、木っ端微塵に砕ける。
それだけではない。攻撃を仕掛けていた人間達が一人残らず地面にめり込み、中には───頭が潰れているものもいた。
「え……?」
オレンジの髪が揺らめき、金の瞳が細まる。
「オレの名前はアギラ。一応聞いてやるよ、ヤギ君。君の名は?」