君との時間
何か耳にあたった気がする。
それによって僕は目を覚ました。
「ん…」
何の変哲もない休みの朝(おそらく十二時)だ。
あれ、枕こんな高かったっけ。
普段枕なんて使ったっけ…
枕に手を置くとあらぬ感触がした。
…ん?
その感触は太ももに似ているような気がしてつかんだ手は固まった。
「と、時人、その手を離してくれませんか。」
震えた声が上から降ってきた。
ようやく思考がまわりはじめる。
「うわー!!!!!」
がばりと起き上がりそっちを見た。
雪ちゃんだ。
「な、なにゆえ!?」
「何で時代劇風なんだよ。」
部屋に入れた記憶など何処にもない。
「い、いつから。」
「八時。」
眉間にシワを寄せ考える。
八時だと…?その時間に僕は起きるのか、普通。
「時人寝てたから起こしたらその…膝枕しろって言ってきて。」
「しろ!?」
やばい、寝ぼけてて何も覚えてない。
「すみません何も覚えてませんそして合鍵は持ってないはずなのですが…」
しかし雪ちゃんはポケットから鍵をだした。
「why!?」
「欧米か。」
「合鍵じゃないし、この前先家行っててって言って渡してきたでしょ。返しにきたの。」
「あ、あぁ〜…」
そういえば本を買うから先に行っててって言ったような。
あれ、用事はそれだけなのだろうか。
本当に用事はそれだけだったらしく雪ちゃんはベッドから立ち上がった。
「じゃあ私帰るから。」
「え、帰るの?」
もうちょっといてほしい、なんてわがままだろうか。
「いてほしいの?」
改めて聞かれると照れる。
「まぁ…。」
少し顔を赤くして雪ちゃんは隣に座ってきた。
しかしなにをするというわけでもない。
ラブラブカップルとかの場合肩に手をまわしてキャッキャイチャイチャするものなのだろうか。
か、肩に手をまわす…!?
僕にどれだけ勇気があればそんなことができるのだろうか。
ただ座ってるのが飽きたのか雪ちゃんは体をベッドに倒した。
あぁ…なんという…
「雪ちゃん、どうしたの。」
「いや、なんか疲れただけ。」
確かにずっと膝枕をしていれば疲れるだろう。
「ごめんね、なんかわがまま言っちゃったみたいで…」
「いいよ別に時人だし。」
いちいちドキドキする事を言ってくる。
本当ならそのまま雪ちゃんの上に乗っかりたい…のをおさえる。
まだ明るいぞ…まだ明るい!
なんとなく、疑問が浮かぶ。
「雪ちゃんって僕の何処が好きなの?」
瞬時にベッドから起き上がりこちらを見た。
どうして良いかわからない、という表情をしている。
「な、なんでそんなこときくの…」
「いや…すごい、気になった。」
「付き合ってないからダメー。」
いたずらそうに笑う。
その笑顔も愛しい。
「時人は?」
「可愛くて優しくて強いところ。」
自分で言っておきながら恥ずかしい。
あぁそうだ付き合ってないからダメっていえば良かった。
お互い顔が真っ赤だと思うとなんだかさらに恥ずかしい。
「強い…かな。」
「強い。」
ゲームのときのあの迫力はすごかった(首に剣を当てられ動いたら殺すと言われたトコも含め。)
「男より強い女性は可愛くないよ。」
「可愛いよ。」
なんで自分でもこんなに好きなのかわからないくらいに好きだ。
でも付き合ったらそんな気持ちが消えてしまうような気がして怖い。
僕の両手を持つとうつむいたままつぶやいた。
「時人は…優しくて、弱いトコが好き。」
ダメダメじゃないか。
「強くなりたいなぁ。」
「私が守るよ。」
「いざとなった時、僕は何もできないよ?」
あの時みたいに、何もできない。
「大丈夫。」
そのまま抱きしめられる。
暖かい。
自然と手が後ろに回った。
密着するだけでこんなにもドキドキする。
なんで慣れないんだろう。
「雪ちゃん。」
「ご、ごめん。」
離れようとするのを遮るようにもっと抱き寄せる。
「わっ。」
それがここにいるとちゃんと確かめたい。
「時人、もういい?」
「ダメ。」
ずっとこうしたい。
しばらく抱きしめたままでいたが、突如変なくすぐったい感覚にゾクゾクとした。
すぐさま身体をはなす。
…鎖骨あたりを舐められた。
僕の顔は真っ赤だ。
「な、なな、なにしてっ…」
「仕返し。」
いたずらそうにニヤリと微笑んだ。
ドキドキして前を向けない。
手で顔を隠し伏せた。
「も、もう。」
「いや、細い人はくすぐりに弱いって聞いたから…」
「くすぐればいいじゃないですか!」
「もやしの味しないかなって」
「しません!」
心拍数が異常なほどにあがる。
想定外のことすぎる。
「嘘、いつもやられてばっかりだから悔しいなーって。」
耳元で言われ、息がこちょばしい。
「わかっ、わかったから…。」
挙動不審なのがバレバレな気がする。
悔しい。
耳元まで近づいた顔の方へ振り向きキスをする。
「仕返ししていい?」
「まだ明るい。」
「仕返ししていい?」
「…どうぞ。」
雪ちゃんをそのまま押し倒し首元を舐めた。
ひっ、と微かに漏れる声がいやらしい。
「そんな声出さないでよ…」
「む、無理!」
少し敏感な所を触る。
また、声をもらしそうだったからもらさないようにふさいだ。
「んっ……」
まだ明るいという事も忘れて情に浸ってしまう。
抱きつかれている胸あたりがなんだかこちょばしかった。
ピンポン
インターホンの音が雰囲気を壊す。
思考が固まる。
来客…?
反射的に上がったTシャツを下げる。
「行った方がいいんじゃない?」
「…」
「そ、その、出なかったら心配されるし」
「…」
「あの、まだ明るいから、ね?」
「出なくていいよ。」
そう言って少し笑ってみせた。
君との時間を大切にしたいから。