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心に吹く風  作者: イレ
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造られるもの〜

 「行ってくるからな。」


ほぼ毎日この台詞を発してている。


 「行ってらっしゃい。」


彼もよく呆ないものだ。


目が覚めて1時間後のささいな言葉のキャッチボール。行く場所は決まっている。


あいつに連れられ、生まれて初めて景色を見た時だった。


深緑の海に飲み込まれ這い上がってなお、浅緑の中を漂う。


俺の中の何かは、あの自然の壮大な景色に捕らわれてしまっていた。


一瞬にしてあの緑の世界に溶け出してしまっていた。


それからというもの、訳なしに通い続けるようになっていた。あの丘に。


家からわりと近かいし暇な俺には最も都合が良かった。


 「ミャー」すぐ隣から耳に触る声がした。


またすぐそばでは、木の葉が擦れ合って音を奏でている。


予想とは正反対だった。


黒い子猫が早速と泣きながら駆けていた。親とはぐれて必死になっている様子だった。


声だけで絶対「白」だろうと思っていたのに。


 あぁそういえば、3日前にも黒猫をみたな。3日前の奴は、


さっきの奴みたいに威勢はよくなかった。


泣いている幼い少女がぐったりしたそいつを抱えて泣いていた。


それであいつは死んだのだと悟った。


森を出て街におりた時何回かすれ違ったことのあった全身黒いコートをまとった奴だった。


俺は、彼女みたいに目から大粒の雫を流すことができなかった。いつもだ。


涙を流すそういった感情を持ち合わせていないようだ。


腕をカッターで間違えて切った時もそういった機能は持ち合わせていないというように、


赤い液体は一滴も落ちてはくれなかった。外見は同じ生き物なのに、


そういう点からも明らかに俺は違っていた。


考えることは出来るし得意だが心がないらしい。感情がないのだ。


その証拠に左胸の内部には野球ボール程の穴が空いていると、生みの親が教えてくれた。


生みの親、つまり俺を作ってくれた制作者だ。手足は勿論、脳までも無数の線や回路、


モーターを宇宙の星の如く散りばめていったくせに肝心な心は…


「お前が自分で見つけなさい。」


とその言葉はIQが非凡なデータチップが内蔵されている俺でさえも、


理解できないほどだった。しばらく行った先で一、二と足を止める。


木々の間から青空が見えた。そこに住む者達には、意志もなくただただ無心に、


風に促され揺れている。その自然な行いの循環に優しさを感じる。


そのままその優しさに俺の全ては飲み込まれてしまった。


それから、そこに住む生き物を探したり、ひなたぼっこをしたり、


とあっという間に時間は過ぎていった。


草木は、緑に少し明度が低い色を足され、明暗でいう暗に近づきだした。


さらにプラス赤を塗りたくられ、また違ったキレイを見いだしていた。


そろそろ家へ帰ることにする。


あいつが言っていた「今日は早めに帰って来て下さいね。」


という言葉を思いだし、その言葉が引っかかったのでほどくためにも家へ帰るとする。


 「ただいま。」


ドアを開け、最初に見たのは、「お帰りなさい」と言う、


あいつのとっても嬉しそうな顔一面の笑顔と、


テーブルに置かれてある苺がポツンとのっている一つの小さなケーキだった。


「うわっなんだこれ」


家の中の雰囲気が変わっていることに気がついた。


ほこりっぽいはずの室内には、総称してごちそうとよべる食べ物の面々が並んでいた。


今日はどうやら俺の一歳の誕生日らしい。


本来の人間の子なら一歳のはずはないのだが理由はあいつは言うことはなく


俺も聞かなかった。


あいつは、プレゼントと言ってくさみどり色の飛行機のプラモデルをくれた。


それは、あいつに連れられて街へ出かけた時、


ふと立ち寄った玩具屋さんで俺が見ていたものだった。


プレゼンなんてくれなくてもいいのに…。


わざわざそこまでする彼の行動が分からなかった。


………………………


貧乏なくせに。



欲しかった玩具を手にした喜びと、


あいつを労る両方の狭間で俺は、複雑な思考を並べていた。

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