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心に吹く風  作者: イレ
4/14

造る人〜

辺りに木が入り組んだ家に帰るなり、早速楽しさをくれるであろう買ったばかりのオモチャ


を取り出す。期待の波が押し寄せてくるたびにワクワクする。


幼少にかえった気分だ。


 「ん??」


のっぺらの、体の一部に小窓があり、開くと中に赤や青、紫、黒などの色とりどりの無数の


回線が広がっていた。本格的な作りにより一層胸高鳴る。


今まで全く気が付かなかったが、丸の部分、人で言えば頭部の部分の上10センチあたりが


蓋のようになっていて開くことに気付いた。


蓋を取って開けてみる。丸がパッカっと三日月に分かれた。その中には先ほどと同様、無数の


回線。


「えっっ。」


モニター!?液晶画面??なにやら分からないけど、凄いものもが入っていた。


「まだ何か・・・なんでしょう?」


紙・・・説明書らしきものが入っていた。


「何々、この商品はあなたによって作り出すことの出来る世界でたった一つのオモチャで 

 

 す。」


 大げさな。


 「1、データチップを内蔵して下さい。」


 「2、あなたの血をパーツ4にメモリいっぱい注いで下さい。」


 「3、想いをパーツ5に注いで下さい。」


 「4、充電はこまめに行って下さい。」


と、書いてあった。


 ・・・とりあえずは、足の裏についていた縦横3センチ程のチップを内蔵し、包丁で


人差し指を軽く切り、出てきた赤い鉄の臭いを4滴ほどパーツ4に注ぐ。


パーツ5を握り締めて、約30分もの間、想いをめぐらせた。


果たして想いは注がれているのか、それは私には分るはずがない。


それぞれを所定の位置にセットし、一応完成となった。


気が付けば、朝の5時をまわっている。一応完成となったのっぺらは、容姿は変わっては


いなく、音が鳴るわけでも、手を振る素振りさえも見せなかった。


あの、いかにもらしい回線はただの飾りだったのだろう。


「ハハハ。」


1〜5を忠実に行ったことが馬鹿らしくなってきた。でも、時間を忘れて熱中してなにかを


するなんて事、何年ぶりだろうか。楽しかった・・・。そう思えてのっぺらを作っていた時


間が確かにあった。それだけでも、良かったのかもしれない。元々なにが出来るか分からなか


ったのだから。もしかしたら本当は、何も完成などなくのっぺらのままであってあれが


完成だったのかもしれない。


いや、もしかしたら想いが足りなかったのかもしれない。はたまた、血が足りなかったのか


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 「んっっ。」


ハッと目が開く。ごくごく自然に、疲れも眠気も、なんの前触れもなく、


いつの間にか眠ってしまっていた。気が付かなかった。


今、何時なのだろうか、東側の壁にかかったシンプルなシルバー色の時計に目をやる。


この、素朴などこもかざりっけのない時計のデザインが気に入っている。


「えぇっ。もう6時30分ですか・・・。」


作業を終えて約23時間もの間、体を休めていたらしい。


そりゃ無理もない。あんなに走ったのは、高校生の校内マラソン大会以来。


しかも30代の私・・・オジサンと言うべきか、にはそうとう応える。


そろそろ動きださなければ、このまま此処に留まりそのまま意識がなくなるまでボーっとし


私という魂が抜け、抜け殻状態になってしまいそうな気がする。それを恐れて、


体を起こそうと決意。その意思は余りないのだが、体を起こす。


「よいしょと。・・・・痛っっ。」


どうやら両足筋肉痛のいやなオマケが付いてきたみたいだ。


あぁ、そうだ。記憶から早くも取り除かれてしまいそうになっていたが、あのロボット


は・・・  痛いと軋む体を起こす。


「ぅうわっっ。」


体の中の巨大な魚が驚いて水を切って飛び跳ね上がった。その拍子に体は後ろに飛ばされてし


りもちをついてしまった。


錆びたバネによって普段の動きを強いられないはずの筋肉は、自分が思っていた以上に


敏感な動きが出来る事が分かった。


「どっど・・・どどど泥棒!」


口にしたものの、薄々違うという気はしていた。なぜなら、小学生くらいの年齢をまとった


子供が、私が振り返ったその先で寝息も立てずに座った状態で寝ていたのだから。


もしかしたら、おとぎ話に出てくるようなこの家を魔女の館だと間違えたのかもしれない。


もしくは、窓から青いカーテンをすり抜け覗いた先にある異物な白い塊に誘われて来たの


かも知れない。ただの、かわいい不法侵入者だろうか。


巨大な魚が飛び出してきた時、気づいたのだがあの驚きはまた別のところにあった。


恐ろしさだろうとも、憎悪だろうとも、どちらにしろ全身のあらゆる毛という毛が逆立ち立っ


ていることは、事実だ。


その子は、その小学生くらいの男の子に私は、とても見覚えがあった。


「おぉぉぉおおぉお起きなさい」


恐怖を背にし、好奇心を盾に近づいてみる。


この状況に対応しきれないので、パニックった私には声を、手を、からだ全体を震わせながら


その子を揺することしか出来なかった。


何度も声をかけても、左右上下に揺すっても、起きないし反応がない。


ましてや、呼吸の音も、心臓の音もしなかったのだ。


「ん??」


後ろ首になにやらON・OFFと書かれたスイッチだろうか、ボタンらしきものがあった。


汗ばむ手を上手に誘導してそのボタンを、おそるおそる押してみる。


「パチッ」


電気をつける時に押すあのスイッチの音とソックリな音だ。


同時にその子の目が開いた。緑色の吸い込まれるようななんとも美しい目をしている。


再び、呼吸の仕方を思い出したのか、動きだした。


「おはよう。・・・ぉはよう。」


彼は、声がする方、製作者に目を向ける。私は彼と目が合った。


初めに手に取ったのは、薄汚い製作者の手だった。


私は、何故か泣いてた。別に弱虫でも、涙もろいのでも、涙腺が緩んでいる訳でもない。


奇妙な衝動に駆られた。彼は、余りに人間に似たいた。


こうして誰かに手を取って欲しかったのかもしれない。


でも、小さなその手に温度は感じられなかった。


歯を食いしばる。


それにしても、彼は幼いころの私にソックリだ。


 あののっぺらが、息を得たのだ。




「この商品はあなたによって作り出すことの出来る世界でたった一つのオモチャです。」


説明書に書かれたあの言葉の意味が分かった気がした。


















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