嘘つき製作者〜
息は私の意志を聞いてはくれず、まだ暴れている。
「コッツ」
靴と地面との間に、何らかの会話が生まれた。
「オモチャ屋」と看板を掲げた、古びた店に足を踏み入れる。
外のトンネルのような暗さと、中の神々しい明るさのギャップに驚く。
暗闇に目が慣れていたせいか、急な光に耐用できない目は細めることしか他ならない。
徐々に細められた目を開いてみる。店内は思ったより広く、木材で作られた馬、クマのぬいぐ
み、赤いラジコンカーなど沢山あって、これでもかというほどの数のあらゆるオモチャが
並んでいた。
どれも、いつ動き出してもおかしくないような、そんな命を持っている物のように感じて
ならなかった。
「今晩は。」
突然な声に不意を突かれる。驚いて心臓がドッキっと聞こえた気がした。
オモチャ館に普通の人間の声がしたのだから。
店なのだから、経営者がいるのがごく当たり前だが、この店に限っては二足歩行のロボットが
でてきても不思議でもなんでもない。
奥から私を驚かせた、萎れかすれた声の主がすぅっと現れた。
背は低めで、白髪に白ひげ。冬にあの赤いコスッチュームを着せると間違いなく
子供が寄ってきて「サンタ、サンタ。」と指さして、プレゼントをねだるだろう。
「何をお探しですかな?」
左の胸が激しく脈打つ。
「その・・私、何かオモチャが欲しくてですね・・・。そうですね、変な話ですけど、
私の人生を楽しくさせてくれるような、そんなとびっきりのオモチャを探しています。」
並んだ古い人形や飛行機のプラモデル、その中でも特に誇りの臭いが気になって仕方ない。
1分程沈黙が続いた。私にはその60秒という時間が、長く苦しいものに感じた。
きっとその間、私自身の時計が止まって息をしていなかったためだろう。
「それじゃぁこれはそうですか。」
口元に笑みを浮かべた老人が人差し指を震わしながらゆっくりと指した方を見る。
「組み立てると、あなたを楽しませてくれるであろうオモチャがきっとできますよ。
なぁに簡単な事じゃよ。あなたの想いがありゃ簡単に作れるとも・・・。」
そこには、人間の形をした物体があった。大きさは小学生くらいの背丈で、丸と4っつの
・・・手足だろうか、そこでかろうじで人間をイメージしたものなのだろうと分かった。
色もなく、真っ白な塊のそいつは、”のっぺら”という言葉で尽きる。
私は静かに頷いた。恐怖のためか、緊張のためか、体全体が震えている。
嬉しかったのかもしれない。
「あのオモチャいただきます。」
今の私が出せる精一杯の言葉だった。




