嘘つき製作者〜1
「今の人生楽しんでますか?YES・NO」
勿論、NOの方に二重も三重も丸をつけた。
人が行きかう中、うごめく生き物を避けていた私だったが、
街を歩いているとき出会ってしまったちょっとしたアンケートだった。
アンケート用紙をいくつも持った、20歳ぐらいだろうか。
いやもっと若いかもしれない。
そんな若いお姉さんに呼び止められ、人良くペンを走らせているまでだ。
何のアンケートなのだろうか。
その他に、「生きがいだと思うことは?」
「死に対する恐怖がありますか?」
など、他にも人生に関する質問が続いていた。
人生が楽しくない理由、そんなの考えた事もなかった。
正確には、考えたくもなかった。
人付き合いが下手なわけではない。
むしろ得意な方だ。
だからと言って、そこに楽しさがあるか?と言うとそうでもない。
強いて・・・強いていうのなら、あの日から
あの日をきっかけに私の人生は・・・変わってしまた。
あの日以前の私はきっとあのアンケートにちょっと微笑んでYESに丸を
付けていたことだろう。
いつの間にか、人が4〜5人しかいない狭い通りに出ていた。
本を読んでいる人、先を急いでいる人、左手に風船、右手にお母さんの手をっとった子供。
10分前とは全く違う時間が流れている。
あの日を理由に、現実逃避している訳じゃない。
あの日のせいにし、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げてる訳じゃない。
違うんだ、そうだ私が勝手に自分だけが不幸だと思っているだけなんだ・・・。
忘れていた記憶と、蓋をしていた忌まわしい憎悪が溢れ出しそうになるのを
必死でこらえた。
爪の後が付き、血がにじみ出る寸前ぐらい手を握り締めて。
今生きていること。
それは、私に与えられた何らかの幸せ。
そう思い続けないと、今ここに立っていることさえないだろう。
「今の人生楽しんでますか?ですか・・・」
アンケートを終えて、10分前のようにうごめく生き物を避けることなく、
気づかないうちに言葉を漏らしていたようだ。
これぞ独り言。
言葉を発したと同時に、ある思いもよらない考えも一緒に出てきた。
楽しくなければ造ればいい。促されるように走った。
いつの間にかひとけは全くなくなっていた。景色が動いている。
途中まだ明かりがかった空に白く丸いモノが見えたので何となく手を伸ばしてみる。
「ハァッ。ハァ・・」
息がまた切れてきてちょっと苦しくなってきた。
時計を見ると一時間以上が経っていた。どうやら、時間と共に走っていたらしい。
辺りは緑が見当らない。灰色の塀に隔離されているような薄暗い通りに出ていた。
闇が漂うのは18時30分になる時間帯だからだろう。
いつから面倒くさがりやになったのだろう。簡単なことだった。造ればいい。
私はまた、走った。とにかく走った。頭では分かっていても、上手く表現出来ないように
ただ走っているという行動に、もどかしさを覚えた。
完全に闇が空を支配した。さっきより明らかに、光を取り戻した丸い月が見えた。
灰色の通りは、もはや真っ黒なトンネル状態。
そのトンネルに入り口の様なひときわ目に付く看板があった。
呼ばれているような奇妙な感覚を背負い、考える間もなく足はすでに動いていた。
私はこの店に来るためにずっと、ずっと走っていたんだと勝手に解釈。
「ゴッホッ。・・・ゴッホ。」
適度な息切れを通りこし、とっても苦しい。今はそんなことどうでもいい。
今時珍しい横にスライドさせて開ける戸。よく見ると、看板の周りのイルミネーションの
電球は所々切れていて、たいして明るくもなかった。月の方が何倍も眩しい。
戸に手をかけ右にずらす、思ったより滑りがよく戸は「ガラガラ」と音を立てた。




