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少女は前進する

 森の中、長剣を携えた少女がいた。

 流れるような金髪に、全てを見透しているような蒼眼。全体的に細く、凛とした顔つきをしている。

 彼女に対峙する者がいた。人ほどの体格を持つ大蜘蛛である。

 少女は長剣を鞘から抜き、地面と水平にして構える。腰を少し下ろして、途端、駆けだした。

 大蜘蛛は迫ってくる少女へ向かって、白い糸を吐いた。少女の腕程の太い糸だ。

 糸は少女の四肢を絡め取り、彼女の動きを封じる。

 粘着性があるのか、いくらもがいても振りほどけない。

 少女は振り払うのを諦め、敵に向かって前進した。

 糸が彼女の歩みを邪魔する。だが、それでも彼女は足を止めない。少女は全身に力を込めて、再び前へと踏み出す。

 ブチッ、という音が連鎖的に聞こえる。音が止んだ時、彼女の歩みを邪魔するものはなにもなくなっていた。

 大蜘蛛はまた糸をまき散らす。だが、少女はすでに眼下へと詰め寄っている。

 長剣が大蜘蛛に突き立てられた。





 ホタルはその日、一人でシノンに隣接する森に来ていた。

 昨夜、レンは徹夜で剣を鍛え、疲れて今も熟睡している。

 期限ぎりぎりまで仕事を放っておいたレンの自業自得な訳なのだが、幼馴染としてハーブティの一つでも振る舞ってやろうというねぎらいの気持ちから、そこへハーブを摘みに来たのである。

 と、森に入ってから数分。うつ伏せで倒れている少女を発見した。

「だ、大丈夫ですか?」

 ホタルが少女の体を起こすと、彼女の風貌がはっきりと見えた。

 流れるような金髪に、全てを見透しているような蒼眼。全体的に細く、凛とした顔つきをしている。

 少女は薄く開いていた瞳をまた少し覗かせ、呟くようにこう言った。

「お腹……空いた……」



 昼過ぎ、レンは大きな欠伸をしつつ起床した。

 全身がだるい。徹夜なんてするものではない。いつも徹夜の後にはそう思っているのだが、どうしても後回しにしていまうのだから仕方がない。

 レンは布団をどかせ、立ち上って天井に向かって手を組みながら背伸びをする。

 さて、と頭の中でそう呟き、お隣のホタルの家へまっすぐ向かう。

 あの幼馴染のことだ、いつものように気を利かせてハーブティを用意してくれているのだろう。レンの好みに合わせてブレンドされたそのお茶も、彼女が徹夜せざるをおえなくなるまで仕事を放置させる原因の一つかもしれない。

 ついでに何か作ってもらおう、と仮定的な幼馴染のエプロン姿を思い浮かべながら、レンはホタルの家の玄関をくぐった。

「ホタルー、お腹空いたー。何かつく……て?」

 レンの目に映っているのは、音を立てず上品に、しかし物凄い速さでテーブルに並ぶホタルの手料理と思われるものを平らげている金髪の女。

 視線をずらすと、シンプルな緑のエプロンをしていて、ニコニコしながら無言で食べ続ける女を見ている幼馴染。

 思考が止まった。世界が凍りついているかのような感覚。

 視線を戻す。そこには見知らない女。

 視線をずらす。そこには見知った幼馴染の男。

 期待していたハーブティは見当たらない。ホタルが結局ハーブを摘み損ねたことをレンは知らない。

 レンが未だに固まっていると、ようやく気付いたのか、ホタルが立ち上がって彼女の方を向いた。

 ホタルのニコニコした顔に向かい、レンは、

「あ、おはよぶはっ!」

 思いっきり、蹴りを放った。

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