失われた記憶〜交渉〜
へい!おまち!
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ネアトの所にその男達が訪ねてきたのは半年前だった…どこかで私達の噂を聞きつけその薬品の効果を褒め称え取引したいと申し出た…
商人の名はモウカリーノと言った。
彼に付き従うのは護衛の黒騎士と荷物持ちの奴隷の少年だった。
話し合いの席には私は同席を許されず 奴隷の少年と外に放り出された。
私は持ち前の好奇心で初めて見る奴隷の少年に興味を持った。
「あなた名前は?」
「待ってくださいマリー!」
「遅いわよ!カミュ!」
今日は森の中にある小高い丘の上に薬草を取りに来ていた。
彼…カミュは『魔剣王』に使える『魔』の貴族ガノッサの奴隷であった。
モウカリーノがネアトと交渉に赴く際に黒騎士『レイヴン』と共に同行を命じられた。
この同行の目的は知らされていなかったが、レイヴンとモウカリーノの手足として働くように命じられていた。
ネアトに後から聞かされた話ではあの商人はネアトの薬を独占契約し販売したかったらしいがネアトはそれを断った。
レイヴンと名乗る黒尽くめの騎士は『その偉大な魔法を『魔剣王』様の為に役立てて欲しい…』つまり戦争に参加しろと言う事だった。
勿論ネアトは断り『二度と来るな』と追い返した。
しかし二人は『もしも心変わりされた時に…』と奴隷の少年カミュを近くの村にある貴族の私兵の宿舎に置いて行った。
彼はそこで働きながら毎日森の中にやって来ては二人の手伝いをしていった。
「待ってください…マリーはこんな岩場も平気なんて凄いですね」
「…そ…そお?」
遅れながらも肩で大きく息をしながらやって来たカミュがそう言うとマトリーシェも満更ではなかった。
ここは生まれた時から住んでいる森であり彼女にとっては庭の様なモノだった。
「...ネアトは何て?」
「ネアト様は相変わらずですよ...でもその反応こそが普通ですよ」
此処に向かう前に彼なりに交渉をしたようだが…どうやら彼らの申し出にも応じるつもりは無いらしい...
しかしこのカミュの事はマトリーシェは結構気に入っていた。
控えめで落ち着いた雰囲気でありながら周囲に対しての気配りが完璧であった。
ただ単に彼にとっては奴隷としての生き方であるだけだが、マトリーシェにとっては始めての異性の人間であり奴隷だったのだ。
そう…彼は『人間』であった。
攫われたのか…それとも迷い込んだのか…どういった経緯かは知らないが物心ついた時にはガノッサの屋敷の奴隷夫婦によって育てられていた。
普通の人間ならば魔物の餌にされるか、魔族の慰み者にされるか……しかし彼はそのどちらにもなる事無く育てられた…それは………
マトリーシェは隣の彼を見た。
草原の様な翠の髪と同じ色をした瞳……『魔眼』だった。
魔界において人間の持つ魔眼は当時としては貴重なものであった。
「生きた宝石」とも呼ばれ奴隷と呼ばれつつもその待遇は天と地の差があったのだった。
確かに彼の瞳は綺麗だったがマトリーシェにとってはそれは些細な事であった。
彼女は気付いていた…自分がこの青年に惹かれている事を。
彼の素朴な優しさが…純粋な心が…その自身の境遇をも乗り越えんとする強い意志が…
全てが愛おしく感じるのだった。
「カミュは自分を買い戻そうとは思わない?」
「…昔は考えました…でも…ほらボクはこの眼があるから……魔法も使えない…何の価値も無いのに……」
そんな自虐的な彼の言葉はマトリーシェの心に酷く響いた。
マトリーシェはカミュと過ごすうちに彼を奴隷から解放したいと考えるようになった。
『ボクは将来この魔界の大陸を旅して子供達に笑顔を与えたいんだ…』
彼の語る夢はマトリーシェに共感を与えた。
戦争で親を亡くし家を失い祖国をも追われた子供達が多く居るこの時代にそれはとても素晴らしい事だと思えた。
彼女自身も彼のこの夢に共感を覚えた…いつしか彼と二人、世界を旅できたらと考えていた。
「…幾らなの?」
「…100万レギオンです」
「100万!?」
魔界の通貨はオンが主流だった。
100オンで1ギオン…100ギオンで1レギオン……人間界の通貨と比較すれば1オンが1円の感覚だった。。
つまりは100億…明らかに法外な価格である。
「……いいわ…私が貴方を買い取ってあげる…」
モウカリーノと密会し商談を行った。
その前に師匠でもあるネアトリーシェに商人との取り引きについて説得を試みた。
ネアトはこの商人との取引は絶対に行わないと言っていたがマトリーシェは必死に食い下がった。
理由を聞かれ、少し迷ったがカミュを買い戻したい理由を告げると…少し考えてこう告げた。
「薬はお前が作るんだ…私は一切手を貸さない…お前が全ての責任を負うのだ」
一応はネアトの弟子であるため、モウカリーノは快く取引に応じてくれた。
金額についてもネアト程ではないが一般のものよりも高額の取引に応じてくれた。
黒騎士レイヴンとも取引を持ち掛け、カミュを買い取りたいと提示した。
一瞬意外そうな顔をされたが、当主に掛け合ってくれると約束してくれた。
いつも遅くてすいません。
次回も頑張ります。