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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
95/241

失われた記憶~暗雲~

3/16 修正しました

 


 

「ぐがはあ!」


 吹き飛ばされたベオウルフは悶絶する。


「き…貴様!ベオ様に何を!!」

「うるさい…」

「……!!」


 騒ぐ取り巻き達は彼女の言葉に息を呑んだ。

その表情には感情が無かった。

彼らのことを何とも思っていない……『物』としか認識されていない…

その事に少年達は震えた。

 同様にミネルヴァも困惑した…マトリーシェのこの変貌振りはどうだろうか?

先程もまでのあの愛らしい笑顔の少女と同一人物とは思えないほどの変わりようだ。


「…き…貴様…」

「へえ…流石は『竜人種』…あれしきの事では死なないか…」


 その言葉にミネルヴァは震えた…彼女はベオを殺すつもりなのだろうか……

騒ぎを聞きつけて村人や周囲の旅人達が集まってきた…もとより祭りが近く開催される為昼間から酒を浴びるような連中が集まっていたのだ

喧嘩と聞いて周囲の野次馬達が優位なマトリーシェに対して声援を送った。

それに気を良くしたマトリーシェが更に次の手を考える。


「マ…マリー……」

「ん?どうしたのミネヴァ?待っててね今からこのくだらない奴らを始末するから」

「!!」


何ということだろうか……先程からマリーは世間知らずと思ってはいたが…最早そんなレベルでは無かった。

彼女の世界は自分中心なのだ…彼女が必要なもの…気に入った物だけが存在を許されるそんな歪んだ世界

それがマトリーシェの世界観なのだ。

もともとネアトリーシェと二人の世界に生きていたのだ…知識は豊富にあってもその『結果』が何なのか…『どうなるか』についての情報が著しく欠落していた……

だから自分の認めないものは『排除』してしまう……それが他者の生命であっても。


「許さん!許さん…ぞ!貴様ぁ!!」


ベオウルフの体が一瞬膨れ上がったかと思うとその竜化した豪腕がマトリーシェに向けて振り下ろされた。

彼女はそれをひらりとかわすと今度は彼の顔に手を向けた。


爆発(スプレッド)


 小さな火球が弾け再びベオウルフの巨体が弾けとんだ……

取り巻き達は呆然としている…彼がここまで一方的にやられる姿など見たことが無いからだ。


「…ふむ…あれを食らってもまだ動けるのか…凄いな…竜人種とは…岩や木なんかとは比べ物にならないね…さて次は……」


それからも次々と魔法をベオウルフで試すような感覚で彼を痛めつけた……

マトリーシェの表情は活き活きとしておりその反面、ベオウルフはどんどん酷い有様になっていく……


「……マ…マリー」

「?ミネヴァどうしたの?」

「…も…もうやめて…ベオが……ベオ死んじゃうよ…」


 ミネルヴァは震える手でマトリーシェの腕を掴んだ…


「いいじゃん…こんなの死んでも…」

「!」


 彼女の感覚は完全に常識の外にあった……


「さぁ…これでおしまい」

 マトリーシェの手のひらに創り出されたのは小さな黒い光玉……『奈落のアビスファング』だった。

それは如何なる物をも貫き防ぐ事は出来ないとされる 古の失われた『禁呪』だった。

流石にただの喧嘩だと思っていた周囲の連中も異常な事態だと気付き始めた……


マトリーシェがそれをベオウルフ目掛けて投げ出した瞬間………

凄まじい速さでミネルヴァがベオの前に立ちはだかった。


その口から発せられたのは禁呪をも打ち消し、大地をも振るわせる古代竜の咆哮だった。


マトリーシェを見つめる目は赤く輝いている……『竜化ドラゴンモード』…そう呼ばれる彼等の成人した姿であった。


「……ミネヴァ……何故邪魔をするの?そいつは貴方にとって悪いものでしょう?」

「いいえ…マリー……彼は私の大事な友達…そしてあなたも…私の大事な友達……」

「…友達……」


……既にマトリーシェは先程のように何かをしようとはしていなかったが……

人垣の合間から一陣の風が走りマトリーシェに近付いた……


「このスカターン!!!」


 ネアトリーシェが駆けつけるなりマトリーシェの頭を拳で殴り飛ばした。


「い!!痛い!!何すんのさ!」

「この馬鹿娘が!!……ああ!情けない!喧嘩に魔法を使う奴があるか!しかも禁呪まで…ああ!育て方を間違った!!!」


 この剣幕はネアトが本気で怒っている……そう感じたマトリーシェは飛行の呪文で逃げようとしたが

ネアトの『魔猫の咆哮』で無効化され盛大に地面にこけた。


「ああ?逃げられるとでも思ったのかい?さあ今から宿に行って朝まで説教だよ!!」

「ま…待って!ネアト…ね?ね?私が悪かったから…ね?暴力反対!話し合おうね?ね?」


 先程迄恐ろしいほどの存在だったマトリーシェがさらに恐れるこの猫魔族の女性を見て少年達は震え上がった。

それを見たネアトは複雑な心境でベオウルフの傷を『超回復イグザ・ヒール』で一瞬に治してしまった。


「…ベオ…大丈夫?」


 呆然と地面に座る彼にミネルヴァが手を差し伸べた……見上げた先に居るのは幼馴染の女の子……いつもおどおどして……

俺が守ってやらないと……!そう思っていた。

彼女が俺の許婚だと知らされた時は嬉しすぎて眠れなかった。

未だに竜化していない彼女を大人たちは困ったものだと言うが……俺は一生竜化しなくても良いと思っていた。

『一生俺が守る』

そう心に秘めた思いを実現する為彼は努力を惜しまなかった。

彼女に代わり一族を俺が導くのだ……彼女は俺の傍に居るだけで良い……

そう思っていた………

もう一度彼女を見上げた……

白い髪…透き通るような肌…そして燃えるような赤い『竜眼ドラゴアイズ』一層彼女の魅力を引き上げた。


「……ああ…ミネルヴァ…俺は…」

「え…えええ?!何?これ!?」


 自分の両手を見て悲鳴を挙げた……

そこには『ドラゴンクロー

背中には『ドラゴンウイング』頭には角が…極めつけはお尻からは尻尾が生えていた……


「竜化…しちゃった……」






それからは大変だった。

一族の象徴とも言える古代竜人族の最高位の白竜が成人したのだ……町中お祭り騒ぎになりマトリーシェの説教もうやむやになってしまった。

三日三晩町中が大騒ぎでネアトリーシェとマトリーシェも予定を延長し滞在したのだった…

しかし『禁呪』を使用しようとしていたマトリーシェをこれ以上目立たせる事をしたくないネアトリーシェによりその殆どを室内で軟禁状態のまま祭りを体験する事となり、ミネルヴァやベオ達が持ち込む品や食べ物、窓からの景色と聞こえる音楽などでその雰囲気は十分に堪能できた様だった。

その際にはベオに謝罪しミネルヴァを通じてそれぞれの理解と友好を深める事が出来た……

やがて5日間続いた祭りも終わり二人が黒き森に帰る日がやってきた。


「いつでも遊びに来てね」

「うん…ミネヴァも…森に遊びに来てね…何も無いところだけど…」


別れを惜しむ子供達から目を離すとネアトは後方の馬車の集団に視線を向けた……

その馬車には薔薇と蛇の刻印の家紋が掲げられていた……


(まさかな……考えすぎか……)


 ネアトは思考を払うと子供達の元に向うのだった……

しかし、言い知れぬ不快な感情がいつまでも燻り続けているのだった。



思ったより早くに更新できました。

やれば出来る子でした。

次回も頑張ります。

インフルエンザ流行ってるけど、皆さんも気をつけて。



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