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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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失われた記憶~友~

微睡みから目覚めると店番をしていた祖父が笑っていた。


 普段から感情はあまり表さない祖父が笑うなんて……自分の知る限りでは最近では皆無であった。

恐る恐る顔をのぞかせてみると客と話をしているようだ……どうやら祖父の友人らしい。


「ミネルヴァ、起きたか……来なさい」


 祖父に呼ばれおずおずとカウンターに近付く……

ふと客人に目が言った、そこにいたのは「猫魔族ニャーマイオン」の女性と金髪の一般魔族(ジェネラルマージ)の娘であった……一般というには何処か可憐で高貴な雰囲気があった為、貴族階級魔族(ノーブルマージ)ではないかと思った。)


「孫のミネルヴァじゃ……お嬢さんと同じくらいかの……」

「ほう…お前に似ていなくて可愛いではないか…」


 たしかに私は祖父には余り似ていない……嫁に来たお母さんに似ているらしい…

竜人族ドラゴニアン」でも真祖たる「古代竜人族エイシェントドラゴニアン」の一族であった。


「こちら古い友人での…ネアトリーシェとお弟子さんのマトリーシェちゃんじゃ」

「………こんにちは…」


 祖父の影から恐る恐る顔を覗かせて挨拶する…


「こんにちは」

「……こんにちは」


 マトリーシェと呼ばれた少女はこれでもかと言うくらいにガン見してきていた。

ミネルヴァは内心泣きそうな状況で俯いていた。


「……なにぶん内気な子でして……この年でまだ『竜化ドラゴンモード』も出来んのですわい…」

「……こんな時代だ…焦らずに見守ってやれば良い………おい、マリーこの子と外で遊んで来い……なんか食って来い」

「……いいの?」

「…祭りも近いしな…ただし晩御飯が食べられなくなる…なんてのはナシだからな」


 そう言うとネアトリーシェはマトリーシェにいくらかのお金を渡すと二人を店から追い出した。


「……ねえ」

「?!はっ…はいっ!」


 突然声をかけられミネルヴァはさらに泣きそうになりながら返事をした。

頭一つ分ほど背の高い彼女が私の両肩を掴みかかって……その目は爛々と輝いていた。


「ねぇ!貴女、古代種って本当?凄いわ!ホントに実在するなんて!髪の毛の色がその固体を表すっていうけど……貴女の白髪だと貴女は白竜?

すっごいじゃない!!白竜なんて伝説の存在じゃない?!ねえこの角触っても良い?って言うかもう触ってるけどね!うわーすべすべー…あ…

ごめんね私ばっかり喋って!私マトリーシェ…長いからマリーって呼んで…よろしくね」

「え…あ…ええ?…うん……ほえ?……ふわぁぁ……あ…」


 怒涛のようなマトリーシェの口撃にたじたじだったが、彼女は純粋にミネルヴァに好意を持っている事が感じられた。

マトリーシェにしてみれば今まで森の中で師匠と本だけが友達だったのだ、しかもネアトリーシェの所持している本はかなりの難易度の高いものばかりであったがそれすらも全て読み終えておりその知識は年齢に似合わないものになっていた。

それらの本の中には当然『竜人族』に関する書物もあり彼女のお気に入りの一つであった。

その存在が目の前に居るのだ…本には無い愛くるしい姿で!


「わ…私もミネバって呼んで!…よろしく!マリー!」


 ミネルヴァも自分を慕ってくれる存在に動揺しつつも笑顔で答えるのだった。

そんな二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。





「ここがこの街で壱番の店です」


ミネルヴァの言葉にマトリーシェは目を見開いた…

そこはお菓子を売っている店で見事な焼き菓子や飴細工が並べられていた。


「これ…食べれるのですよ?」


 初めて見るそれは見事な菓子細工であった…ネアトの持つ本の中で知識はあったが実際に実物を見ると『百聞は一見にしかず』とはよく言ったものだと感心した。

町の至る所に人々の暮らしがあり彼女の知らない世界そのものが溢れていた。

そんな彼女達を面白そうに店の主人達はからかう


「おやミネルヴァじゃないか…珍しいね」


5軒目に訪ねたお店の女主人がそう言った。


「はい友達を連れて行きました!」

「おや?友達?見慣れない子だねぇ…まぁ仲良くしてもらいなよ」

「はいっ!」





やがて二人は町外れの開けた高台に来ていた。ここからは周囲の景色が一望でき広大な自然が堪能できた。

小さな岩に腰を下ろし先程購入したお菓子を堪能していた。

ミネルヴァは隣で懸命に飴細工を眺める少女について考えた。

出かける際にネアトリーシェに声をかけられた。

『この娘は世間を良く知らない…出来ればお姉さんになったつもりで相手をして欲しい……』と

実際彼女は何もかもが初めて見るような表情で感動をしていたようだ。

身長はマトリーシェが幾分か高いのだが中身はミネルヴァの方が落ち着いていた。

本当に姉になった様な感じがしてどこかくすぐったいような感覚に襲われながらも彼女との関係が楽しく感じられた。


「なんだ…ミネルヴァじゃねえか」


 突然かけられた声にミネルヴァは身を震わせた。

見れば5人の少年がこちらに近付いて来ていた。

どうやら竜人族ドラゴニアン半竜人ハーフドラゴニアの少年達だ。


「半人前が何をしている…町をうろつくなと言っただろう!」


 黒髪の竜人族の少年の声にミネルヴァは畏縮した……どうやら彼がリーダー格らしい

ミネルヴァと同じ古代種だ。


「べ…ベオ…ごめんなさい…」

「お前みたいなのろまが許婚だなんて…」


 黒竜の少年…ベオウルフはそう言ってミネルヴァを見下した。

 マトリーシェはおぼろげにミネルヴァの立ち位置が見えてきた…

一族でも有力な家系に生まれ更には神格化すらされている『古代竜人族』…その中でも最も最上の『白竜』なのである。

古くからこの一族に属する古参の固体達は彼女を『神格視』している……つまり彼女に甘いのだ。

逆に若い世代にとっては何の力も無いミネルヴァを煩わしく思う者が多いようだ……

 実際にマトリーシェがそこまで理解していた訳ではないが、ミネルヴァに対して様々な思惑があることだけは感じられた。


特にこの少年の彼女に対する態度は今までのものとは比較にならないほど特出していた……

『許婚』という言葉も気になった……二人は将来を誓い合った仲…言う事だろうか?それにしてもそこに異様な感情があるのは確かだった。

それ以前に二人きりの空間に土足で上がりこまれる様な感覚……

楽しく過ごしていた時間を中断された事に怒りを感じてた……

最もそれが『怒り』だとは認識していなかったのだが……

とにかくマトリーシェにとってこの少年が『嫌な奴』だと認識された。

しかし自分は部外者であることも十分に理解していた為 その事は口に出さず、成り行きを見守っていた。


「『竜化』も出来ない半人前が!…遊ぶ暇があったらさっさと修行して来い!」

「で…でも…」

「お前ベオ様の言いつけが聞けないのかよ!」


 彼の言葉に便乗して周囲の少年達もその矛先をミネルヴァにむける……マトリーシェの中でこの少年達の好感度は底辺になった。


「俺の許婚である以上恥をかかせるな!いいな!」

「……はい……」


有無を言わせぬその言動にミネルヴァは涙目だった……そのまま素通りし祖父の店に向う…マトリーシェもそれに続く。


「おい…女…待て」

「…はい?」


 何故か呼び止められたマトリーシェにベオウルフが値踏みするような視線を向けた。


「…ふむ…下等な種族だが…見栄えはなかなかだな…今から俺様が朝まで遊んでやろう」


その言葉に周囲の男達が下卑た声で笑う……


(ああ……なるほど…この男は私を性の対象と見ているのか……)

マトリーシェの中で『男』という性別は最低の生き物だと格付けされた。


「…あの…ベオ…彼女はお祖父様の友人の…」

「うるさい!お前の意見等聞いていない!」


薙ぎ払われた彼女のその小さな体が地面に転がった……

マトリーシェの瞳に映るミネルヴァの姿は何かに耐えようとしている様に見えた。


『そうか……こいつらは『敵』なんだ』


そう解釈してしまった。

当然マトリーシェは二人の関係等など知らない。

昔は仲の良かった幼馴染という事を……

いつもミネルヴァと比べられるベオウルフの葛藤を……

彼の態度が歪んだ愛情表現だということも……

その全てを理解して再び彼が以前の様に真っ直ぐな心を取り戻すと信じて待つミネルヴァの本心も……


そもそも『他者を思いやる気持』というものが今のマトリーシェには無いのだ。

ネアトリーシェもミネルヴァと触れ合う事で子供らしい感情に目覚めてくれたらと思っていたが

そのミネルヴァがこの町ではここまで特殊な存在とは思いもよらなかったのである。


「……いいわ遊んであげる…その代わり…」


 マトリーシェがベオウルフに近付き…彼の胸に手をあてて……


「その対価は命で支払って貰うわよ」


ベオウルフが吹っ飛んだ。







すっごい遅くなりました。

暫くこのペースですがすいません。

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