失われた記憶~魔女~
あけましておめでとうございます(汗)
遅くなりましたっ(汗)
彼女は生まれながらにしてすぐにこの森に捨てられた……
本来であれば彼女は裕福な貴族の娘として大事に育てられる筈であった。
しかし、権力争いの激しいこの時代に彼女の属する貴族とは別のグループが当主にうまく取り入り偽りの予言を信じさせたのだ。
『双子はこの一族を破滅に導く』
当時の権力争いの日々の中、憔悴しきっていた当主はこの予言を信じ、生まれたばかりのわが子を贄に差し出したのだ。
偽物の予言師に選ばれた彼女はすばらしい力を秘めていた……だから捨てられたのである。
本来ならば彼女はこの家を更に繁栄させ、不動の地位をこの国に築いたであろう……
それ故に、彼女を失ったこの家は権力争いに敗れ歴史の中に消えてゆくのであった。
もちろん彼女はそんな事は何も知らない
【暗き森】と呼ばれるこの森でわずかな生涯を終えるはずであった。
この森に住む魔女が気まぐれを起こさなければ
「マトリーシェ!ぐずぐずするな!早くしな」
森の中の小道をローブを被った人物が後ろに向ってそう叫んだ……声から女性であると予測される……その後ろから金髪の幼い少女が水の入った瓶を抱えてよたよたと後を付いて歩いていた。
そう言われても5歳の少女にこの水瓶は重たく冷たい……けれども彼女は懸命にそれを運ぶ。
「すみませんお師匠様」
この雪の降る森の中で泉から水を組んでくるのは重労働である……それでも彼女は嫌な顔をせずに懸命に仕事をこなした。
やがて1軒の家に辿り着くとそのまま裏手の大瓶に水を移した……
「お師匠様終わりました」
マトリーシェの声にローブを被った人物はちらりとこちらを睨む……
水がなみなみと湛えられた水瓶を見てマトリーシェを傍に呼び寄せた。
「こちらにおいでマリー…よくがんばったね」
その人物はローブを外し素顔を現した
ふわりと艶のある緑の髪は肩口まで伸びておりその頭部には猫の耳が飛び出していた。
彼女の名はネアトリーシェ…【猫魔族】そう呼ばれる種族であった……
彼女はいつの間にかこの森に住み着き【暗き森の魔女】と呼ばれていた。
この森に捨てられていたマトリーシェを拾い、ここまで育てたのも彼女だ。
凄まじい魔力を内包するが故にこの森に捨てられた彼女はその力ゆえに拾われたのだ。
(この子はきっと私を超える)
その思いが彼女を見つけた魔女の心を動かしたのだ。
「さあマリー…こちらにおいでもっと暖炉の傍に…冷たかったろう?」
そう言ってマトリーシェの頭を撫でるのであった…彼女はこうして師である彼女に誉められるのが大好きだった。
彼女が実の親でないことは理解していたし本人もそう言っていた。
彼女は決して甘やかしはしない……魔法の修練には特に厳しく、課題が出来ずに家に入れて貰えない事もあった。
しかし同時に行く当ての無い彼女にとっては唯一の、そしてかけがえの無い家族でもあった……
それは母であり父であり姉であった……そして友でもあった。
7歳を過ぎたころ魔法の基礎を学ぶべく本格的な指導が行われた……それは決して楽な指導ではなかった。
1日中大気中の魔素から魔力を生み出し、それを安定させ続ける事が三年間気毎日行われた……
最初の頃は魔素を体内に取り込みすぎて過剰摂取で気絶することが日課となっていた。
魔界の住人にとって魔素とは麻薬と同じである……正しい使用法を身につけ正しく扱えばそれは力となり魔力となり糧となる…
しかし少しでもその扱いを誤れば一瞬で命を落とす事になるのだ。
「……?」
マトリーシェはゆっくりと微睡みから覚醒した。
どうやら自室のベッドの様だった……確か記憶では裏庭で魔素の変換を行っていたはずだが……
その時ドアが開かれ育ての親である猫魔族が姿を現した……
「……油断したね……後半刻で課題の時間だったからね……」
その言葉に記憶が蘇ってきた……魔素を三時間変換し続ける……それが課題だった。
二時間を過ぎた事でゆとりが生まれた……それが油断に繋がったのだった。
「……本来なら食事を抜く所だが……体を壊されても困るからね…今回は特別に罰は無しだ」
そう言いながらその手の中の果実と薬草、木の実を数種類コップに入れるとなにやら呪文を唱え手をかざした。
コップの中で小さな爆発がおき、ピンクのきのこ雲が上がった……そしてコップの中には怪しげな液体が波打っていた。
「…飲め」
「…………やだ」
「んだと?!このくそ餓鬼が!つべこべ言わずに飲めばいいんだよ!」
「やだやだやだ!そんなくそまずい薬なんか誰が……!!ぬぐぐぐ……」
マトリーシェの抵抗も虚しくマウントポジションから口の中に一気に流し込まれてしまい勢いで飲み下してしまった。
「はっ!私に楯突くなんざあと10年早いわ!」
「………」
勝ち誇るネアトリーシェを尻目にマトリーシェは一瞬花畑を垣間見た心境だった。
味の不味さもさながらその効果も絶大だった……先程の眩暈やだるさが嘘のように消え去っていた。
彼女はこの時代には貴重な【錬金術】の使い手だった。
ベッドから体を起こそうとして止められた。
「さっきも言っただろう…薬で一時的に回復しただけだ…今日は休め…夕飯には起こしてやる」
「…ん……」
体を横たえ布団をかけられるとその手が優しくマトリーシェの額をなでた……
師匠である彼女の見せるこの優しさはマトリーシェに深い安らぎを与える……
ネアトリーシェが退室した後布団を頭まで被り溢れそうな涙を堪えた。
-最近彼女は考える…この森で彼女に拾われなかったら自分はどうなっていたのか?
この森に7年近くも住めばその答えは簡単に理解できた。
捨てられた赤子はそのまま餓えるか、魔物の餌食であろう。
よってネアトに拾われた自分がどれほどの幸運であったか……彼女に感謝せずには居れないのだった。
幼い彼女は夢に描く…いつかネアトのような立派な魔女になる…と。
「…ふむ、そろそろ金が底を尽いたな」
ネアトはそう言って荷物を纏めた。
町に薬を売りに行くのだ…彼女の作る薬は大変貴重で効果のあるものばかりだ…
彼女の作る回復薬「ニャンケル」は手ごろな価格でしかも価格以上の効果を発揮する為冒険者や一般家庭に人気であり品切れ状態が続いていた。
貴族層に人気の「ニャンケル皇帝液」もその希少価値ゆえに販売価格よりも裏では恐ろしい金額で取引されている……
しかし貧富の差を嫌うネアトリーシェによれば『中身は同じ』なのは企業秘密である。
そのような金額があっという間に底を尽くとは……一体どんな使い方すれば良いのか?
その辺りの内情を知るマトリーシェは思いつく限りを想像したが結果には辿り着かなかった。
視線を感じ思考中断するとネアトがこちらを見ていた。
「マリー……お前もついてくるか?」
「……え?……いいの?行く!絶対に行く!」
初めてかもしれないこの申し出にマトリーシェのテンションは瞬時に高まった。
生まれてこのかたこの森から出た事の無かった彼女は慌てて身支度をはじめる……
今になって考えればこれは彼女の……ネアト親心だろうと思った。
正常な世間に慣れさせておくことでいつか私を人の世に帰そうとしていたのだ
それは叶わない事だったか………
「では今日プロボノ………いや今日はキャリックの村する」
「よくわかんないけど……どこでもいいや早く行こう!」
ネアトは目の前ではしゃぐマトリーシェの素性について考えた結果そう結論付けた。
この透き通るような金の髪……その上そしてこの魔力……一般家庭から生まれ出るものではない……
数年前にこの辺境の地を治める公爵家の生まれたばかりの双子の娘の一人が死んだという話を聞いた……あまり出回っていた話ではなかったが
この娘を見ていればそれなりの理由に行き着く。
普段行く町ではその家の関係者に出くわす可能性が高い……もしそうだとして何かわかるわけでもないのだが……
しかし用心しておいて損は無いだろう……
そう考えた。
キャリックの村は想像以上に大きな村だった……みすぼらしい村のイメージを抱いていたマトリーシェはそう感じた。
実際は村であるのだが彼女にとっては全てが初めての体験である為何もかもが新鮮で仕方がなかったのだ。
「ほら…しっかりついてこい迷子になるぞ」
そう言われ、手を掴まれるとネアトはそれを引いて歩いた……マトリーシェは喜んだ。
これじゃまるで親子みたいだ……そんなことを考えていた……
ネアトも同じ事を考えているとは知らずに。
やがて一件の店にたどり着いた…どこにでもあるような普通の店だその軒先には木彫りの竜の看板が下がっていた。
『竜の寝床』
そう彫ってあった。
中に入るとカウンターから声が掛けられた。
「珍しいな…あんたがここに来るなんて」
「……気まぐれだよ…そろそろあんたがくたばって骨にでもなっていれば薬の材料にしようかと見に来ただけだよ」
「久しぶりに会ったってのに……クックック…品物を見せてくれ」
カウンターに居たのは竜人族の老人だった。
竜人と言っても見た目は人型で頭部の角と長い尾が特徴だ……背中の羽は今は見えなかった。
その話しぶりからは二人は旧知の仲の様だった。
「……ん?なんだその小っこいのは……お前まさか…?!人さら…ぶげら!」
「馬鹿な事言ってんじゃないよ!殴るよ!」
「…もう殴られてますが……じゃあなんだよ?まさか実験の素ざ……ぴょみら!!」
漫才のような遣り取りをみて思わず笑が零れた。
年末からこちらなかなか更新が遅れてしまいました。
新年早々トラブル続きで今年は激動の一年になりそうだな~と
何とか今年中には二章完結(笑)を目指して頑張ります。
お気に入りしてくれている皆様、読んで下さるみなさま
今年も一年よろしくお願いいたします。
次回もやや遅れます(滝汗)