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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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挑む者達4

2日遅れですがご勘弁ください

家の外は近年稀に見る程の猛吹雪だった。

シェヴァルト地方の最北端にある霊峰『シェヴァルトリア』はその麓の村や町に様々な恩恵を与えその反面様々な脅威をも与えていた。

その村の一つ、ジュペック村は『翼竜』の住む山岳地帯に最も近い場所にあった。

山で取れる豊富な薬草、木材、鉱石、魔石が村の産業の一つであった……かつては『翼竜』を討伐する為に集まる猛者達の前線基地であった。

数年前に当時の外務大臣であった魔族が国内安定を目標に『翼竜』の討伐に向かい消息を絶った……当時は魔界に名を轟かす魔族の戦士達が同行していながらの事態にやがて『翼竜』は禁忌とされる様になった。

村で唯一の酒場では一人の男が窓際で山頂を険しい表情で眺めていた……その男…既に老人と呼んでも遜色ないその風貌は彼が『戦士』である事を認識させるに十分であった。


「……よう!ヘドヴィグ!何が見えるんだよ」

「………」


 背後からかけられた冷やかしとも取れる声にヘドヴィグは視線だけ向けた。


「…そんな怖い顔すんなよ…何か見えるのか?」

「……『女王』が戦っている」

「へぇ…女王が……?!何ぃ?」


 ヘドヴィグの言葉に酒場のカウンターに居た男達が窓際に殺到する。

見れば山頂付近で時折稲妻が幾重にも轟き、大地を震わすような咆哮が響き渡った。


「……えらい事だ!!明かりを消して地下に隠れろ!」


 男達は蜘蛛の子を散らすように上着を手に取ると吹雪の中を自宅へと急いだ……

昔、翼竜は自分の巣を荒らした冒険者に怒りこの村まで飛来し暴れたという記録があった。


ヘドウィグもかつては翼竜を倒し富と名誉を求めた時期があった。

将来を約束した伴侶とともに5人の仲間達と吹雪の霊峰で翼竜と対峙した。

 

 数々の困難を乗り越えた最高の仲間達であった……この仲間とならばどんな試練もも乗り越えられる……そう信じていた

しかし現実はそうではなかった。

自分たちは井の中の蛙であった……この世界には上には上がいることを思い知らされた。

仲間たちの魔法や武器は一切通用しなかった……仲間の戦士が結晶にされると我々の状況は一気に悪化した

弓使いの仲間が敵をうとうと特攻すると、魔法使いが彼もろとも翼竜を葬ろうとした……恐るべき業火の去った後にはかつての仲間の姿はなかった。

翼竜は怒り魔法使いを狙ったが彼は私を盾にした……その尾によって左手を貫かれ肘から先は結晶化したため自ら切り落とした。

その魔法使いの行為はさらに翼竜の怒りを買い灼熱のブレスト我々に吐き出された。

僧侶であった私の伴侶は私に絶対守護の魔法かけると魔法使いと共にこの世から消え去った……

最後に見た彼女の顔はまぶしいほどの笑顔であった。


生きながらえた私を翼竜は興味を失ったように放置した。

その後偶然通りかかった旅人に命を救われこの村に運ばれた……

過去翼竜に挑み生きて帰った者は居らず私は勇者のように扱われた……私にとっては…生き地獄であった。

愛する者を失い、仲間との絆と誇りも失い最早生きる目標を失っていた。



 あれから半年…傷が癒えた頃合を計り今度は死に場所を求めて翼竜に会いに行った……

深い雪山の奥に翼竜は居た……物言わぬ結晶化した人々を見下ろすかの様に……当然私は死を覚悟した。

しかし翼竜はすぐに興味を失ったように再び眠りについた……


『お前には戦う資格がない』


そう言われた気分だった…しかしこのまま引き返す気はなく懐に忍ばせた爆薬で翼竜もろとも果てる気でいた……


………不意に翼竜が啼いた……いや……泣いていた。


その口からはか細い声を上げ涙を流していたのだ……


『私は貴方に会う為に待っていたのですよ?』


 私の伴侶である愛くるしい僧侶の女性の姿が重なった。


『……会えないんじゃないかと…泣いてしまいました』


 初めて出会った時、彼女はそう言った……そう言われ自分自身も何故か納得したのも事実だった……

……そうか……そうだったのか……ヘドウィグはその場に立ち尽くした……


「……お前も…待っているのか……」




下山した私はこの麓の村に住み翼竜に挑もうとする者たちの説得を続けてきた


あれは魔獣なのではない誇り高き翼竜なのだ……あの雪山で己の認める強者との邂逅を何百年も孤独と戦いながら待っているのだ………

だからかつての自分のような愚かな挑戦者はここで返り討ちにしてやるのだ。


「……やっと出会えたのだな……」


 ヘドウィグは立ち上がり周囲の者達に声をかける……

(あれだけの戦いなのだ、救助も盛大に必要かも知れんな……)

そう考え準備をする為に外に向うのだった。 







 自らの尾を犠牲にしてまで打ち込んだブレスは間違いなくあの男を直撃していた。

ドラゴンの中にあるのは『闘争本能』ただそれだけであった。

たとえこの足が失われようと翼を引き千切られようと痛みも恐れも感じる事はない……そう作られた。

そう作られた筈の存在が今、未知の感情を感じていた……


(コノカンカクハナンダ?!)


 体が震えている…生まれたての赤子の様に……それは勝利した事の喜びなのか?……

否!

 四肢が地面に縫い付けられたように動かなくなった……それは戦いを制した者の疲労感だろうか?……

否!否!

 そうだ……この感覚は知っている…自身のコアとなった翼竜を取り込む際に翼竜が感じていた感覚だ……その名は……


 『恐怖』


否!否!否!

偉大なる魔女様に創られたこの私が『恐怖』など感じる筈が無い!

『恐怖』とは自身が相手に与える感情……

『恐怖』とはこの私自身の事である!

『恐怖』とは……『恐怖』とは………



メノマエノオトコノコトダ!


 


目の前には火炎と雷撃のブレスによって火山の火口の様になったクレーターがあった。

周囲の雪は一瞬で蒸発し、岩は原型を留めず、煮えたぎるマグマの様であった。


それはそこに居た。


赤く染まった大地に不自然な黒い物体があった……やがてそれは左右にゆっくりと広がり…一対の黒翼であった。

翼を背中に閉じると男は立ち上がった……

長い黒髪はそのままに……頭部に不自然な突起物が左右に突き出していた…それは『角』としか表現できないものであった。

体は黒く変色し禍々しいほどの鋭い突起が全身を覆っていた……特にその右手は恐ろしい程に研ぎ澄まされており、鋭利な剣の様でもあり黒竜の爪の様でもあった。

不思議な事に左肩から先の左腕は元の人間のものであった……男がその目を開いた……

その両目は黒目で染まり揺らぐ金色の眼がドラゴンを見据えた……


「……覚悟は出来てんだろうな?……俺をこの姿にさせただけでも大したもんだ」


 それは『真体開放』と呼ばれるものに非常に近い現象だった。

ここが魔界であった事が幸いした……ドラゴンにとっては不幸であったが。

新たに魔素を吸収して体に負った傷を回復した後、魔素で鎧とも呼べる新たな皮膚を作り出す……それは濃縮された魔素そのものであった。

ドラゴンブレスごときでは破壊することはできないであろう。


「……時間が無い物でね……お前に構っている暇はない……『魔眼開放』」


 アーガイルの額に光が走り第三の眼が現われる……黒目に赤い瞳……『破滅ダークネス・オブ・ルイン』である。

もしここにルミナスが居たらここに書き表す事が出来ないほどの感極まった行動に出たかもしれない……

ネルですら平常を保っては居られないだろう。

……それほどの魔眼なのである。


「……うるさいな」


 恐怖をふり払うかのように咆哮を上げるアイスドラゴンの頭部目掛けて右手を振るうと二つの頭が一瞬で砕けその軌道上にある翼と尾の一部も削り取られた。

借り物の体とは言えこの様に簡単に破壊される様な代物ではない。

突如その亀裂から翼竜が首を出した…衰弱しているものの今の自分の状況を良しとしない意地のようなものだった。

そして喉を鳴らすようなに悲しげな懇願の声をあげる……それはアーガイルに向けたメッセージだった。

『私を殺してくれと』


「……わかってるよ…今楽にしてやる……」


 アーガイルの右手には高濃度な……まるで太陽かと思わせる様な灼熱の球体が出来上がった。

同様に左手にもこの雪山の景色が嘘の様に思えるほどの絶対零度の魔力の氷塊が出来上がる。





「…何が起こっているんだ……」


 ルミナスは困惑していた……アーガイルの魔力は今までに感じた事の無い程の波動を周囲に響かせていた。

ネルも同様に体験した事の無い魔力波動に混乱した……


(この魔力は……ありえない!)


 この魔界においてこのような強力な魔力の波動を纏える事の出来る存在など魔王以外に存在しないからだ。


(ただのきのこ男ではなかったのか?)


 これ程の実力を見抜けなかった自分はまだまだだと考えながらも主であるルシリアが彼に固執する理由が理解できた気がした……

これだけの力を持つ者ならば魔界では逆らうもの等数えるほどでしかない……そんな男が娘達の誰かと……この際全員でもいいから関係を持ってくれれば……


(使命云々よりも個人的にもお近づきになりたいモノだな……)


訳もわからずうろたえる伊織とマードック……悶絶寸前のルミナス……黒い笑みを浮かべるネル……

その中でただ一人イリューシャだけは目を閉じて全身を包むアーガイルの波動を堪能していた……強く…そして懐かしい波動に身を委ねていた。


「…そのお力御健在で何よりです……マスターアーガイル」







 アーガイルの両掌が1つに合わさり相反する筈の2つの属性魔法が1つになった……


融合魔法フュージョンマジックコールドえる火球フレイム


 紅蓮の炎が渦巻き、瞬時に炎が凍りつく……やがてそれは再び燃え上がる炎に溶かされる……不思議な球体がそこにあった……


 アイスドラゴンは本能で理解する…あれは危険なものだ……絶対に触れてはいけない……そしてその巨体を翻し逃走しようと試みた。

しかしその体から首と片腕を乗り出した翼竜が地面に爪をたてそれを阻止した……

既に魔力も生命力を奪われそんな力は残っていない筈なのに………

アーガイルより打ち出されたその球体が一筋の光となり、アイスドラゴンを翼竜もろとも貫いた……

その後方にある山脈の岩肌に突き刺さるとそのまま貫通した………高温の炎が瞬時に岩を溶かし、直に絶対零度で冷え固められ山の中腹に一本の道を作り上げると山向こうの国の上空で閃光となって消えた………


 山脈の反対にあるドラゴニアの国では後にこの穴が光のトンネルと呼ばれ交易のルートとして国の発展に大きく貢献したというのはまた別の話だ




「…ん…配分を少し間違えたか…」


下手すれば山とその向こうのドラゴニアの国も滅ぼしていたというのにアーガイルは軽い様子でそう言った。

 アイスドラゴンの反応が消えた事を確認すると顔の魔眼が目を閉じた。

アイスドラゴンのいた場所には小さな光が集まり小さな箱が現れた……ドロップアイテムである『ドラゴン心臓ハート』である。

同時に全身を覆う魔素が気化してゆきその姿は元のアーガイルとなる……箱に近付きその存在に気が付いた。

そこには地面に平伏す翼竜の姿があった…かなり衰弱していて危険な状態であった。


「…あれを耐えたのか…凄いな……しかしまずいな」


 大怪我をしている訳ではないが生命力を吸収され続けた事により危険な状態に陥っていた。

無駄かもしれないが……アーガイルは治療を試みた……

その時 、翼竜が首をもたげアーガイル目掛けて襲いかかってきた。

……かに思えたが、それは自らの尾に噛み付いていた……魔女マトリーシェにつけられていた水晶が彼を狙ったらようだ。

その後自らの尾もろとも水晶を噛み砕くと再び翼竜は地面に倒れ込んだ……


「…!……お前……待って ろ!」


 先程のドロップアイテムを手にすると再び翼竜のもとに駆け戻った……


「これしか方法が思いつかないが……苦しいかもしれないが…耐えろ」


 そう言うとドラゴンハートを翼竜に使用する……ドラゴンハートは輝きながら翼竜の中消えていった……やがて翼竜の体が輝き周囲が閃光に包まれた。





「……ん?俺何やってんだろ……鉄平!……気持ち悪いから離れろよ」


なかば抱き合うような格好で結晶化していた2人が突然動き出した……

見ればの周囲の者達も同様に結晶化から解放されていた……自らの状況が飲み込めない者たちにルミナスとネルは説明を始めた……

ルミナスはその中に見知った顔を見つけた。


「クリムト殿」


 そう呼ばれたのは白髪の混じる長髪の初老の男性だった…その身なりからして高い身分を連想させた。

彼はルミナスの先代の外交大臣だった…魔界国内を視察中に消息不明となった人物だった……まさかこんなところにいたとは……


「貴女は……ルミナス殿か?いやそれにしては……いや俺は一体…」


 状況説明した後落ち着いたクリムト達はすぐに周囲の人々のケアを始めた……幸運な事に食料や医療器具のあった馬車も結晶化されていた為救助活動に大いに役立った。

やがてジュペック村からも続々と救助為に人々が駆けつける……後は彼らにお願いすることにした。


「……ルミナス……」

「!?……カイルさ……ま?」


 その声に振り返ると今しがた帰ってきたばかりの様子のカイルがそこに居た……

その胸に飛び込むなら今がチャンスと振り向き様に飛びつこうとして彼の腕には既に先客がいる事に気付く……

そこには小さな白い白竜抱きかかえられていた。


















 






命を削れば年内にあと1回は更新できるかもしれません……


お気に入り登録されている皆様、今年一年有難うございました

早期に終わる予定でしたが気が付けばだらだらと……

これも読んで下さる皆様の支えあっての事ですので

今後もよろしくお願いします。

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