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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
89/241

挑む者達2

お待たせしました。



「大丈夫か?」


 後ろを歩く伊織に声をかけた……


「……平気…」

 

 伊織のその声は明らかに平気ではなかった……聞くまでも無く見た目でもう限界が近いようだった。

塔を登り始めて6時間が経過していた……今は既に39階を超えそろそろ40階に到達する頃であった。


(残り10階か……)


マードックのもたらした情報にこの塔の構造があった……地上50階建てでその上に吹き抜けのような最上階が存在する……紫音とアイリスはそこにいるのだろう……その前に


(この階層を制覇したら少し休憩を入れるしかないな……)



 問題はこの階層がボス部屋であることだ。 

下の階層もそれぞれの節目では強力な魔物が配置されて居た。

アイスウルフに始まりアイスゴーレム、フロストジャイアント、そこまでは何とか撃退し此処まで辿り着いたのだが……ボス部屋以降はその劣化版とも呼べるボスモンスターが通常の魔物と同様に現われる事で彼等の体力と魔力を削り取っていた。


 イリュは炎属性で相手との相性もよくさほど消耗しては居ない様だが同行するメンバーにも注意を向けなければならない分メンタル的に消耗しているようだ……

ネルは相変わらず無表情で疲れてはいるだろうがその感情を表さないのは侍女の鑑と言ってもいいだろう……しかし彼女はルミナスのサポートでかなりの体力、魔力を消費している筈だった。

そのルミナスも全ての戦闘に参加していただけあって疲労はかなりのモノだろうが……何故か笑顔だ……


(魔界の大臣ともなるとこのくらいの精神力が必要なのか?……)


これに関してはカイルが知らないだけでルミナスにとっては今カイルと行動するこの瞬間が至上の喜びであり、それが疲労を上回って居るだけで

今休んでよいと言われたら3秒で眠れる自信があった。

 マードック達にしても日頃から戦闘慣れしているとは言え、この特殊な環境下での長時間の戦闘は全員の体力、魔力、精神力を奪っていた。


「…恐らく此処には強力なガーディアンが居るはずだ……さっさと倒して皆を休ませよう…」

「…うむ、賢明な判断だな……」


 カイルの進言にマードックは同意する……むしろこの状況下でカイル一人が平然としている……

彼も戦闘には精力的に参加し他の者は気付いてはいないだろうが何度か現われる魔物の影の中に潜む(シャドウアサシン)を葬っているのをマードックだけは知っている……常に全員の動向を安全第一で警戒しているのは彼であった……


(この年で何をどうやったらこの様な恐ろしいほどの強靭な精神力と力を身につけられるのだろうか?)


彼の姿を見ていると過去のあの迷宮の光景が重なる………


(あの時、彼ほどの資質を持つ者がリーダーであれば俺は……いや、過ぎた事だ……それに…)


……まだまだ負けられんな。そう心で呟くと肩の大剣を担ぎなおした。





40階層の入り口は巨大な扉であった……扉がある階は初めてだった……

おのずと全員が激しい戦闘を予感し身構える……

ネルが扉に書かれた文様に見入る……


「どうしたの?ネル?」


ルミナスの問い賭けを手で静止しその文様を見続ける……


「ルミナス様……古代魔文字です…(---我は眠る冥界の畔、我が眠り妨げし者に永久とこしえの死せる眠りを--)」

「?!それって……北部地方の辺境地帯ではないか」

「いくぞ!」


 キースが扉を開け放った……瞬間、中から冷たい冷気と雪が噴出したのと同時に何かがキースの肩に突き刺さった。


「あ?!」


 キース自身何が起こったのか理解出来なかった。


「キース!!」


崩れ落ちる彼を助けようと鉄平が駆け出す……


「馬鹿野郎!!」


マードックの怒声が響くが遅かった……

キースを襲った何かは同様に鉄平にも一撃を加えた……


「あ…あ?」


倒れたキースの元で鉄平は両膝を折り座り込む形でその両手を見た……色が失われてゆく…正確には石化…いや、結晶化と表現するのが正しいのかもしれない。


「鉄平!」

「…伊…織さ……」


 伊織の悲痛な叫びにこちらを向いた鉄平の顔が色を失い、やがて頭の先まで結晶と化した………


「く!……」

「まて、同じ目に遭いたいのか?」


飛び出そうとする伊織をマードックが捕らえた……でもでもと繰り返す伊織だったが己の唇を血が滲むほどかみ締めるマードックを見て声を失った……

彼らを案じるのはマードックも同様だった…しかし今此処で何の手も無く飛び出せば全滅は目に見えている……


(やはり長時間の戦闘でキースも集中力に欠けていたか……奴らしくも無い…)


 それ以上に彼を思い留まらせる事の出来なかった自身に苛立った。


「……カイル様厄介です…間違いありません【氷翼竜フロストワイヴァーン】の【クイーン氷王女シェヴァルト】です」

「…誰?」

「…魔界の北方のシェヴァルト地方の山岳地帯に生息、君臨する【氷翼竜フロストワイヴァーン】です…ここは魔界とつながっているのです」


ネルが情報を捕捉する……つまりは此処は魔界であの入り口の扉が【ゲート】の役目をしているのだと……


「……彼らは大丈夫です、アレの尾の先は毒針があり刺された者は結晶化してしまいます…」


見ればキース達の周囲にも雪が盛り上がっている部分がある……おそらく同様に襲われた魔界の住人だろう。

ネルによればワイヴァーンの血液から解毒薬が作れるらしい……どの道倒さなければならないか……


「……カイル…私が…」

「いや…イリュでは影響が大きすぎる…この一体の雪が無くなって見ろ…魔界に与える影響が心配だ……」


 イリューシャの言わんとしている事は解る……彼女のリミッターを解除すればイリュの能力は爆発的に跳ね上がる……同様に暴走し易くもなる

属性的にもイリュの勝利は確定だが……暴走するとこちらも安全ではなくなる…カイル一人ならどうにかできたがルミナスやマードック達を巻き込むのは得策とは言えない。

それ以前にこの扉の向こうは魔界である…一時的にこの階層と魔界をこの【ゲート】で繋げているのだ……


(…それを可能にするとは…恐ろしい魔力と技術だな……)


 イリュの属性では下手するとこの周辺一体の雪を全て融解させてしまう恐れが高い……ここが山岳地帯なら麓には魔界人の集落があるに違いない。

ここにある何体もの人型の結晶がそれを物語っていた。


「………俺が行こう…イリュ、皆を守ってくれ…」

「しかし……」


 イリューシャ彼が懸念する事案を理解してはいるのだが……それでも使い魔としての本能が主を危機に晒す事に納得は出来ていない様だ………

しかしそれが命令であるならば従うしかない……


「皆ここを動くんじゃないぞ」


そう言い残し吹雪の中に身を投じた……

瞬時に「身体強化」で寒さに対する耐久力を上げる……腰のポーチの留め金を外すと


剣を取り出し襲い来るワイヴァーンの尻尾の一撃を弾き返した…


(やはり踏み入れたものを襲うのか?)


 体勢を建て直し次の攻撃も防ぎ敵の本体を確認する……

それはやや小高い岩の上に居た……長い首を低く構えこちらを警戒している……吹き荒れる吹雪の中その獰猛に輝く赤い瞳が見るものに恐怖を植えつける……

 カイルは剣を地面に突き立てると弓を構える体勢になった……その瞬間その手に真紅に染まる弓と三本の矢が現われた……


フレアアロー!」


 それは学園の人間なら誰でも使える初級の魔法だった……それを見たルミナスは懐かしいと感じた……魔力が扱えるようになった魔界の住人は最初にこの魔法で親に教えられるのが狩りであった……この学園の生徒も授業で的に向けて矢を放つのが最初の授業であった…当然伊織の様な魔眼を持たない者にとっても魔法を説明するのに用いられる初歩的な魔法……初歩中の初歩の魔法だった……だったのだが……

最初の矢は放たれた瞬間にワイヴァーンの足場の岩を破壊した…ワイヴァーンは即座に足元の森の中に身を隠す…

二本目の矢は放たれた瞬間に森の木々が直線に消し飛んだ……

三本目は緩やかな弧を描き森の奥に消えた……そして爆発が起こった……

伊織は怪訝な表情をする…


(私の見た事のある魔法とは…威力が全く別物だ……)



…彼女だけでなくネルやマードックも同様であった……ルミナスは何処か潤んだ瞳で見ていただけだったがその表情を見れば伊織たちとは180度違う感想であることは容易に想像できた……ただイリューシャは何処か苦しげな表情であった。


爆炎の中からワイヴァーンがその巨体を現した……カイルを最大の敵と認めた様だ。











来週から仕事が忙しくなりそうなので

次回更新は未定です。

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