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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-29℃

  遅くなりました…色々合って難産でした。


『カイル!あれはもう駄目だ! 諦めろ!』

「しかし……」

『ここにいる全員を命の危険に晒す気なのか?』


 アーガイルの言葉にカイルは思考が停止した………このままでは良くて相打ち……最悪全滅だ……

ここにいる皆を救う為には…マトリーシェをアイリスごと葬るしか………自分の無力さに拳に力が入る。


『悩んでる時間は無いぞ!』


 再度アーガイルの声を聞いたときには体が勝手に動いていた。

強制的に『人格交替メンタルシフト』されたようだ。


「待て!アーガイル!」

『今ここでイリュや紫音を失うわけにはいかないだろうが!』






 眩い光の中、ルミナスは自身の目を疑った。

マトリーシェの心臓を捕らえたはずのアイスロッドはそのまま彼女の中に吸い込まれた。


「?!嘘!」


 やがてマトリーシェの魔力が増幅されてゆく……最早以前の魔力とは比べ物にならないほどだ。

こんな濃厚な魔力に触れたのはカイルとアーガイルの一件以来の様な気がする。

ゆっくりとマトリーシェの首が持ち上がりルミナスを正面から見据えた。


「あぁ…ルミナス……美しくも哀れなギルヴァルトの娘よ……礼を言うぞ…これで我の力は完全となった………」


 なにを馬鹿な…とルミナスは思う、母の解読した古文書にある一節『魔女は氷の杖により封じられた』

だからマトリーシェを倒す鍵はこのアイスロッドにあった筈なのだ。


「このロッドには私の魔力が封じられていたのだ……」


 ルミナスに絶望の表情が濃くなる…自分のした事は何なのか…と


「…くっくっく…ルミナス…今お前はとても良い顔をしているぞ?この世の終わりのような顔をな…」


 マトリーシェは胸に手を当ててどこからともなくロッドを取り出した…それは以前の様な魔力を湛えてはいなかった…

彼女の言うようにその内に秘めていた魔力は彼女の中にあるようだった。


「!」


 マトリーシェが視線を横に振ると瞬時に強固な氷の壁が出来上がりカイルの蹴りを防いだ。

次の瞬間には反対側に現われたカイルが魔法を放つ…『炎導砲フレアブラスト』である。

それも氷の壁に防がれてしまう……これはマトリーシェの『衣障壁コートシールド』であって防御魔法ではない…

既にカイルとの間にも実力差が表れていた。


 「え?!」


 気付いた時にはカイルに抱かかえられて宙を舞っていた…


「大丈夫か?ルミナス…」

「…カイル様……私……?!あぁぁぁぁ!!」


 ルミナスは悶絶した…カイル様に…お…お…お姫様抱っこを!!!!!

ルミナスは何処か幸せな表情を浮かべたまま気絶した。

一瞬アーガイルは焦ったが無事な様子なのでそのまま皆の下に着地した。


「…ネル…彼女を頼む」

「……はい…」


 ネルはルミナスに近寄ると確信した…このお嬢様も既に『癖になっている』一人だと。


(この状況でありながら何と言う幸せそうなお顔をされているのでしょうか……)


むしろ呆れるを通り越し羨ましく思えた。

幸いこの場でこの事実に気付く者は居らず………いえ若干アネモネ様とイングリッド様は微妙な表情ですが空気を読んでこの場は何も言わないでいてくれた……のが事実かもしれません。

……それよりも…と、再びカイルとマトリーシェに視線を戻す。




「……目つきが変わったな…そうか!お前がアーガイルか…この姿では初めて会うな」

「…そりゃどうも」


 心なしか紫音の目にはいつものアーガイルっぽくないと感じた…それもその筈、カイルの同意なしに強制的に入れ替わった為、力の半分も出し切れていない状況だ。


「…何やってんのよ……」


いつものカイルらしくない様子に苛立ちを覚える……しかしそれ程までに彼が慎重なのだと解る。


「……このままでは分が悪いニャ……紫音初めまして……」


いつの間にか魔猫が傍に来ていた…そのまま顔をこちらに向けると何処か穏やかな表情でそう告げた。


「…あの時は助けてくれてありがとニャ……紫音さえ良かったらボクのご主人様になって欲しいニャ」

「ご主人……様?」

「そうだニャ」


 




「お前には恨みは無いが…我々の使命の妨げになるなら排除させて貰う」

「…ふふっ出来るかな?」


カイルの姿が視界から消えたかと思うとマトリーシェの障壁と拮抗していた……次の瞬間には二人の姿が消え去り周囲で激突する音だけが聞こえていた。

この速度についていけているのはイリュとネル、イングリッドとアネモネであった……

紫音と律子は仕方なくルミナスの介抱を買って出た……

実際に正確に二人をトレースできたのはイリュとネルだけであった…後の二人は残像を追っている…というのがやっとの様だった。


(遊ばれている……)


それがイリューシャの抱いた感想だ…マトリーシェはまだ余裕の表情で未だに魔法の一つも使用していない。

それにアーガイルも本来の力を出し切れていない様だ……

このまま参戦しても足手まといになるのがオチだ……

しかしこのままでは……今のイリューシャに出来る事は……


「…なにやってんだよ…アイリス…」


 未だ安否のわからない友の名を呼ぶ事だけだった。













無数の氷槍がカイルに殺到した…いつかのイングリッドの授業の魔弾の様にそれらを紙一重でかわしてゆく……

そのうちの1本をつかみとると『物質創造変換アイテムクリエイト』により一本の剣を作り出した……見た目は普通の氷の剣だが

仮にもアーガイルが作り出した物である以上『魔剣』と呼んでも良いくらいの魔力を帯びていた。

再び殺到する氷槍をかわしながらその剣でたたき落としマトリーシェとの距離を縮めていった。


「ほほぅ…なかなかやるではないか」


 これだけの魔力差があれば簡単にケリが付くと思ったが…どうやら考えを正さないといけない様だ……

以前の『デスサイズ』との戦闘時と比べて明らかに彼の魔力が低すぎる……何らかの問題が発生したのであろう…

ならば畳み掛けるには今しかない……そう考えての攻撃だったが、彼の戦闘スキルを甘く見ていた。


「では…これならどうかな?」


 先ほどとは比べ物にならないほどの氷槍が撃ち出されすべてを防ぎきれなかったカイルの体を傷つけた……

それでも彼は立ち上がりイリューシャ達を見た……十分な距離が開いた事を確認すると攻撃に転じる事にした。

左手で操っていた剣を右手に持ち替えた。

その動きにマトリーシェは警戒する……彼の雰囲気が変わった気がしたのだ。

それは間違いでない事を証明するかのように彼の動きが目を見張るほどに変化した。


(なるほど……引き離す為に誘導されたか…)


 彼の思惑を理解し、小さく笑う……カイル…お前はどこまで甘ちゃんなのだ……

しかしそんな所が彼の長所でもあり短所でもある……それはアーガイルとて同じ事……

魔族型の魔導魔眼の人格である以上好戦的である筈だ

宿主ホストであるカイルの性格に大きく感化されている部分が有る様に思える……

個人としては非常に好ましいが……戦闘においては致命的だな。

迫るカイルを横目にマトリーシェは右手を真横に掲げその手のひらに魔力を集める……その先には紫音達が居た。


「アイリスには出来ないが……私には出来るのだよ?」


 集まった魔力が凝縮され彼女達全てを葬り去るだけの魔力弾が形成されマトリーシェの手を離れた………筈だった。


「!?……何故だ?何故動かぬ!?」


 マトリーシェの身体はその姿勢のまま動きを止めていた……いや、止められていた。

ゆっくりと視線をカイルに向ける……彼は剣を地面に突き立て休憩するような仕草でこちらを見ていた。


「お前がそうする事くらい予測できるだろ?普通」


 だから動きを止めさせてもらったぜ……と、彼はそう言った。

マトリーシェは己を縛る力の正体を探った……これだけの魔力差がある以上彼の魔法が効果を発揮する事は非常に困難だ……

それ以前に魔法の発動を感知していない……その時足元に淡く浮かび上がる魔方陣を見つけた……


(描図式魔方陣…だと?!!!これではあの時と同じ…!)


 本来魔法の発動は魔力に呪言を詠唱し上乗せさせその力を発現する……描図式魔方陣は媒介に魔力を刻みそれを核として魔方陣を描き魔法効果を発動する古代の方法だ…

発動している魔法は『魔食花の(ラフレシアン)抱擁(グルーミー))』だ……

それにしても先程よりも魔力が大幅に増幅されたマトリーシェの動きを止める程の強力な魔方陣とは考え難い。

それに一体いつこれ程の魔方陣を仕掛けたのだ?彼がしていたのはひたすら氷槍から逃れる……


「……まさか…」

「気が付いたか…そのまさかだよ」


 彼の言葉に魔方陣に目を凝らす…感じ取れるだけで125箇所に核となる呪式を見つけた…それは彼が剣で弾き返していた氷槍であった。

マトリーシェが作り出した氷に呪式を上書きし特定の位置に埋め込みこの魔方陣を完成させていたのだ……しかも媒介がマトリーシェの魔力から作られたものである以上100%成功する……


「……これで最後だ…」


 アーガイルが神妙な面持ちでそう呟き新たに魔法陣を発動させた……同様にマトリーシェの魔力が触媒である為効果は絶対である。

周囲を結界が覆い、地面で無数の魔方陣が赤く発光する………

 

「…これは…!」

「……『空間異常爆破陣デイトネーション


 それぞれの魔方陣が瞬間的に異常な高温を発して爆発する……他の魔方陣も誘爆し結界の中は無数の爆発の連鎖で覆われた。

その光と轟音は周囲の建物に避難した生徒達にも響いた……遠巻きに見ていた紫音達にも衝撃が走った。


「…あれ…って…ねぇイリュ!あれじゃあまるでカイルはアイリスを……」


 紫音はその先は恐ろしくて言えなかった…『殺す気なのか』……と。

対するイリュも答えることが出来なかった……同じようにルミナス、イングリッドも彼の行動を理解していた…

『我々を守る為に…アイリスを倒すことを選んだ』のだと。


「…中の娘は死んでは居ないのニャ」

「……え?」


 紫音との契約を終えた黒猫……紫音により猫音ニャオンと名づけられたそれはそう言い放った。


「…威力は凄いけど…致命的ではないのニャ…怪我はさせるかもしれないけど気絶ぐらいはさせられるかもと考えたのニャ……」


その言葉に紫音は安堵のため息を吐いた…そうだよ…カイルもアイリスを助けたいんだ…命を奪おうなんて……


「…でも…その甘さはあの魔女相手に命取りニャ」




 爆発が収まりゆっくりと視界が回復する……怪我はしたかもしれないが、これで気絶でしてくれていれば申し分ない。

そう考えたのも束の間、煙の間から突如現われた氷槍にカイルの左肩が射抜かれた。

刹那、爆煙の中から突き出された腕がカイルの首を捕らえた……マトリーシェは額から血を流しながらまだ意識を保っていた…しかしながらその表情には以前のような余裕は見られなかった。


「はぁはぁ……やってくれたな……遊びは終わりだ…今すぐに吸収してやろう」


 その腕に一層力が込められ彼の首に黒い筋が浮かび上がる……侵入されている……遠目で見てもその状態に紫音は心当たりが有った……

心の奥底まで見通すようなあの感覚は今思い出しても身震いしてしまう……あの時、カイルが助けてくれなかったら今頃自分はどうなっていたのだろうか?


「…早く…あれを止めないと!!」


 だから身体を起こしその場に向かおうとする…それを察してイリュが…イングリッドが…アネモネが飛び出す……


(みんな…どうか間に合って!!手遅れになる前に…)











 そこは暗く広い空間だった。

マトリーシェは周囲を見回しカイルの姿を探す……やがて目が慣れてくると壁際に電気のスイッチらしきものを見つけた。

明かりをつけるとそこが椅子と円卓だけの部屋だと認識できた……白一色の窓も黒板も何も無い部屋だった。

彼女以外の姿は見当たらない……マトリーシェは妙な違和感を感じた。


(人それぞれとは聞くが……あまりにも無機質すぎるな)


 紫音は女の子の部屋風に…アイリスは緑の庭風に…マトリーシェ本人に至っては「暗き森」と呼ばれる彼女の育った森の一軒屋を再現したものである。

それぞれの好みによる所が強いが、少なくともそこにはその人物の人間性が現れる。

部屋にはクッションが…庭にはティーセットが…森の家には大きなかまどがありその人物の個性が窺える……

だからこの「チャットルーム」が異質だと理解できる。

 ふと前方の壁に違和感を感じ近づいてみた……魔力により巧妙に隠蔽されているが隠し扉の様だ……

今はマトリーシェが魔力で侵略している為彼女の魔力で開くことが出来た……そこは真っ直ぐに伸びる一本の通路…周囲は暗くその先は見えないただその道筋だけが淡く光を発している。

彼女は言い知れぬ不安にかられた……優勢である筈の自分が何を臆する!

そう言い聞かせて中に足を踏み入れた。


………どれだけ進んだだろうか?息苦しい感覚に足が重く感じる……この部屋に入ってから魔力による侵食が思うように進んでないと感知できた。

この部屋独特の暗黒物質ダークマターの様な重苦しい雰囲気が何らかの影響を与えているのだろうか?

 そこで彼女は自分の手が震えていることに気付いた。


(この私が恐怖を?…何を馬鹿な…)


 そう言い聞かそうにも手だけでなく足も震えていた……後ろから引っ張られる様な感覚に何とか堪え、此処まで来たのだからと自分を奮い立たせる。

ふと前方に違う光を感じた……

マトリーシェは震える身体を奮い立たせそこに近づいてゆく……

通路が終わり円形の室内に辿り着いた……カイルはそこに倒れこむような姿勢でうつ伏せになっていた……


「…よ…ようやく見つけ……」


 その彼に触れようと手を伸ばし……彼女は気付く……


「……お…お前は…誰だ?!」


そしてこの部屋が強大な空間だと……彼の背後にある強大な存在を見てしまった。


「…あ……ああ……」


 認識してしまうと目が離せなくなった…奥歯がカチカチと震え、全身の震えが止められない…

……その巨大な影は想像を絶するほどの禍々しい魔力に覆われていた…人の様にも見え…巨大な魔獣の様にも見えた…

…ふと、彼女の視線の隅に動くものがあった。

床のカイルがゆっくりと起き上がる……見たくない…見たく無いのに視線は彼から外す事が出来ない。


(これは…これはカイルではない?!)


 正面に立つその姿はカイルでもその髪は淡い金色を放っている…ゆっくりと顔を上げ、その瞳は………

 







(みんな…どうか間に合って!!手遅れになる前に…)


 祈るような気持で紫音も彼の元に向かった…が突然マトリーシェは悲鳴を上げてカイルを振りほどいた……

今までの姿からは想像できないほどの取り乱し様だ…

イリュやイングリッドも何事かと動きを止めてあっけに取られていた。

それはマトリーシェの様子に対してではなくその正面の人物……カイルの変貌故の事だった。


銀の髪は白金に……蒼銀の瞳は金色に輝いていた……それを見た途端、軽い頭痛を感じ、以前戦闘実習の時あの時間停止した中で彼と会った事を思い出した…


(何で忘れていたんだろう?)


 その時感じた彼の特異性についても思い出していた……あの時『時間停滞タイムスタグネンツ』は闇属性…『加速ヘイスト』は光属性…相反する属性を同時に行使することは属性法則に当てはまらない……それこそ自分と同じような特異な『眼』か能力を持っていると考えられる。



「ああああああっ!!」


 マトリーシェは恐怖を押さえつける様に叫びその両手に炎の竜を作り出した……が猫の鳴き声と共に打ち消される……

紫音と契約した猫音の力が増して今の疲弊した彼女の魔法を『解除デイスペル』出来た様だ。


「魔法は消されてもまだ私にはこのロッドが………!?」


 突然マトリーシェが動きを止めた…その表情は苦悶に溢れている……ロッドを持つ右手を左手が掴み……

まるで彼女の中で何かが争っている様に見えた。


「…おのれ…まだ…抵抗…を………カイル……はや…く……私を……殺し…て…」


 マトリーシェは真っ直ぐにカイルを見つめそう呟いた……彼女の中でアイリスは必死に抵抗していたのだ……

そして両手を広げ断罪の剣を受け止めようとすべく、目を閉じた……

それを見る金髪のカイルの表情には何の感情の変化も見られなかった。

ゆっくりとあげられたその指先に魔力が集中しアイリスの体を射抜かんとする剣となった。

何のためらいも無くそれは撃ち出される……それは先ほどのアーガイルの『空間異常爆破陣デイトネーション』とは次元の違う『命を奪う為』の一撃であった。


「駄目ぇぇぇぇぇぇ!!!」


 寸前のところで魔眼を発動した紫音がアイリスの体を押し倒した…・・・ほんの数秒遅れていたら確実に彼女の命を奪っていただろう。

抗議をするべく振り返った紫音は息を呑んだ……どうすればこんな感情の無い表情になるのだろう?

そもそもこれはカイルなのだろうか?先ほどまでこの体で戦っていたアーガイルの眼は閉じられており紫音にも困惑が広がった。

カイルは再び指先を構え、魔力を充填した……


「カイル!」

「カイル!…紫音!」


 イングリッドとイリュの悲痛な声が響いた………しかし紫音は臆する事無く両手を広げアイリスの前に立ちはだかった。

今もアイリスはこの中でマトリーシェと戦っている……私達を傷付けない為に………


(……いつか…この私の病気が治ったら…皆と笑ったり…泣いたり…沢山遊びたい……)


 あの朝、あの庭でそう語った彼女の姿が思い出された……だから…私は…彼女の友として力になりたい!

カイルの指先から光が溢れ……紫音は眼を閉じた………先ほどのアイリスの様に……


(あぁ……そうか……アイリスはこいつの事…信頼していたんだね……『殺して』という自分の願いを聞いてくれると……)


予想通り衝撃も痛みも無かった……ゆっくりと眼を開ける……そこには両手を地面に打ちつけ魔力を霧散させた彼が居た。

その髪は金色から蒼い銀色に変化していた……やっぱりこいつはやるときはやる男だ……彼もその身体の中で何かと戦っていたのだろうか?

アイリスを今の内に……そう思い振り返った先に居たのは………


「!?紫音!」


 イリュの声にカイルは顔を上げる…マトリーシェが紫音を羽交い絞めにしていた……

アイリスも限界だったらしく今はその存在を感じ取れない。


「動くな!……」


 ロッドの先を紫音に突きつける……


「どうやら私はお前達を見くびっていたらしい……特にカイル…貴方は危険だ」

「……それはお互い様だ……」


 激しく消耗したカイルはいま攻撃されればひとたまりも無いだろう……しかしそれはマトリーシェも同様であった…アイリスを制御仕切れて居ない今、これだけの人数は相手には出来ないのであった。

お互いを牽制し合うがこのままでは一向に事態は進まない……その均衡を破ったのはマトリーシェであった。


「……ゲームをしよう…」


 ロッドを突き立てるとその背後に巨大な氷柱が地面を突き破り天高く伸びって行った……周囲の氷壁を砕き施設の天井をも突き破りその高さは中央塔に匹敵するであろう巨大な氷塔であった…その突然の出来事に周囲の生徒は言葉を失った。


「なあに…簡単だ、明日の朝まで最上階に辿り付ければ良い……この『塔』をの登ってな…今はお互い消耗して満足な結果は出せないだろう……命のやり取りは本望ではないのでな……」

「…紫音に危害を加えない保障がどこにある?」

「…私の中のアイリスが許さないだろう……なあにお前達が辿りつくまでは私の話し相手にでもなってもらおう…」


 それは脅しであった…このゲームに参加しないと紫音の命は無い…そう言っているのだ。

マトリーシェは紫音を抱えたまま宙に浮かび上がり塔の中に姿を消した……


「待っているぞ!カイル!」

「紫音!」


 その姿はやがて見えなくなった……イリューシャの声だけが虚しく響いた……







「カイル!」


 律子の声にイリューシャははっとする…かれは地面に両手をついたままその激痛に耐えている…


「…魔法熱暴走を起こしかけているな……て、手当てが必要だ……」


 なぜかイングリッドが頬を赤らめてそう言った…何だ?手当てとは?…ルミナスは困惑した。

体制を立て直す為に一時アネモネの保健室に避難することになった…

その手当ての内容を聞いてルミナスは絶叫するのだった。








 次回は月末辺りにと考えています。

保存に失敗し2回消えてしまい心が折れそうでした。

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