表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
84/241

-28℃

 お待たせしました。

9/27ちょい修正



「紫音!」


イリューシャは紫音の消えた壁に手を伸ばしたがそこにはただ、冷たい氷壁があるだけだった。


「……何だ…今のは…」


紫音の正体を知らぬルミナスは動揺を隠せない……それもその筈、自分が敗れなかった結界の中にいとも簡単に入ってしまったのだから………

アネモネとイングリッドから『隠れ姫』についての説明を受ける………


「…あの娘にそんな力が……」


 やはり隠れ姫の名を聞けば驚くのは当たり前……と皆から思われているが、ルミナスの場合その予測の斜め上で焦りを感じていた。


(颯爽とカイル様の元に駆け付け好感度アップさせる筈だったのに……)


このままでは見せ場どころか出番すら失ってしまいそうだ……と、勿論アイリスの事は心配であるがそれと同様にカイルとの時間は重要であった。

ネルから今回の話を聞いた時点でスケジュールの調整を考えていたが、カイルが参加すると聞いた途端予定は全てキャンセルした……

今頃残された部下達はさぞ大変であろう……


「…こうしては居られぬ…一刻も早く中に行かなければ」

「…そうだニャ」


 聞きなれぬ声に全員が振り返る……そこには一匹の黒猫がいた……


「……喋った?!」


 律子の目が点になる……それを見て猫は満足げに立ち上がる…


「…立……った…」


 逆に律子がその場にへたり込んだ……まぁこの日常では考えられない光景だから無理も無い。


「……妖魔風情が何だ?また燃やされたいのか?」


 イリューシャが怒気を含んだ声でそう告げた……黒猫…ワイルドキャットはそれを意に介せず告げた。


「早くしないと…紫音が死んじゃうのニャ」


 その言葉にイリューシャは体を強張らせた……この黒猫は恐らく紫音が助けたという妖魔の子供に違いないだろう………

イリューシャは暴走状態で記憶が無かったがその後は紫音も知らないと言っていた。

マスターに聞いてみたが 『放っておいた』と言われただけだった……放置しただけでこうなる筈が無い…何らかの手段をカイルが講じたに違い無いとイリュは考えた。


「……ワイルドキャット……いや、何らかの要因で進化しているな……『魔猫族ニャイオン』か……紫音の使い魔か?」


一目見て『魔猫族ニャイオン』と見抜く辺りは流石だと感じた…操られていたとは言え、この世界に一人…いや一匹放り出され日々生き抜くのは大変であった。

カラスに追いかけられたり、小学生にもみくちゃにされたり…それなりにこの界隈で力を付け、商店街でおこぼれを貰ったり、猫好き夫婦の所で食事に与ったり…

そんな合間に紫音を監視しつつあの男に言われた言葉を思い返していた…

『今後どうするかは自分で決めろ』

そんなことはもうとっくに決めていた…紫音に救われたこの命…彼女の為に尽くそうと…彼女の力になる為に並ならぬ努力の結果、『魔猫族ニャイオン』へと進化したのだった。


「…いいや、まだ契約はされていにゃいのだニャ…だから早く紫音を助けて契約するのニャ」


 ルミナスの問いかけにそう答えた黒猫は壁に近づく……何かを唱えると氷が嘘のように溶けた……


「……『解呪ディスペル』できるのですか?」


ネルの問いかけに頷く……伝承にある『マトリーシェの弱点は猫』と言うのはこの特性の事であろうか?

そう考えながらもこれを利用しない手は無いな……と思い至るのだった。


「貴方の素性は今はとやかく言いません…互いに紫音様を救い出す為にここは協力しませんか?」

「……わかったニャ…よろしく頼むニャ」


一瞬の間をおいてそれはネルの提案を了承した……結界を解除しつつ進む猫の後に全員が続いた……やがて中の様子がすっすらと見え始めた……


「では皆の者…武運を…『隠密ステルス』」


ルミナスの魔法で全員の姿が周囲に溶け込み気配を消した……







「!?ああああああああああ!」


瞬間雷撃が紫音の体を打ち据えた…魔道リングのお陰でレジストできたが堪らずその場に崩れる……


「……ふ…ふはははは……やってくれたな…紫音!肝が冷えたぞ!」


 マトリーシェは横たわる紫音を踏みつけ首を掴むと高く吊り上げた……


「やめろ…マトリーシェ!」


カイルが駆け寄るが炎の直撃を食らい再び倒れこむ……


「そんなにこの女が大事なのか?この女に本当の姿を見られるのが嫌か?私と同じ『化け物』の癖に!」


紫音の首に力が込められる………


「やめ…!」


その時紫音を掴んでいた右手に痛みが走った……その瞬間に何者かにより紫音はその手元から奪われていた……


「………戦闘に気を取られて接近を見逃すとは……」


ルミナスたちが次々とその姿を現した……しかしどうしてあの結界を越えられたのだ?

マトリーシェの疑問は目の前に現れた黒猫によって解明された。


「……貴様の仕業か」

「ご主人様を傷つける奴は許さないのニャ」


その『魔猫族ニャイオン』を見てマトリーシェは理解した……


    『私の秘密を知る者が居る』



 彼女は生まれながらにして捨てられた。

理由は知らない、物心が付く頃には『暗き森』と呼ばれる場所で名付け親、育ての親とも言える師匠と二人暮らしだった。

師匠は『魔猫人族ニャーマイオン』と呼ばれる魔猫の最上進化の存在だった……

白く長い髪に切れ長の眼はとても美人だったが何よりもその頭に存在する猫耳と尻尾が特徴だった。

彼女はマトリーシェに魔道の才能を見い出しその才能を伸ばす為に己の全てを教え込んだ……

と同時にその恐るべき潜在能力に危機感をも抱いており、もしもを想定し自分がその魔法を止められるようにマトリーシェの体に自身の魔力を植えつけた。

その結果『魔猫一族』の使う『魔猫の咆哮』と呼ばれる固有の解除能力に対して絶対的な無効化を強いられていた。

それは師匠の死と共に闇に葬られた事実だが、あの男により世界に広められた事実でもある。



マトリーシェは警戒していたが、この場にこの黒猫が現れたことは恐ろしい位の偶然である。

たまたま紫音の迷い込んだ結界にワイルドキャットが召喚され、その中の一匹を救い出し、

そこに進化の素質を見い出したカイルにより『仮契約』の状態にされ、以来紫音の傍で常に紫音を監視していた……

自分が仕えるべき人物かどうかを見極める為に………

『紫音は自分の仕えるべき人物である』……そう判断し『魔猫族』に進化したのはつい先日だった………



「カイル様……後は私にお任せください…」

「え……おい…ルミナス……」


律子の『癒し(ヒール)』を受けているカイルにそう告げるとルミナスは颯爽と歩き出す……


(あぁ……カイル様見ていてください……この私の雄姿を!!)









「………あ?……イリュ……」

「紫音!……よかった……」


 気が付くとイリュの膝枕で寝かされていた……自分の体が淡い光に包まれていた………

アネモネとイングリッドの二人が『癒し(ヒール)』を施していた・・・…


「…気がついたか…もう大丈夫だ…」

「・・・良かった…」


 イングリッドの言葉にイリュが安堵のため息を吐いた……

危なかったんだぞ…とアネモネに言われ記憶を呼び起こされた……

自分の油断が生んだとはいえ何のためらいも無く『雷神トール鉄槌ハンマー』を見舞うとは……

もうあのアイリスは居ないのだろうか?このまま彼女を救うことは出来ないのだろうか?


「……大丈夫だよ…姉様がきっと何とかしてくれるから…」


 アネモネの声にその視線の先に居たルミナスを見た……先ほどから魔法合戦の応酬だが、マトリーシェの『三属性魔術クアッド・ソーサル』が上手く展開できていない……時折聞こえる猫の鳴き声の様なものが無効化している様だ……

落ち着きを取り戻したイリュが説明してくれた…あの夜に私が救ったあのワイルドキャットだと。


「…そっか…あの子が……」


 あの夜は鮮明に覚えている……自らが生きる為に他の生命を奪ったあの夜…その中で救った命がいま自分を救ってくれた事に思わず涙が込み上げてきた…

一際大きな魔法がぶつかりマトリーシェが体制を崩した……ルミナスはそれを見逃さなかった。


「アイリス……今助けるから!」


一瞬で魔空間からアイスロッドを取り出しそれを伝承通りにマトリーシェの心臓目掛けて………


「やめろ!ルミナス!」


 カイルの叫びも虚しくその杖の先は彼女の心臓を捕らえていた………彼女の体から光が溢れ辺りを包み込んだ………







 

 なかなか話が進まなくてすいません。

次回から少しは展開する予定です。


月末までにもう1回くらい更新できたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ