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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-26℃

 八月も終わりますね……



緑の草原の中にあるテラス風のアイリスのチャットルームには三人の女性が居た。

三つ子かと思える様なその容姿でただ違うのは髪の色だけであった……蒼白金のアイリス…紫のモネリス…黒髪のルミナリス…

それぞれ椅子に座り、まるで優雅なティータイムの様だった。

その中央には水晶が置かれ中ではカイルとマトリーシェの戦闘が映し出されていた。


「かわされちゃったわね…アイリス、もう少し威力を上げて頂戴」

『………はい』


 いつの間にかアイリスの傍らにはマトリーシェが佇んでおり、その肩に手を置くとそう囁いた。

アイリスは虚ろな目のまま言われるがままに水晶に手を伸ばす。

中では先ほどと同じ魔法が繰り出されたが、威力は桁違いに上がっていた……


「…そうよ良い子ね…さあ…貴女達も力を貸して頂戴」


 その視線はモネリスとルミナリスに向けられる……マトリーシェが新たに手に入れた力…

アイリスの姉達の優しさが蓄積され形となったその存在の証……『三属性魔術クアッド・ソーサル

その特異性は実体化した人物がその他の属性魔法をも使役できる点にあった。

今、その力がカイルに牙をむこうとしていた。









『……やばいな…魔法の一発一発がとんでもない濃度の魔力だ…』


 アーガイルの声に頷いた…今は互いに様子見の段階だが……そろそろ仕掛けて来るだろう。

普段は使用しない「身体強化」「障壁強化」等の補助魔法をアーガイルが展開していた。

流石のアーガイルも今回ばかりは慎重であった……相手は古代の魔女とはいえ所詮は「アイリス」なのだ……しかも三属性の使い手だ…

しかし相手の力量に関係なく彼女を傷付ける事はカイルが望まないだろう……たとえ自分が命を落とすことになろうとも……

それだけは絶対に回避しなければならないアーガイルにとっての最重要項目であった。

しかし今回ばかりはアーガイルにも勝算が乏しかった……対象を無傷で無力化することが目的の場合、彼の使用する魔法では『無傷』という点で不安要素が大きいのだ……勿論それはカイルも理解している…だから今回はアーガイルからの魔力供給は最小限に抑えている…


「……だからと言って俺も相手を無傷で無力化させるような呪文が得意な訳ではない……」

『……前途多難だな……』


 その言葉に思わず笑みがこぼれる…不謹慎かも知れないが…楽しくなってきた。


(前途多難だって?!言ってくれるぜ……)


 強敵を前に感情が昂ぶるのを感じる……魔族であるアーガイルの本能によるものなのか

カイル自身が魔族に近づいているのか…

イリュやアーガイル本人にもその力の使い過ぎには注意するように言われている。


(もう手遅れなのかもしれないな……こんな楽しい事……辞められないぜ!)


 カイルが空中に跳躍すると同時にその場に鋭い氷が殺到した……

跳躍した先の空中には火球が無数に打ち出され、再び彼に殺到したが、魔法障壁により強化されたその両手でその全てをはじき返していた。

火球は周辺に着弾し凍てついた壁を破壊し辺り一面に氷の結晶が降り注いだ……それはなんと幻想的な光景であろうか……

その中でカイルとマトリーシェは笑みを交わす。






 廊下を歩いていると低い振動が伝わってきた……『始まった』 ルミナスの声に緊張が走った。

隣の律子に視線を向けると心情を察してか微笑み返してくれた。


「大丈夫……ボク達の知っているカイルならアイリスを傷つけたりしないよ…イリュも居るし…」


しかし先程の御伽噺の人物……マトリーシェがカイルの力でどうにか出来るのであろうか?いくら御伽噺とは言え、伝説となる程の人物なのだ……

紫音の不安を取り除く為にそう言った律子であったが、彼女自身不安が拭えたわけではなかった。

以前の授業での模擬戦闘中に見せたあの高度な魔法技術はアイリスのものだろうか…?それともマトリーシェ?

しかも三属性の中に火の属性があることはイリューシャにとってもやりにくい相手だ……ここにいるアイリスの姉も入れれば数で押し来ることが可能かもしれない………数でどうにか出来ればの話だが………


「案ずるな……きっとカイルがアイリスを救ってくれようぞ…」


律子達の不安な顔を見てルミナスがそう告げた…それを聞いたネルが『あれ?』と内心首を傾げた。

彼女の中ではルミナスはカイルの事を良く思っていないとの評価だったのだが……今の発言を聞くとそれなりに評価をされているようだ……


(先ほどの彼女達の話からカイル様がイングリッド様をお助けなさった事をお聞きになったルミナス様が評価を引き上げた…?いえ、それはないでしょう)


 仮にも魔界屈指の外交大臣を務める彼女が人からの噂や話だけでその評価を改変する事はそうそう無かった。

良い品物の話を聞けば多忙の中、時間を作り自身の目でそれを確かめる……『百聞は一見にしかず』を地で行くのが彼女のスタイルだ。


(……では以前からカイル様に対しては高評価だった?……と言う事か…)


 過去に家族内でもカイルの話題がしばしば上がることがあったが、ルミナスは関心の無い様なそぶりだった為、ネルでなくとも皆興味が無いのだろうと思っていた……










 しかしそれは周囲の者達の勘違いだった……ルミナスはカイルに興味が無いのではない……無い振りをしているだけであった。

もっと解りやすく言えば、極度の恥かしがり屋なのだった。

カイルの話題は聞いていない振りをしつつも一言一句聞き逃すまいと全神経を集中していたり、その後は自室に戻り枕を抱きしめ悶々としていたり………

普段のルミナスを知る者からは想像すら出来ない本性なのである。


 初恋は実らない……その言葉を良く耳にする…確かにそうかもしれない。

自我が芽生え異性に興味を持つ時期がある……それは学校の先生であったり、同年代の異性であったり……それが『恋』だと認識する前にはその恋は終わっている事が多い………では『初恋』とは?

それは気になる異性を前にした瞬間、自分の恋心に気付いた瞬間ではないだろうか? 

 

 ルミナスの初恋はあの『モネリス事件』の時であった。

目の前で巻き起こるカイルの魔力の渦は強く、恐ろしく、そして彼女の心を鷲掴みにした。

母さえも平伏すその強さは生まれて初めて見る物だった……その恐ろしいまでの魔力も始めての体験だった。

恐怖で足が震える中、ルミナスは彼女の中に芽生えた感情を敏感に感じ取っていた……


『彼のものになりたい』


 それは恐怖故の本能の服従だろうか?………否

 それは弱者が強者に従う魔界の本質だからだろうか?……否

 それは憧れ、それは敬愛、それは…愛………乙女が始めて感じた恋心であった。


 以来彼女は自信の立場も理解した上でこの感情を心の奥底に封じ込めて来た………『自分などがあの方には相応しいはずがない…』と……

そのうち新たな出会いがあると、初恋に別れを告げ日々勉学に励むルミナスだったが…………初恋を超える出会いなどやって来なかったのである。

出会いが無かった訳ではない、地方貴族の御曹司や将来有望の魔戦士など告白される事など日常茶飯事であったが……恥かしさも手伝いその全てを断ってきた……しかしそれではいけないと誘われた食事や、舞踏会などに付き合ってはみたものの彼女の心が揺れ動くことは一度もなかったのだ。

男達は我先にと競ってルミナスに殺到したが誰一人彼女の心を掴む事は出来なかったのである。

彼等は悔し紛れにルミナスを中傷するように言葉を並べた……『アレは男に興味がないのだ』……と

 彼女にしてみれば心外な話である…初恋を忘れようと新しい恋との出会いを切望していたにも関わらず、こんな噂を広められてはもうカイル様以外に嫁の貰い手が無いではないか…………ん?

そしてルミナスは気付いた……まだ自分の初恋が終わっていない事に……『相応しくない』と自分から逃げていた事を!

それに…カイルに自分の気持を伝えても居ないではないか?!

その日から彼女は変わった……一層勉学に励み、父のコネを利用し社交界にも精力的に自分を売り込んだ。

気が付けば歴代最年少で外務大臣の席に着任し魔界の内外においてその手腕を振るっていた………

周囲は『魔界屈指の智将』などと呼ばれておりその名を轟かせていた。

その実態は、カイルに相応しい女性になる為に努力した乙女心であることはまだ誰も知らなかった…………


(久しぶりに私を見てカイル様はどう思われるかしら………)


 妹の大事であるにも関わらず、ルミナスの足取りは軽かった……







フリック入力になかなか慣れなくて……

更新頻度が遅れています。

 次回は 9月中旬の予定です。

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