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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-25℃

 お待たせしました。

 


「……信じられんな…」


 イリュが顔をしかめた……律子も紫音も同様だ。

その手にはルシリアの書類……アイリスとマトリーシェについてのレポートが握られていた。


「ですが事実です……すでにカイル様は行動を起こされ、アネモネ様とルミナス様もご準備をされておいでです……あなた方にも是非ご協力を…」


 突然現れたこのダークエルフの女性はアイリスの母親の侍女だと名乗った……その手渡された書類にはアイリスの中に古代の魔女が転生しているとあった。

紫音の脳裏にここ最近の不自然なアイリスの様子が思い浮かんだ……あれがそうなのだろうか…? 


「…協力と言っても…カイルが居るなら問題は無いのではないか?」


 律子の意見にもっともだと思ったがイリュはそうではないらしい……


『教室で待機だ』

 

 あの言葉はイリューシャの力が必要になるかもしれない… 

成功率は五分五分…もしかするとそれよりも低いのかもしれない…

しかし彼女のマスターであるアーガイルはイリューシャの事をそこまで大事には扱わない…しかしその主人であるカイルは使い魔であるにも関わらずイリューシャが戦うことを良しとしない。

何故かと問いただしたら『怪我させたくない』との答えが……

それはそれで非常にうれしくもあるのだが、戦闘種族のイリューシャにしてみればどこか物足りないのも事実だった。

それを伝えたところカイルが大丈夫と判断した場合にだけその力を振るうことを許された………

それも使い魔としてどうよ?と考えたがそれだけ自分が大事にされているのだと納得することにした。


(その彼が私の力を必要としている…)


 それはどれくらい危険なのだろうか?私は彼の力に成り得るのだろうか?

おのずと拳に力が入った………その時であった。


「!?」

「なっ…なにっ?!」


 轟音と共に校舎が激しく震えた…教室内のあちこちで悲鳴が上がり、窓ガラスが全て砕け散った……

それは強力な魔力の波動…それが衝撃波となり周辺の施設を襲った……


「…何だよ…あれ…」


 起き上がった男子生徒が窓の外をみて呟く。

皆が窓際に近づく………そとの世界は一変していた。


 木々は凍りつき、一面は真っ白な白銀の銀世界になっていた……その中央には演習施設のある実習棟……そこは巨大な氷山のような塔へと変貌していた。

全員が言葉を失った……いくら『魔眼』というのもがある世界とはいえ……この光景は今までの日常には無かったものだ……

全員の想像を遥かに超えていた………そしてこれから実感する……これが『魔眼』の世界なのだと。





 教室の後部に魔方陣が展開し 緊急用のゲートが開かれた。

中からは傷ついた一人の女性…イングリッドが投げ出されるように床に倒れこんだ。


「先生!」


生徒達が駆け寄る……紫音もゆっくりと起き上がる彼女を見てほっと胸を撫で下ろす……

大きな怪我はしていない様だ。


「…?!ここは…カイル……カイル・アルヴァレルはどこだ?!」


 立ち上がると周囲を見回す…そこに彼の姿が無いことを悟ると泣きそうな顔になった。


「……なんて無茶な…!」


 イングリッドは魔道リングに耳をあて誰かと通話を始めた。


「はい……捕獲は失敗しました……はい……彼が対処しています……しかし!……はい……はい……解りました」


 通話を終えるとイングリッドは唇をかみ締めた……が、すぐにこちらに向き直ると指示を飛ばした。


「前田崎……全員を地下駅まで誘導しろ……西園寺…服部…槇村…お前達が全員の安全を確保しろ」

「………えっ?!俺?……あ…はい…服部です!!」

「…うっく………えっく……初めて名前呼んでもらえた……」


 何故か泣いているトリーとマキーを尻目に西園寺が一歩前に出た。


「……あいつがなにかやっとんのか?」

「……ああ」


あいつ……西園寺の言葉にそれがカイルの事だと理解できた。


「…………そうか……それは俺らでは手伝えんのか?」

「…無理だ」

「……そうか…おら!いくぞお前ら!」


  それだけ言うとトリーとマキーを蹴り上げ進んでいく……先日の一件以来何処か刺々しさが無くなって来た印象を受けるのは気のせいだろうか?

一部では女子の間で著しく低下した評価を地道に上げようと努力しているとの声もあった。


「イリュ…力を貸して欲しい」


イングリッドはイリューシャに向き直りそう告げた…イングリッドの顔は教師のそれではなかった……一人の男を想う女の顔であった。

……イリュは無言で頷く……それはイリュだからこそ理解できる想いであったのだから。

そのまま二人で駆け出す所で紫音が待ったをかけた。


「あの…私は?」

「…前田崎達とと避難しておけ」


そう言ったイリュの顔は普段の彼女ではなく、戦士の顔付きだった。








「……逃げられたか……」


 マトリーシェはつまらなさそうにその手を下ろした……まぁいい……本来の目的は目の前に居るのだから。





 あの挨拶の後、右手を緩やかに振り上げるとイングリッドの目の前に鋭利な無数の氷の槍が現れた……

無詠唱による『氷槍アイスランス』の攻撃を防ぐ術は無く、イングリッドは自身の死を覚悟した……が、

突き出された彼の腕がそれを許さなかった。

イングリッドと槍のほんの数センチの間の空間が歪みその中に槍は姿を消してゆく……と、同時に彼女の背後で激しい轟音と共に氷の槍が地面に突き立てられていた。

空間湾曲ディスコーション』により槍はイングリッドに当たること無くして、その軌道を全て逸らされた………

しかしその軌道上に晒されていたカイルの腕は幾ばくかの接触により鮮血を流していた……


「!カイ……」

「行け!……プランBだ」


 カイルに言葉を遮られた刹那、足元から浮遊感に包まれた……『ゲート』が開かれていた。

そのまま落下するようにゲートの中に落ち込んでゆく……

失敗した以上もう彼女が此処に留まる理由は存在しない……いや、あったとしても彼がそれを許さないだろう。


「…まて!貴様一人で…!!」


 ゲートに飲み込まれる瞬間に彼女の言葉に答えるように横顔を向けた……その顔は遊び場に向かう少年のような笑みを浮かべていた……




「……いきなり随分なご挨拶だな……古代の魔女さん」

「…やはり知っていたか……なぁに、二人きりでゆっくりと語り合いたいと思ってね……誰にも邪魔されずに」


 その言葉通りに周囲の気温が更に下がった……これが彼女の実力なのであろうか……これほどのものとは……


「光栄だね……こちらも気を引き締めていかないと……な」


腕を振るうと瞬時にその怪我は消え去った……それを見たマトリーシェが「ほぅ」と感心した様な声を漏らした。

その顔はカイル同様に新しいおもちゃを見つけた子供の様であった。







「紫音……どうする?」

「……どうするって言ったって……行こう」

「そう言うと思ったよ…ボクも行くよ」


 地下駅に全員を誘導した後、律子が声をかけてきた……どうすると聞かれても……答えなんか決まっている!

私の答えに律子も力強く頷いた……彼女も同じ気持だった様だ。

西園寺達の目を盗み再び上階に向かう……

私達が行った所でどうにもならないかも知れないが……アイリスをこのまま放って置くことは出来なかった。

廊下を曲がった先に人影を確認し咄嗟に身構えた…向こうも同じように腰の獲物に手をかけていた。


「?!アイリス?……いや…違う」

「む…アイリスの知人か?」


 その人物はアイリスと雰囲気が良く似ていた…が、髪は黒味がかっておりその容姿はアイリスとは正反対の騎士を連想させるものだった。

その人物の背後から陽気な声でアネモネが顔を出した……互いを紹介しお互いに警戒を解いた。


「……アイリスのお姉さん…ですか…」


ちらりとアネモネを見やる……同じ姉でもこうも違うと………


「…紫音…いま何か失礼な事考えてない?」

「……アイリスに何が起こっているのですか?」


妙にカンが良いアネモネの発言は無視してルミナスに問いかける……ルミナスは紫音と律子を見るとアネモネを見る……

頷く妹を見てこの二人が信頼に値するとの認識を得たようだ。


「…資料は見たのだな?……あの内容が今現実のものになろうとしているのだ…アイリスの中の魔女マトリーシェが目覚めその体も心も我が物にしようとしているのだ……」

「……止められるのですか?」

「……止めるのだ…その為に貴女方にも協力を仰いだのだ」


 そういってルミナスは歩き出す…紫音達もそれに続く……

この先は演習棟だ……しかしその姿は変わり果て、全てが凍りつく凍土の迷宮の様相をしていた。


「ところで……その『マトリーシェ』ってどんな魔女何ですか?」


私の問いに一瞬ルミナスが足を止めた……


「……そうか…そうだな…魔界では有名な御伽噺なのだが…こちらの世界では知る術も無いな……歩きながらでいいか?聞かせよう魔界に伝わる御伽噺を………」


再び歩き出した私達に ルミナスは静かに語り始める……




        『御伽噺 暗き森のマトリーシェ』





 本来は盆前に更新できたのですが……

文章を保存した携帯が突然フリーズしてしまい………

救出は不可能でした……泣


同じ文章を再び入力する作業はなかなかの労力ですね……

若干展開が変わってしまいましたが、この方が良いような気がします。



次回の更新は9月に入ってからの予定です

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