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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
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ハジマリノトキ3

「お前達…さっさと席に着け」


一人の女性が教室に颯爽と入ってきた。

此処2年B-7組 の担任 イングリッド・S・ウルガノフだった。

腰まである長い銀髪を二つに束ね、教壇の前に来ると、つり上がった眼鏡の縁を指で押し上げた。

その奥に輝く金の瞳は見る者を惹き付ける。

手にしていた分厚い本を教壇に叩き付けた。


「お前達は私の言葉を理解出来ないのか?席につけ!二度も言わせるな!」


 見た目からは想像出来ない様なキツイ言葉が飛び出す……その名前にあるように「ド・S」な口調なのである。

が本人はこれが普通の話し方であり、もちろん悪気は一切無い。

この世界に来て初めて言語を習った際に不手際が生じた・・・らしい。

魔界屈指の魔導師を代々産み出してきたウルガノフ家の次期当主だ。

ちなみに彼女の名前のある『S』は正式名称でのみ使用する為 発音はしないらしい。


さて…このクラスの男子はこのB-7組に入れた事を 誇りに思うらしい。

その理由はこのイングリッド先生らしい。

全学年の全クラスにおいて天界や魔界からの派遣教師はそう多くない。

さらにその中でも若く美しい教師など僅かであった。

そうなのだ イングリッドは若く美しい教師なのだ。


次期当主と聞いて 皆むさ苦しいおっさんを想像していたらしい。

魔界の貴族でありながら地位や権力などには興味を見せないその立ち振舞いは男子生徒だけでなく女子生徒にも受け入れられた。

その見事なプロポーションにもかかわらず 終日ジャージで過ごす事が彼女の信念であるらしい。

こちらの世界に来て間もない頃にジャージと出会ってしまいその機能性と簡便性に衝撃をうけたらしい。

魔界の貴族ともなるとそれ相応の格好を求められてしまう。

それ以来彼女は一日中ジャージ姿で過ごせる職業を探し教師を選んだ……と聞く。

初めてこの先生と話したときは正直紫音は泣きそうになった……いや 泣いた。


「貴様が転校生か?少し顔の作りが良いだけの下等生物め!私のクラスに入ることを後悔させてやるぞ!」


転校初日にガクガクブルブルしていた私に先生の言葉を通訳(?)してくれたのがイリュだったのだ。

先生のキツイ言葉はその逆の意味である事本当はやさしい先生である事…ドSなんて言われてるけど本当は少しMっ気がある事などを教えてくれた。

このクラスも新学期初日は全員が鬱になってしまいそうな位の状態だったらしい。

校長の取り計らいでイングリッドの誤解も解け今ではこのキツイ言葉にも「は~い」と笑顔で応えることが出来るくらいに打ち解けている。

中には身悶える者もいるとかいないとか……


「ようし!貴様達!いよいよ 『全学級対抗魔術選抜大会』が開催される事となった!このイングリッドの担当するクラスである以上は敗北は許されない!……しかし だ!貴様達虫けらのような連中では予選突破すら出来ないだろう!……そこで これより 私自らが魔術についての何たるかを貴様達に教鞭を振るってやる………光栄に思うが良い!」


ばしばしと教壇の上の本を叩く……一部生徒から『おおっ』と、どよめきがあがる。

 担任なんだから教えるのは当たり前………教えてないのですか?!

「やべえ…ついにイングリッド先生の授業が受けられるのか…」

「生きてて良かった!!神様!感謝します!」


などと 男子生徒が色めき立った。

…授業…進んでないんだ……何だかいつもプリントや心構えについてとかの講義してると思ってたんだ……あと先生魔族だから神様に感謝したらまずいでしょ?

などと考えてると前からプリントが回ってきた。

ちなみに私は最左列の最後尾…イリュ曰く『転校生の席』にいる…前の席はイリュだったりする。


「…めんどいなぁ」


プリントを渡す際にイリュがそうもらした。

…ふむふむ・・確かに……魔法初期講座から技術講座 魔法戦術講座 魔法実践実習……普通の授業は無いのですか?

今日からのすべての授業時間が魔法に関するものばかりだった。


「先生…普通の授業は無いのですか?」


そう質問したのは萌え田崎…いや 律子だった。


「うむ 無い」


 先生即答


「いいか 貴様達!これは全学年対象の決定事項だ!これは大会と称しているが 貴様達の魔眼を良く知るためのものでもある。世間からは魔眼はクズの様な扱いを受けてはいるが 使い方さえ誤らなければ人命救助や大きな助けとなる場合が多い。本来魔法とはそういうものだからな…十分に理解 認識していない者が馬鹿な低級悪魔や腐れ堕天使にそそのかされて「チャームド」などになってしまう…これを機会に魔法 魔眼に対する認識を私が生まれてきたことを後悔するほど 親切!丁寧にその体の隅々まで叩き込んでやろう!・・・しかし 大会である以上は優勝以外は認めないからな!」


 ビシイ!と効果音がつきそうな位のポーズで生徒達を指差した。

…ありがたい事を言われている気はするのだが……学園の思惑よりも先生の思惑が強く感じるのは何故だろうか?…いや 気のせいに違いない・・・


「…優勝出来なかった時は……判っているな?貴様達」


眼鏡の奥の金の瞳が怪しく輝いた……数人の生徒が失神したようだ……貴女…ホントに教師かよ……



「言い忘れていたが 最近市外で不振な爆発騒ぎが起きてるから巻き込まれるなよ。貴様達は無能だから被害に会いそうで心配ではあるがな!あははははははは!」


……心配されてる? ちなみに最後には『この中に犯人がいたら覚悟しとけ』ともおっしゃいました。



    **********





「…疲れた……」


 午前の授業が終わり 昼食時 私は机に突っ伏した。

イングリッドの授業は完全魔法主義の魔法による魔法のための魔法講座だった。

いやいやいやいやこんなの普通の高校生には理解できませんよ?


『火属性の下級魔法(火球:ファイアボール)を対象に着弾と同時に土属性の下級魔法(防御壁:シールド)で対象を閉じ込めた場合 内部の火力は二乗の効果が得られる。では結界内部で核爆発に匹敵する熱量を生み出すには、ファイアボールが何発必要か』……とか 


『敵から情報を聞き出すために有効な魔法は・

A:土属性 中級魔法(棘姫:ニードルバインド)(土中から発生した棘によって対象を拘束する。追加効果:毒 麻痺 上級術者になれば即死効果を付与可能)

B:水属性中級魔法(氷足枷:アイススレイブ)(対象の任意の部分(主に手足)を凍結 四肢を封じる 上級者になれば形状を変化させ 小さな槍の様に変化させ手足を地面に縫い付ける事も可能)

C:風属性低級魔法(雷縛:ライオットスタン)(瞬間的に雷撃を発生させ対象を感電させる(スタンガンの原理))』

とか……物騒な問題しかないじゃないか!!もうこれは授業ではない……訓練だ!

そんな私の目の前に突然ジュースが置かれた。

……びっくりした……あぶないあぶない…念の為顔を伏せたままおかえりと言う。

購買でパンを買ってきてくれたイリュだった。

彼女はたまに 「朝飯のお礼」と昼にパンを買ってくれる……別にいいのに…


「しかし 先生にも参ったものだね……」


隣の席に移動してきた律子がそう言った。

ついでにご一緒しても?と言われたので快諾した。

彼女は弁当持参派の様だ。


「そうそう 趣旨を履き違えてるな」


イリュもうなずいてパンにかぶりつく……「丸ごと高野豆腐」…なかなか渋いチョイスですね、できれば別々にお会いしたかった……


「午後の実習……やな予感するなあ…」


イリュ1個目完食…2個目「クリームぜんざいパン」……うわああああ 何故クリーム? 普通あんぱんでしょ?!

とゆうか…イリュ食べるの早いわね……私なんて高野豆腐の汁に悪戦苦闘してるのに……イリュは何故か変り種のパンを買うことが多い。

 普通のパンは食べ飽きたからだと言う…変り種すぎじゃね?と思ってしまうがここはぐっと飲み込む。


「……そうね…ボクとしても出来れば、魔法は余り使いたくないな……」


そう言ったのは律子だった。

…意外だ…何でも出来そうな感じなんだけど、苦手なものもあるのか……


「……そうか 紫音は知らなかったっけ ボクの魔眼特性は(博識)の魔学……魔眼は「ブラック教典(バイブル」属性は…闇」


私の疑問を感じ取ったのか律子がそう告げた。

……ん?…属性闇?


「うん…ボクは人間と魔族のハーフなんだ」


 律子は気にする風でもなくさらっとそう言った。

実際、魔族・神族とのハーフは多いだがその多くはそれぞれの能力を引き継ぐ可能性は低い。

人間界で生まれる為人間のDNAが勝る…とゆうのが一般論らしいが細かい事はわかってはいない。

…主な遺伝としては律子のような魔眼を遺伝しその多くは知能レベルを引き上げる(魔学)か身体能力を向上させる(魔闘)を発現させる者が大多数だった。

その中でもまれに魔眼を受け継ぐ者も現れる。

律子は後者の様だ…ということは……ナチュラルの闇属性か……理論上では魔族と同じレベルだが体が人間の為きっと力はあまり発現できないのだろう。


「へえ~そうなんだ」


 私は余り気にしない風に返事をしておく……こういった特殊な魔眼保持者は相手がどう思うか非常に気にする部分が強い。

だからそれが普通であるように振舞うのが一番良い。

そんな私の意図が通じたのか、律子は笑みを浮かべた……だから私も笑み返した。


「ホント 紫音とは仲良く慣れそうだね…イリュが惚れ込むのも少し解る気がするよ…」

「でしょでしょ?でも紫音は私のだからダメよ!」

「…いやイリュの物になった覚えは無いけど…」


律子はそのクールな見た目から想像できないくらいの笑みを浮かべた……成る程……これは萌えちゃうかもね。


しかし紫音が『萌え田崎』の真の意味を理解するのは後日のことであった。


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